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04.情報収集と冒険ギルド

「んー」


 大きく伸びをして玲音は起き上がる。

 窓から見える空はまだ薄暗く、外からの物音は朝食の忙しく動く宿屋の人のものくらいだ。


「よし」


 二度寝したくなったが気合を入れて立ち上がり、冷たい流水で顔を洗う。

 そのまま顔を上げ、鏡を見るとそこには昨日の朝と全く変わらない自分の顔が映っていて、玲音は苦笑した。


(夢じゃない、か)


 昨日と同じ、だが気慣れない服を四苦八苦しながら着て上からマントを羽織る。

 そして仕上げに、と緩く癖のついた髪を少し高い位置で一つに纏めた。


「さてと。集合は7時やったな。今は5時半やから……1時間半あるんかぁ。……ロビーで時間潰そ」


 壁に掛かった時計を眺めながら思案顔で呟いた玲音は荷物を持って部屋を出た。


「ふんふーんふんふん」


 小さく鼻歌を歌いながら、人のいないロビーにあるソファに腰を下ろす。杖をそばに立てかけ、魔術書を開いた。

 とはいえ、特にすることもないため「どうしたものか」と辺りを見回していると、昨日出会ったばかりの少年が中庭に居るのを見つけた。ロイだ。


「子供が起きるには早すぎひんかなぁ。親はどうしたんやろ」


 首を傾げながら玲音は呟く。

 まだ少し肌寒く、宿の寝巻きで外を歩くのは不安だ。それに加えてロイは色白のため、より一層不安になる。

 玲音はロビーから中庭に通ずる扉を開けると


「ロイくん」


早朝のため少し声を抑えて。だがはっきりと聞こえる声でロイを呼んだ。

 突然名前を呼ばれたロイはびくっと肩を跳ねさせ、恐る恐る振り返って首を傾げる。

 おいでおいで、と玲音が手招きすると頷き、小走りで寄ってきた。


「どうしましたか?」


 玲音の前で足を止め、ロイはそう尋ねる。


「特に用は無いんやけど……こんな朝っぱらからどうしたん? そんな薄着で外出たら風邪引くで」


 玲音が扉を押さえたまま中のソファを指し示すとロイは大人しく中に入り、レインの座っていたソファの対面にちょこんと座った。

 玲音も扉を閉め、座っていたソファに腰掛ける。


「んで、なんで外に居たん?」


 玲音の問いにロイはこくりと首を動かし、話し始めた。


「全然眠れなくて……。ルカが無事か心配なんです。最近お母さんが夜中に泣いていることが多くなって、お父さんも敢えてそれに触れてないみたいで」


 ああ、と玲音は納得する。この子は優しすぎるのだ、と。

 それが故に人の感情に敏感すぎて、相手の負った傷を自分でも負ってしまうのだ。

 だが、その優しさは、


(我には到底理解出来ひんなぁ)


 玲音はそう思う。


「部屋でじっとしてても悪いことばかり考えちゃうので、外に出てました」


 そこで言葉を切ったロイに対し、玲音は中庭で感じた違和感について尋ねる。


「ロイくん。さっき中庭で何してたん?」


 先程までと全く変わらない口調。が、ロイの顔が少し強張った。


「ただの、散歩です」

「ロイくんの近くを飛んでた鳥、あれは不自然やったな。ロイくんから一定の範囲内にいたし、我が呼んでも暫く離れんかったよね」


 玲音の追求にロイは観念したように息を吐いた。


「僕、動物に懐かれやすいんです。動物の声が聞こえるから。あと、人の声も少しだけ」


 そう言ってロイは、気持ち悪いですよね、と自嘲するように付け加える。

 ふむ、と玲音は少し考える。


(“話せる”じゃなくて“聞こえる”って言ったな。というか、人の心だけやなくて動物の心にまで共感出来るんか。話せないのは多分、この子の大人しくて控えめな性格に基づいた能力やからかな)


「気持ち悪い、とは思わんけど特殊じゃないかな? 因みに、我たちの声も聞こえてた?」


 ロイは首を振った。


「ごめんなさい。お姉ちゃんたちのはわからなかったです」

「いや、謝ることじゃないんやけどね」


 そう言いながらバレないように安堵の溜息を漏らした。

 こちらの思考が読まれていたら少し不都合なことになるかもしれないし、何よりこの少年を下手に不安にさせたくなかった。


「はよ。風見……とロイくん」

「ああ、早瀬か。おは」

「おはようございます」


 奏は玲音の隣にいるロイに少し驚くが、何事もなかったように声をかけた。


「お前がきたってことはそろそろ7時か。ロイくん送らななぁ」

「左近は? まだ寝てるんか」


 椅子から立ち上がった玲音にならい、ロイも立ち上がる。


「ネメちゃん起こしに行ってついでにロイくん送るか」

「ロイくん部屋どこ?」

「238号室です」


 238号室は王兎の部屋から七つ右に行ったところだ。


「ロイくん朝早いな。寝坊してるやつもいるのに」

「そんなことないですよ。オレンジの髪のお姉ちゃんもちょっと疲れてただけですって」


 奏の言葉にロイは笑いながら返す。

 その反応につられて笑いながら、奏は少し前から気になっていたことを聞いてみた。


「ロイくんは朝から玲音と何話してたん?」


 冗談めかして「あの人ショタコンだから気をつけてな」と付け加えると案の定、前を歩いていた玲音が振り向く。


「ロイくんに変なこと吹き込まんといてください〜」


 奏の隣でロイは不思議そうにしている。


「気にしなくて良いよ。で、風見と何してたん?」


 再度尋ねた奏にロイは一瞬口籠るがすぐに口を開け、


「僕が動物の声を聞けたり、人の心の声が聞こえたりするっていう話です」


と言った。


「そうか……」


 奏はそう応えながらロイの表情を見、その能力について思考を巡らせる。


(聞こえるだけで話せないのは性格に基づいているからか? もっと得意げに話しても良いと思うけど……まぁ心読まれて嬉しい奴なんて居ないから賢明な判断か)


