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ネオ・ウルガータ ~次元のアルケミスト~  作者: 路明(ロア)
VI 人工転生という案

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HAYTH LILIQA' SAHARA 遭遇の場 砂漠 3

「そんな次元の話まで行くと、何らかの存在があったとしても意思の疎通なんか無理そうだが」

 ドレッド状の髪を掻き上げ、ハーヴェルはそう呟いた。

 ふと手を止める。

「……フェリヤールのあの話の通じなさは、そういうことじゃねえだろうな、おい」

 いや。

 ざっくりとした価値観は、

 そう乖離していないと

 思うが。

 ユーセフは苦笑した。斜め下を向き、また何か操作しているようだ。 

「五次元の文明社会ってのはまだ「霊界」の話で想像つけられたが、それ以上の次元となると」

 そこまで言い、ハーヴェルはひらひらと手を振る。

「悪い。確かにあんたの言う通り、横道に逸れた話だったかもな」

 いずれにしろ、

 フェリヤールは、

 三次元の方で

 引き受けて

 くれるのだろう?

 斜め下を向いたままユーセフがそう問う。

「引き受けるが、こちらは三次元の理屈でしか動けないからな。いくら別の次元のことを知ったとしても」

 そうハーヴェルは言った。

「こちらに最終的な解決をしろと言うなら、三次元の物理法則に従って解決するしかない」

 今のところ、

 アイディアは。

「ある」

 ハーヴェルは言った。

「俺もお前も、フェリヤールとは二度とコンタクト出来なくなる可能性が高いが」

 ユーセフは黙っていた。

 相変わらず斜め下の方を向いたまま、引き続き何かを操作している。

 その

 アイディアの

 内容を、

 伺ってもいいか。

 そう言ったきり黙って下を向くユーセフを、ハーヴェルは暫く眺めていた。

 違う次元の人間だ。ここまでは案外気のいい常識的な奴に見えていたが、人柄の判断の基準が、こちらの感覚の範囲内という確証はない。

 思わぬ妨害をするかもしれないと疑う余地は残しておくべきだろうか。そう思いつつも口を開く。

「まだアイディアだけの段階だ」

 ハーヴェルはそう切り出した。

 分かった。

 ユーセフが下を向いたまま、軽く頷く。

「こちらの人間が、主に水分と蛋白(たんぱく)質からなる肉体と、カルツァ・クライン粒子の「魂魄」がワンセットで生存状態だというのは前に説明したな」

 ユーセフは小さく頷いた。

「生存している間は、カルツァ・クライン粒子が脳細胞内のマイクロチューブル内に(とど)まってるが、絶命すると同時に粒子が放出される」

 少し、風が出てきた。夜の砂漠を吹き抜ける冷たい風が、ほんのりと頬を撫でる。

「放出されたカルツァ・クライン粒子は、まだ粒子の入っていない他の肉体と遭遇すると、その肉体の脳細胞内に入って(とど)まる」

 ハーヴェルはゆっくりと腕を組んだ。

「これを一般的には、転生と言っている」

 何の感情も表さずユーセフは聞いていた。

「どういう作用か、記憶の大部分が引き出せなくなるのが普通だが、最低限の情報は引き継がれて今度は別の肉体で生存の状態になる」

 ユーセフは黙っていた。何と言って良いのかと困惑しているようにも見える。

「ここまで理解はいいか?」

 反応に手応えの無さを感じて、ハーヴェルは尋ねた。

 何というか……。

 こちらの

 生存状態というものとは、

 概念が

 違い過ぎて。

 ユーセフはそう言い苦笑した。米噛みに手を当て眉を寄せる。

 多分、

 理解は

 出来たと思うが。 

 そういう話をすると、

 やはり君は

 学者なのだなと思う。

「教える側になったことは無いんで、同業者以外に説明するのは苦手なんだが」

 ハーヴェルは言った。

「なるべく噛み砕いてはいるつもりだ」

 気のせいかユーセフは少々複雑な表情をした。

「早い話、人工的にその転生を行うってのが今のところ出てる案だ」

 ユーセフは、おもむろに(あご)に手を当てた。こちらをじっと見る。

 聞いた説明と既存の知識とを照らし合わせて何とか理解しようとしているのか。

「フェリヤールを「魂魄」に近い物質に変換させて、三次元で転生を繰り返せるようにする」

 ……成功率は?

 かなり時間を置いてからユーセフがそう尋ねる。

「分からん。過去の記録を調べてはいるが、多分前例はない」

 失敗した場合の、

 リスクは?

「不明」

 ハーヴェルはそう答えた。無言でユーセフが目を伏せる。

 そんな無責任な話があるかと激高される展開まで想像したが、そういった反応は無く、ユーセフはただ無言で宙を眺めた。

「出来うる限りの前列は調べているが、それに特化した装置があった記録すら無いとなると、確実なことは言えん」

 あなたは、

 完璧な

 確証が無ければ、

 大丈夫とは

 言わない(たち)か。

 宙を眺めたままユーセフがそう問いかける。

「ものによる」

 ハーヴェルは答えた。

「機械の修理なら概ね大丈夫くらいのことは伝えるが、医者の仕事の場合は確実なんて言葉は使わん」

 ならば、

 信用できる。

 ユーセフは静かな声でそう言った。

「いきなり信用するな、あんた……」

 ハーヴェルは困惑した。

「それともそう言われれば、大抵の人間は手を抜けないと踏んでの台詞か?」

 そんな

 込み入った手は、

 使ったことないよ。

 部隊の窓口程度は

 務めているが、

 交渉官では

 ないからな。

 ユーセフが、は、と息を吐くようにして笑む。

 いずれにしろ、

 あなたは、

 フェリヤールに対して

 悪いようには

 しないと思う。

 穏やかに話す別次元の軍人の顔を、ハーヴェルはじっと見ていた。

 言いたいことを極限まで抑えての台詞なんだろうと想像する。

 フェリヤールとの関係性を考えたら、不安な気持ちの一つや二つ吐露したくなるだろうと思うが。



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