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03.【月夜の音楽隊】と少年

 中央広場の噴水前。

 王兎(おうと)玲音(れいん)の2人は(かなた)を待っていた。


「異世界ものの小説って大体中央広場に噴水あるよな」

「あー、確かにRPGとかでもあるなぁ……というか早瀬(はやせ)遅くない?」

「あ、来たで」

「ほんまや……ってあいつ何背負ってんの? 鉄球?」


 手を振りながら駆けてくる奏の姿を見て王兎は首を傾げた。


「ふー……結構これ重いな」


 傍にやって来て、膝に手をつきながら奏は言う。

 その様子を見下ろしながら玲音は尋ねた。


「お前、それどうしたん? てか貰った大剣は?」

「売った」

「「はぁ?」」


 王兎と玲音が聞き返す。


「何お前、阿呆? そうか阿呆か知ってた」

「何やってんの君?! あれ絶対良いヤツだったじゃん!」


 ぎゃーぎゃーと騒ぎながら詰問する2人を奏は宥めながら話し出した。


「どうどう。これな、オリハルコの鉄球やで。しかも、あの大剣と同価値の《特殊武具(ユニークウェポン)》っていうレアな武器な?」


 2人はその説明を一通り聞くとやっと静かになった。


「オリハルコの鉄球かぁ……あのゲームとかであるやつやんな? てことは結構良い武器やん。《特殊武具》が何かは知らんけど」

「ま、損してないなら良いんちゃう?」

「あれ、でも結局無一文になってんねんな」

「7000レンドどこに消した!」


 再び騒がしくなる2人に、奏は次は自分の番、とでもいうように反撃する。


「左近は? 何も変わってないけど……。てか風見、自分よりでかいリュック背負ってんの? はたから見たら歩くリュックやで」


 その言葉に玲音は噛みつくように反論する。


「誰が歩くリュックや! しかも我の方がでかいからな?!」


 奏もさらに煽る。


「嘘やろ?! じゃあリュックと背比べしてみろ」

「おーおーやったるわ」

「鈴ちゃん、無駄な悪足掻きはやめとき」

「ネメちゃんまで?! 酷い?!」


 茶番が一段落したようだ。

 既に日は落ちかけていて、ぽつぽつと街の灯りが付き始めている。

 いつのまにか周囲に沢山いた人が今では2、3人が歩いている程度だ。


「泊まる場所探さななぁ……」

「あ、俺無一文だから」


 王兎が呟いた言葉で思い出したように奏は言った。


「そうか……じゃあお前は野宿な」


 玲音が適当に流す。

 そして一行が地図を元に近くの宿泊所を探そうとしたとき、向こうから街灯がふっと消えはじめた。

街灯が全て消えるとあちこちの店や家の灯りも消えていく。

 ものの数分で街は闇に包まれた。


「何で消えたん? さっきまで明るかったのに」


 王兎が辺りを見回しながら言う。


「おかしい。夜目にしておかな」


 奏がそう言って目を閉じる。

すると、今まで黙って真剣な顔をしていた玲音が人差し指を立てて口元に寄せた。


「しー。なんか聞こえん?」


 それを聞いて耳を澄ませた2人も首を縦に振る。


「どうする? 行く?」


 王兎の問いに玲音と奏は頷き、一応それぞれの武器に手をかけながら歩き出した。



 3人が歩を進めていくごとに先程からきこえているどこか剽軽(ひょうきん)な音楽が大きくなっていく。


「オーケストラ?」


 玲音の言葉に奏は頷き、


「そうかな。管弦打、全部の音聞こえるし」

「正解みたいやで」


 すると、別の方向を見ていた王兎がそう言った。

その視線の先は明るく光っていて、そこに音の正体が居るようだ。

 玲音と奏も王兎の傍に行って物陰から様子を窺う。

 そこでは大きさも種類も様々な鼠がオーケストラの楽器を奏でていた。

 中心には1人の男がいて、その男は指揮棒を振っている。


「あれが灯りが消えた犯人?」

「うーん……そうなんかなぁ。あれ? あの人は人じゃね?」


 玲音が鼠のオーケストラに混ざって竪琴を弾いている仮面の人__体躯からして女性と思われる人を指した。

 