 隣のロイを見下ろし、「苦労してんだな」と呟く。

 少し勿体無い気もするが、彼には自分の能力を活用したいなんて思えないのだろう。


「245号室……ここやな、ネメちゃんの部屋」


 部屋番号を確認し、玲音は何故かすぅ、と大きく息を吸い、


「おーい。ネメちゃーん」


 王兎の部屋の扉をノック__というよりは叩きながら声をかける。


「ネメちゃーん。起きてるー? おーい、ネメさーん」


 近くの部屋から苦情が来そうなくらい大きな音だが、中からの返事はない。


「左近ー? ロイくん困ってるから早よ起きろー」


 扉を叩きながらそう言う奏の横ではロイも扉に向かって


「お姉ちゃん、朝です。起きてください」


と、小さい声で言っていた。


   ※


「うるさいなぁ。起きてたよ」


 数分後、玲音と奏が力尽きそうになっていると、王兎が不機嫌そうに言いながら出てきた。

 しっかり身だしなみを整えているとはいえ遅すぎるのは二度寝したからだろう。


「ああ、ネメちゃん。おはよう……」

「左近、起きるの遅い……」

「おはようございます」

「マジでロイくん居たんだね」


 王兎はそう言ってから二人の方を向き、真顔で問う。


「何? 拉致?」

「拉致も誘拐もしてない?!」

「でもな……怪しい……」


 尚も食い下がる王兎に奏はこう言う。


「今からロイくん親のとこに送るんだけど」

「分かった。とりあえずロイくん誘拐の件は保留にしてやろう」


 王兎は頷いて早く行くように促す。


「はい!」


 ロイは王兎の言葉に微笑してそう返すと、「誘拐してないけど」とぶつぶつ呟きながらも歩きだしている奏の横についた。

 その様子を横目に、玲音は王兎に耳打ちした。


「ロイくんな、動物の声と人の心の声が聞こえるらしいで」

「話せる、じゃなくて聞こえるって言ったのは意図的やんな」


 王兎は呟いて思案顔になる。


「やっぱり、性格的なあれ?」


 会話を聞いていたのか、奏が少し身を引いて問いかけてくる。

 玲音はロイに聞こえていないか、視線を下げて確認し、苦笑した。


「やっぱり考えたことは似てるな。多分、そうやと思う」


 そう言ってもう一度ロイに視線をやると


「お母さん!」


 少年はそう言いながら駆け出していた。

 その先には優しそうな女性。


「ロイ!」


 女性もロイの声に気づくとしゃがんで手を広げ、走ってきた少年を迎える。


「貴方まで居なくなったのかと……。どこに行っていたの、お父さんも心配していたのよ」


 女性がそう言っていると238号室の扉が開き、男性が出てきた。


「今ロイの声が聞こえた気がしたんだが……ロイ?!」

「心配かけてごめんなさい。ちょっと中庭で散歩してたんです」


 目の前で家族愛溢れる感動の光景を繰り広げられていた一行は困ったように顔を見合わせた。


「なんていうかなぁ……この空気は、なぁ?」

「ほら、こそばゆいというか」

「我たちには似合わんというかなぁ……あ」


 そわそわしながら言い合っていたら、玲音が何かに気づいたように固まった。


「何? 鈴ちゃん」

 

 王兎が問いかける。と、奏はにやにやと笑いながら玲音を揶揄ってきた。


「風見が『あ』って言うときは大抵ロクなこと無いんよな」

「いや、違うねん! あの女の人、街でお前がどこにいるかきいた人やねん」


 玲音が必死に弁明していると、女性が三人のもとに近づいてきた。


「あの、ロイがお世話になりました……あれ?」


 女性は王兎と玲音を見てそう声をあげる。どうやら、玲音の記憶は間違っていなかったようだ。


「あの時の……本っ当にありがとうございました」

「いえ。こちらこそ、貴女のおかげで早瀬を見つけられましたので」


 と、玲音がいつもの関西弁口調を封印してロイの母親と話していると、後ろで奏と王兎がひそひそと話していた。


「みて、鈴ちゃんがちゃんとしてる」

「風見あんなん出来たのか」


 風見がそれに気付いて反論しようとしていると、ロイが母親のふくをちょいと引っ張った。


「お母さん、お兄ちゃんたちがルカを探してくれるらしいです」


 少年の言葉に一行は深く頷く。


「そのために、ルカちゃんの特徴をきいても良いですか?」

「本当に何から何まで……ルカはこの子と同じ栗色の髪を低い位置で括っています。目はロイの藍色と違って紅色です。性格もこの子と正反対で活発で、隙あらば動きまわっているような子です。……あの、こんなので良いんでしょうか?」


 玲音がメモに走り書きしていく。最後、不安そうに尋ねてきた相手に王兎は軽く頷いた。


「はい。ありがとうございます」


 奏はロイの頭を撫でると


「ロイくん、月夜の音楽隊が消えたっていう噂聞いたら広場の噴水まで来てくれ」


笑みながらそう言い、ロイの両親に会釈して宿屋出入り口に向かった。

 王兎と玲音も挨拶をし、ロイに手を振ってから奏の後を追った。

4444文字でした。あらま。


この話はまだ続きがあるんですけど、続きをこっちに移してたら間に合いそうにないのでまた土曜か日曜に投稿します。

こんな変な時間に投稿してますし、本当に申し訳ない。

分かりやすいように続きは分けて投稿しますね。


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