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02.酒屋【ディアコペス】

 どれくらい歩いただろうか。どれくらいの時が経ったのだろうか。

 メイズシティの近くまで来たときには既に一行は疲れ果てていた。


「お腹空いた。もう昼回ったやろ。餓死する」

「そのへんの虫でも食っとけ」

「分かった」


 __それはもう、正常な判断が出来なくなるほどに。


「あれ? 何か聞こえるで?」


 街の方から聞こえてくる喧騒に気付いたの王兎(おうと)だった。

そして、虫を探している(かなた)に言う。


「街行けばなんかあるんちゃう?」

「!」


 王兎の言葉に奏の目が輝いたかと思うと、尋常ではないスピードで街に向かって走っていった。


「元気やなぁ」

「んじゃ、我らも行こか」


 奏を見送った王兎と玲音(れいん)も、もう見えてきている街の大通りへと向かった。


    ※


「いやぁ~、賑わってるなぁ」

「そやね。あ、あれ食べ物屋っぽいで」


 王兎と玲音は店に入り、奏の所在を確認する。が、いなかった。

ここではなかったようだ。

 良い匂いが漂っていてなにも食べずに出るのは惜しかったが、2人は奏を探すべくその場を後にした。

 その後、おなじように何軒か回ったが奏は全く見つからない。


「どこいったん、あいつ」

「聞いてみた方が早いかもなぁ……すいません」


 玲音が近くを通った女の人に声をかけた。


「大剣を背負って赤と黒の服を着た5歳児みたいな私と同い年ぐらいの男の子見ませんでしたか?」


 もっと他に言いようは無かったのか。

 女の人は暫く考え込むような素振りを見せていたが、思い出したように「ああ!」と声を上げた。

 伝わったみたいだ。


「多分その子だと思うけど、酒屋に入っていった気がするわ。えっと……この道をちょっと進んで右に曲がったディアコペスっていうお店よ」


 どうやら奏はそのディアコペスという酒屋に行ったらしい。

 どうして未成年なのに酒屋なのか、という疑問を抱きながらも2人は女の人に礼を言い、酒屋に向かった。


「ん? ここ?」


 件の店は大通りから少し外れた路地にあり、奏がいるようには見えない。

 だが、女の人が言っていたからにはそうなのだろう。

 2人は店の扉を開け、中を覗いてみた。


「いらっしゃいませー!」


 威勢が良く、明るい男の声が聞こえてきた。

 2人は軽く会釈して店内を見回す。

 街で出会った女の人の言ったとおり、奏は居た。

 しかも店主であろうカウンターの中に居る男の人と何か話している。


「おい、早瀬」

「こんなところにいたん? 全然見つからんかったんやけど」


 そう言いながら2人は奏の近くの席に座った。


「あ、マスター。この2人にも俺と同じの」


 奏がカウンターに居る男にそう言う。

 マスターと呼ばれた無精髭の男は「あいよ」と応え、厨房消えていった。


「同じのって? ていうか君、何飲んでんの? 酒?」

「や、なんていうか炭酸水っていうか……俺が飲んでんのはグレープソーダみたいなヤツ。こっちではラクスポップって言うらしい。ポップって英語で泡じゃないっけ?」


 そう奏が答え終わったところで丁度、マスターがそのラクスポップとやらを持ってきて玲音と王兎の前においた。

 見た目はグレープソーダと変わらない。

 紫色で透明の液体に含まれる気泡はしゅわしゅわと音を立てながら弾けている。

 2人はグラスを手に持つと紫色の液体を喉に流した。


「んー、確かにグレープソーダみたい?」

「でもこっちのほうが酸味がある気がしなくもない」


 玲音はグラスを置き、少し前から思っていたことを奏に尋ねた。


「お前、お腹空いたとか行っておいて頼んだのそれだけなん?」


 奏は首を振って否定した。


「今作ってもらってる。そこの人に教えてもらったヤツ」


 と言って奏は玲音と王兎の向こう側に座っている人を指し示す。

そこにはビールのようなものを飲んでいる顎髭が印象的な厳つい中年の男がいた。


「よぅ」


 その男は陽気に笑みを浮かべながら片手を上げて言った。

 2人もぺこりと頭を下げて会釈する。


「俺はギルだ。ジョブは《狩人(ハンター)》。この常連だ。なぁ、マスターよぉ?」


 ギルと名乗った男は楽しそうにくくっと喉を鳴らしながらマスターに言う。

マスターも笑いながら「そうだな」と同調している。


「俺は自分で狩った動物の肉をこの街の商人に売ったり、直接店に売ったりしてるんだ。ここも俺の肉を使ってる。それで、お前らは何してるんだ? その腕輪からして冒険者か?」