「なんか鼠みたいな耳と尻尾生えてるで。獣人とか言うやつ?」


 奏の問いに玲音と王兎は頷いて肯定の意を示す。


「なんやっけ、なんかハーメルンの笛吹き男思い出すなぁ」


 玲音が呟いた言葉に奏と王兎が首を傾げていると急に音楽隊の周りの灯りが消え、オーケストラの音楽も消えた。

 灯りはすぐついたが男と獣人の女、鼠のオーケストラの姿は無く、点いたのも街灯だった。


「眩しっ……」


 急についた灯りに目を擦りながら王兎が言う。


「ん……なんやったんや? あの人らも消えてる」

「よく分からんし泊まるとこ探す? 明日酒屋行って聞けば良いじゃん」


 そう言った奏に玲音と王兎から半ば諦めの混じったツッコミが。


「無一文が何言ってんねん」

「500レンドあるわ」



 結局、奏の宿泊費は2人が立て替えることになったのだった。


   ※


 夜、人が居ないロビーで3人は鉛筆片手にノートを囲み、何やら話し込んでいた。


「えっとー。あの人らは、鼠オーケストラと指揮者と竪琴仮面女……やんな?」


 と言い得て妙な表現を使いながら眠そうに玲音がいう。


「鈴ちゃん、よく分からん言葉編み出さんといて。……街の灯りが全部無くなったのもあの人らのせいだよね。多分。周りにあった火の玉っぽいのがそれなんでしょ」


 王兎が頬杖を付きながら言った。

横目で何やら真剣に絵を描いている玲音を見ている。


風見(かざみ)……誰がそんな無駄に上手い絵を描けと……ってめっちゃ似てるな?!」


 玲音はノートに指揮者、仮面をつけて竪琴を弾く女性、オーケストラの楽器をもつ鼠数匹の絵を描き上げていた。


「鈴ちゃん鈴ちゃん、忘れてるで。ほら」


 王兎がそう言いながら仮面の女性に鼠の耳と尻尾をつけたす。


「で、さっき風見が言ってたハーメルンの笛吹き男って怖い童話であってる?」


 その問いかけに既に気力を無くした玲音は机に突っ伏しながら「うんー」と応える。


「なにそれ」


 生憎(あいにく)あまり童話を読まない王兎が首を捻ると、玲音が説明を始めた。


「まぁ私もあんま覚えてないねんな。男が頼まれて笛で街の鼠をどっかにやるんやけど、それに見合った報酬を街の人は渡さんくて、怒った男が笛で子どもを集めて近くの洞窟に閉じこもる……とかそんなん」


 雑な説明の後に、玲音は付け加える。


「ねずみがいっぱいいるってところだけなんやけどさ」

「ほーん。……あれ、あの子……」


 適当な返事を返した王兎は壁の陰からこちらを窺うようにしている少年がいることの気付いた。

 8、9才ぐらいだろうか。

 3人が視線を向けると少年は気付かれたことに驚き、肩を跳ねさせ、おずおずとこちらに近づいてきた。


「えっと……どうした?」


 奏が少年と目線を合わせるようにしゃがんで問う。

 玲音も机に突っ伏していた上体を起こし、王兎も話を聞く姿勢になった。


「あの、さっき音楽隊と言っていませんでした?」


 少年が拙い語句を使いながら必死に説明をしようとする。


「お兄ちゃん達、冒険者さんですよね? 僕の妹を助けてください!」


 そんな色々すっ飛ばしたお願いに玲音は苦笑しながら助け船をだす。


「ん~、悪いけどちょっと話が見えんなぁ……。妹ちゃんになんかあったん?」


 少年はこくこくと頷くと話しはじめた。


「【月夜の音楽隊(オーケストラ)】っていうのがお姉ちゃんたちが話していた人達の呼び名です。名前の通り、月が雲で隠れている日や、新月って言うんでしたっけ……月が見えない日は来ないです。その人達が来た日は絶対、街の子どもが一人だけ消えるんです」

