04-2.再び【ディアコペス】へ
「やってるやってる」
奏が言った通り、酒屋兼食堂__もといディアコペスは大盛況だった。
「おはよーございます、マスター。あ、ギルさんも」
玲音がそう言いながら横を向くと、昨日と同じ席にギルが座っていた。
「いらっしゃい」
「おー、昨日ぶり」
「マスター。私このコッケィの目玉焼き乗せトーストの醤油味」
王兎がメニューを見ながら言う。メニューは時間帯によって変えているらしく、昨日とは違うものだった。
「じゃ、我はそれの塩で」
「俺ケチャップ」
奏と玲音もそれに乗っかるようにして注文する。マスターはそれに頷くと厨房に消えていった。
「塩は分かるが……目玉焼きにケチャップなぁ」
「なんすか。美味いじゃないですか、目玉焼きにケチャップ」
ぼそりと呟いたギルの言葉に奏は噛みつく。
「俺は醤油派だからそこの王兎っつう嬢ちゃんと気が合うな」
「醤油とか面白みないですね」
「ケチャップとか邪道すぎるだろ」
「そんな一生決着つかない論争はやめてくれ」
玲音によって論争を止められたギルは、楽しそうに笑いながら三人に問いかける。
「で、どうよ。何かクエストは見つけたのか?」
奏が頷く。
「ざっくり言うと、【月夜の音楽隊】の確保……ですかね」
その言葉にギルは驚いたような顔を見せた。
「そりゃあまた、大きく出たもんだな。【月夜の音楽隊】と言や、この街の官憲でも正体を掴めず、冒険者にクエストとして出したが未だに解決できてない時間だぜ」
今度は一行が驚く番だった。
「そんなにヤバい事件だったんですか。我たちは宿屋で出会った子に頼まれて……これから洞窟を調べに行くところなんです」
「なんで洞窟なのかは分からねぇが……ちょっとぐらい手伝えるかも知れねぇな。どこの洞窟だ?」
「えっと……西のカルディラ山洞窟群と、北のリミュレア山の麓と中腹あたりにある洞窟を調べようと思ってます」
玲音の応えにギルは頷くと席を立ち、テーブル席にいる男性集団のところに行った。
席から立つときにギルの言った「冷めないうちに食べな」という言葉に甘え、玲音もトーストを頬張る。
コッケィの目玉焼きは熱く、横の王兎は火傷しかけていた。
「ん゛ん゛っ。鈴ちゃん、助けて」
「いや、我にどうしろと……」
見かねたマスターが水を渡してくれた。
王兎はそれを飲み干し、落ち着く。
「はぁー、死ぬかと思った」
「お前ら本当に見てて飽きねぇな」
そう言って笑いながら戻ってきたギルの視線の先を見ると、奏が皿にうずたかく積まれたトーストを平らげている最中だった。
「こわ、胃がブラックホールなんか」
「あれで太らへんのが腹立つよな」
玲音が呆れながら言う。確かに、奏は細身でスラっとしている。
そんな奴が朝からこんな大量に食べるなんて誰が思うだろうか。
「食べなお腹空くからさ」
「それは散々聞いたからもう好きなだけ食べて」
二人の会話にギルは小さく笑い、玲音にテーブル席の男性陣から聞いたことを伝える。
「そんでな、嬢ちゃん。カルディラ山洞窟群は盗賊の隠れ家が多いから街の官憲が毎日パトロールしてるんだが、盗賊がいっぱいいるぐらいで特に変わったことはないってそこの奴が」
そう言って親指で指し示したのはテーブル席に座っている一人の男性。
「官憲って警察?」
「うん。そんなんも来るねんな、ここ」
「てか盗賊がいっぱいいるって十分おかしくない?」
「はは、そこに触れたらお終いだ」
王兎の言葉にギルは困ったように苦笑いする。
「んで、リミュレア山の方は今日俺が狩りに行く予定だからついでに連れてってやる」
何から何まで、とはこのことではないか。
ギルは昨日出会ったばかりの一行の為に色々やってくれる。
「「ありがとうございます」」
玲音と王兎は礼を言って頭を下げた。
「ありがとうございます。でも、何でこんなに色々してくれるんですか」
奏の声に横を向く。皿に積まれていたトーストは残り一枚になっていた。
「いや、俺はただお前らが面白そうだから……」
奏の問いにギルが言葉を濁しながら曖昧に応える。
いまいち呑み込めずに三人が首を傾げていると、カウンターからマスターの奥さんが話しかけてきた。
「その人ね、意外と優しいのよ。それに、極度の子ども好き」
厨房の方を見るとマスターが忙しそうに料理していた。なるほど、交代したのか。
「ちょっ、その言い方は語弊があるぞ?!」
ギルが慌てて言葉を遮ろうとするが、もう遅い。
三人はニヨニヨと意地の悪い笑みでギルを見る。
「へぇ……ギルさん強面やのに子ども好きなんやぁ」
「意外なギャップ」
「私らも子どもと言えば子どもだしね」
言いたい放題いじり始める。
「だからバレたくなかったんだよ! ……まぁ、面白い奴ってのもれっきとした理由だからな」
顔を赤くして言うギルの声も聞こえていないのか、三人はギルを揶揄い続ける。
「あーもう、お前ら‼︎ そんなこと言ってるなら連れてってやんねーぞ!」
「「すいませんやめます」」
凄い変わり身の速さだ。
その様子にギルは嘆息するとカウンターに代金を置き、「ほら、行くぞ」と声をかけた。
奏は残り一枚のトーストを詰め込み、王兎と玲音は奏の分も含めた代金を払ってからギルの後を追いかけて店を出た。
「街の門のところに竜車を待機させてある。竜は赤色で小型だ」
ギルは竜車で移動をしているらしい。
「そういやお前ら冒険者ギルドには行ってるんだよな?」
「あ、そういえば行ってないですね」
言われてみればそうだ。
こっちの世界に来てから一日、なんやかんやあって冒険者なのにまだ冒険者ギルドに行っていない。
「なら先そっちに行ったほうが良いんじゃないか? 一応【月夜の音楽隊】はクエスト案件だったはずだし」
「あー、そうですね」
「ギルドはこの大通り真っ直ぐ行った先にある」
おそらく、ぼんやりと見えている大きな建物がそれだろう。
「終わったら、街の門にある俺の竜車のところに来てくれ」
「了解です、ありがとうございます!」
いやもうほんとにごめんなさいでした。
これは四話の続きです。
次話投稿のときには四話にくっつけてます。
五話は金曜に投稿予定です。
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