SAHARA 砂漠 2
「何かは知らんが、取りあえず処刑しとけ」
間髪を入れずハーヴェルはそう答えた。
「は……」
ナバートがポカンとした表情で見る。
「いえ、経緯を説明すると」
「ああ」とハーヴェルは説明を促した。
説明されたところで、おそらく同じ意見に落ち着くと思うが。
ナバートがわざわざ知らせにまで来るということは、十中八九、王家絡みの問題を起こしたか、違法行為で拘束されたかだろう。
知らせることないのにな、と内心思いハーヴェルは眉を寄せた。
「だいぶ前に合成金属を何種類か取り寄せたらしいのですが、そのうちのいくつかが敵国に当たる領地経由のものだったので、スパイ容疑がかかっていて」
ナバートがそう話を続ける。
魔女にしては案外まともな容疑だなとハーヴェルは思った。
また王家の墓所荒らしか、使役する死体の違法な売り付け方でもやったかと予想を付けていたのだが、そこは外れたかと呑気に思う。
カルツァ・クライン粒子を防ぐための設備を家の中に作っていた際、確かに怪しそうな材料があったことを思い出した。
別に正規のルートでも必要な物は手に入ったと思うが、可愛いだの安いだので平気で面倒臭いルートに手を出したのだろう。
「外国出身の方なので、少々身元の証明に手間が要るというか」
そわそわとナバートは外を眺めた。
「証明の必要があるか。処刑が無理なら、梱包してエトルリアに着払いで送り付けろ」
「アンジェリカ殿の話ですよ?」
ナバートが眉を寄せる。
「俺もそのつもりだ」
ハーヴェルはゆっくりと腕を組んだ。
玄関付近をたまたま通りかかった弟子に、ナバートが目線を移す。
「すみません……こちらへ」
ハーヴェルの腕を引くと、ナバートはそそくさと玄関の外に連れ出した。
腕を引かれながら、手にしていた日除け布を片手で雑に被る。
別棟の建物や大型の実験機材で玄関先の日射はかなり遮られているが、それでも屋外を照らす陽光はきつい。
「出来れば、砂漠の方へ」
両腕でがっちりと腕を組んだ格好で、ナバートは耳元に顔を寄せた。
「機密事項でも話すのか」
さりげなく顔を真横に逸らし、ハーヴェルは顔を顰めた。
「そりゃ……機密事項ですよ」
ナバートが声を潜める。
「あの魔女の容疑とどう関係する」
「しますよ。あなたならすぐに分かると思ったのですが」
察しの悪さを咎めるような口調でナバートが言う。
促されるままハーヴェルは駱駝が繋がれた場所に付いて行った。
慣れた動きでナバートが駱駝に乗る。
「乗ってください」
そう言い、こちらに手を伸ばした。
駱駝の背に揺られ、幾何学模様で彩られた城門を抜けて砂漠地帯に差し掛かる。
照らしてくる陽光は強く、目や素肌には極めてきつい。
ハーヴェルは、日除け布の端を引っ張り顔の上に翳した。
ナバートの小柄な背が揺れるのを眺めつつ、駱駝の足が砂を踏む音に耳を傾ける。
城門が遠くに小さく見える辺りまで来ると、ナバートは振り返った。
「ここなら聞き耳を立てられることも無いか」
そう呟き、砂の山の影で駱駝の歩を止める。
「国同士のトップ会談並みだな。何があった」
ハーヴェルは顔を歪めた。
「アンジェリカ殿がスパイ容疑ですよ? 今のところはまだ拘束というより、事情を聞かれている段階のようですが」
「その段階か。間違っても茶なんか出すなよ」
日除け布を顔の方に引っ張りつつ、ハーヴェルは眉を寄せた。
「事情を聞いている部隊の者にそれとなく聞いたところ、お茶をお出ししたそうですが、ご本人が果汁の飲み物が飲みたいと言うので、改めてマンゴーの果汁をお出ししたそうです」
「……なに持て成してんだ」
ハーヴェルは舌打ちした。
「アンジェリカ殿への取り調べから、例の死体の間者の話に辿り着かれないかと」
そうナバートが続ける。
ハーヴェルは、僅かに目を見開いた。
「……早く言え」
顔を顰める。
「すぐ気付くと思いましたよ」
もう一度舌打ちをして、ハーヴェルは城壁の方を振り返った。
「こんな所で話してる場合か。さっさと口封じに魔女を狙撃して来い」
「冗談を言っている場合ですか」
呆れたような顔でナバートが言う。
何が冗談だ。本気だとハーヴェルは内心で返した。
「カリルは何て言ってる」
「商売人としては出来た人のようなので、おそらく依頼人の秘密は、調べられても漏れないように処置しているのではないかと」
ハーヴェルは日除け布を片手で押さえた。遠くの幾何学模様の施された城門を眺める。
商売には執着のある奴だ。
そういう可能性はあるかもしれないが。
「カリルも立場的に取り調べをやめろとは言えんしな」
「そこでなんですが」
ナバートが口を開いた。