「それに妹も巻き込まれた、と」


 王兎が溜息混じりに少年の言葉を引き継ぐ。

 少年はそれに首肯し、口を開いた。


「皆、その人達に怯えて日が落ちる頃には家に帰るようにしているんです。音楽隊は灯りを全部盗んで、子どもを連れ去ると共に灯りを戻すんです」


 灯りが消えたことの犯人、というのは王兎の推測通りだ。


「君はそいつらの姿を見たか?」


 奏の問いには首を横に振る。

だが、何かを思い出したように顔をあげた。


「噂ですけど、ネズミがいっぱい居たとか指揮者が男の人だったとか、綺麗な女の人が琴を弾いていたとかは聞いたことがあります」


 これで100%確定だ。

 一行が見たオーケストラと月夜の音楽隊は同一で間違いない。

 3人は顔を見合わせて頷き合うと少年に向き合う。


「分かった。その頼み、引き受ける」

「名前。君と妹ちゃんの名前教えてもらって良い?」


 玲音の問いに少年は


「僕はロイ、ロイ・ブラウン。妹はルカです。お兄ちゃん達、お願いします」


そう言ってぺこりと頭を下げた。


「ロイくん、君も捕まらんようにな」


 ロイは王兎の言葉に「はい」と返事して両親のいるというところに戻っていった。


「……さて」

「さてさて」

「さてさてさてさて」


 3人は再び座り直してロイに見せないように閉じていたノートを開く。

 その頁の1番上に奏が"月夜の音楽隊"と付け足した。


「ややこしいことになったな。それに、ハーメルンの笛吹き男とも近くなった」

「ねずみと子どもを攫うって点ではそっくりだね」

「ただ、街の人たちが約束を反故にしたのかどうかは分からないな」


 鉛筆を置いた奏が腕を組みながら言う。

 その横では玲音がイーズから貰った地図を開いて何かを探している。


「鈴ちゃん何やってんの?」


 王兎が覗き込みながら問いかける。

 玲音は暫く作業を続けていたが、疑問に答えるように地図を閉じた。


「3つ。この近くの洞窟は3つ見つかった」


 親指と人差し指、中指を立てて言う。

 まず、中指を折りたたんだ。


「1つ目。我らが来た山の(ふもと)に小さめのがある」


 次に人差し指を折りたたむ。


「2つ目。この街を出て西にちょっと歩いたところにある。でもこの辺は洞窟がいっぱいあって盗賊が住んでるらしいから可能性は低い」

「そして、3つ目」


 親指を折りたたんで手を握ったような状態にしてからぱっと開く。


「ここが1番可能性高いな。1つ目と同じ山の中腹あたりにあるらしい。あの山自体が謎に包まれてるみたいやから詳しいことは分からんけど」


 速筆でメモをしていた奏が鉛筆を置いて伸びをする。


「んー……明日朝御飯ついでにディアコペス行くか」


 その言葉に王兎が首を傾げた。


「あの酒屋真っ昼間から繁盛してたけど、朝からやってんの? マジで?」


 そう思うとあの酒屋は何なのだろうか。

 ちょっとした街の七不思議にならなくもない。


「いや、あれ酒屋兼食堂らしい。ギルさんあそこに入り浸ってるから月夜の音楽隊の話聞こうかなーと」


 ディアコペスのことも気になるが、そこに入り浸るギルのことも気になる。

というか、あの人はマスターとどんな関係なのか。


「おー、じゃあまた明日」


 話が一段落したと判断した玲音は欠伸混じりに立ち上がり、手を振りながら自分の採った部屋へ向かっていった。


「私も寝るわ。じゃ」


 王兎も立ち上がり、大きな欠伸を1つ。

 奏もノートを閉じて自分の部屋へと向かった。

次話投稿も来週金曜日の予定。


良ければブクマ、高評価よろしくお願いします!

それをモチベに作者がより一層頑張ります。

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