 ギルの問いには奏が手を挙げて


「奏です。《破壊神(シヴァ)》です。一応冒険者です」


と、リズムよく自己紹介した。

玲音と王兎もそれに続く。


「玲音です。えっと、ジョブは《魔術神(イシス)》。駆け出し冒険者ってとこですかね」

「王兎です。ジョブは《復讐神(ネメシス)》で冒険者です」


 一通り3人の自己紹介を聞き終えたギルは首を捻りながら疑問をぶつけてきた。


「聞き慣れねぇジョブだなぁ。神ってついてるってことは神なのか?」

「神、なんですかね。《独創職(オリジナル)》だって与えてくれた人は言ってましたけど」


 曖昧な奏の応えにギルはガシガシと頭を搔き、「ややこしいことはよくわかんねーな」とぼやいた。

 するとそこで、マスターがハンバーガーのようなものを奏の前のカウンターに置いた。

 見たところ、サイズがとてつもなく大きいぐらいで普通のハンバーガーだ。

 一口食べた奏は眉を顰める玲音と王兎の方を向いてこう言った。


「これ、ハンブルクっていうらしい。見ての通り、ハンバーガーやけど。これはメガビッグサイズ。普通に美味いで」


 2人ともふーん、とラクスポップを飲みながら薄い反応をする。特に興味は無いらしい。

 しかし、お腹は空いていたのか玲音は手を挙げてマスターに注文した。


「マスター、何か果物使った美味しいやつありますか?」


 かなりざっくりしているにも関わらず、マスターは返事をして厨房の方に向けて言葉を発した。


「あ、私このフライポティのMサイズ」


王兎もメニューを指さして言う。


「揚げたてで良いか?」


 マスターがそう尋ねてきた。

 王兎がフライドポテトのような物だろうと思って注文したので勿論、と頷くと、マスターは少し笑って、また厨房に声をかけた。


「話を戻すが、お前らが冒険者ならマスターに話聞くと良いぞ。ここは冒険者に人気だからな」


 ギルがそう言うとマスターはカウンター内の椅子に座りながら頷いた。

 その様子を見ていた奏は話し始める。


「あの、世界を救えって言われたんです。それと、遺跡を訪ねて物語を記してこい、とも。でも具体的には教えて貰えなかったんですよね」

「世界を救え、か。別にこの世界に魔王や悪魔は居ない。__いや、いるがそれはジョブであり、個性であると考えられてるからな。遺跡については何も知らない。悪いな。だが、行き先は導かれるはずだ」


 導かれるとはどういうことなのか。

 奏が尋ねようとしたところで厨房から女の人が出て来て「カルポスパイとフライポティだよ」と言いながら玲音の前にパイ、王兎の前にフライポティが入っているのであろう蓋のついた大きめの紙コップのようなものを置いた。

 王兎が蓋を開けると中からスティック状の揚げられた芋__つまりフライドポテトもといフライポティが飛び出した。比喩とかではなく、物理的に。


「んにゃっ?! なにこれ?!」


 王兎が驚嘆の声を上げる。にも関わらずら店内は盛りあがっているし、マスターもギルも笑っている。

 そんな雰囲気の中でフライポティが飛び回る。

 困惑する王兎を見て、楽しそうに笑っていたギルが口を開いた。


「嬢ちゃん、揚げたてを頼んだだろ? ポティは土の中では眠っているが、高温で揚げると活性化するんだ。普通は少し冷めたものを頼むんだよ」


 奏が腹を抱えて心底愉快そうに笑う。

 ほぅ、と納得した王兎の横で玲音が興味深そうにフライポティを眺め、捕獲しようとしている。

 すると、挑発するように1匹__否、1本のフライポティが王兎の前に来た。

 王兎はそれに軽く視線をやると、音速に到達しているのではと思うほどの速さで腕を動かして捕まえ、そのまま口の中へと入れた。

 店内の全ての人の動き__フライポティも含め全てのものの動きがとまった。


 王兎の喉が動く。


「あ、普通に美味しい」


 ゆっくりと咀嚼した王兎は気付いたかのように言った。

 そして、動きを止めているフライポティに向かって言葉を放つ。


「どうする? 自分から容器の中に入る? それとも、入れて貰う?」


 静まりかえる店内で奏と玲音だけが小さく笑っている。

 フライポティはプルプルと小刻みに震えると容器の中に戻っていった。

 それに合わせて店の喧騒も戻る。

「強っ」「凄ぇ」「ポティは野菜の中でも結構やんちゃなのに」

 王兎への賞賛の声が上がった。

 それより、「野菜の中でも結構やんちゃ」とはどういうことなのか。


「期待の新人(ルーキー)じゃねぇか、そうだろ?」


 マスターがそう言ってビールのようなものが入ったジョッキを高々と掲げた。


「「おおおおおお!!!」」


 店内が雄叫びで満たされ、グラスがぶつかり合う音がする。

 あちこちから「よろしくな、新入り」と声が聞こえてきた。

が、3人はそれぞれが頼んだ料理に夢中だ。

 幸せそうだから良いんだろうけど。


    ※


 酒屋を出た3人は二手に分かれて物資を調達することにした。集合は中央広場の噴水だ。


「じゃ」


 そう言って玲音と王兎、奏に分かれる。


「ネメちゃん、なんか欲しいもんとかある?」

「んっとー、毒用の注射器かな」


 2人は何処に向かうでもなく歩き出した。


「我はリュックと薬草が欲しいかな。雑貨店とか無いもんなのかね」


 取り敢えず雑貨店に行くことにした2人は街の至る所にある立て札からそれっぽいものを探す。 


「あ、雑貨通り……この先200ミータ。ミータって……メートル?」


 聞いたことのない単位に玲音は首を傾げる。


「そうなんちゃう? 行こ」



 雑貨通りは一言で言うとファンシーだった。大抵の店がガラス張りで、ショーウィンドウにはやたらと大きいくまだのなんだのとぬいぐるみが並んでいる。

しかも、通りは老若男女様々な人で賑わっていた。


「ネメちゃんネメちゃん! 我あそこ行きたい!」


 そう玲音が指さしたのは玲音が二人分ほどの大きさのくまのぬいぐるみが飾ってある店だった。


「いいよ。色々有りそうやし」


 了承した王兎も玲音に着いて店に入る。


「見てみて! もふもふ!」


 入店するなり玲音がぼふっとくまのぬいぐるみに埋もれた。

王兎もその横にダイブする。


「じゃあ、ここ何でもありそうやし色々見て回ろっか」


 ひとしきりぬいぐるみの手触りを楽しんでからそう言って歩きだす。

 リュックと注射器はすぐに見つかった。

何故かは分からないが売場が向き合っていたのだ。

 この店の配列はどうなっているのだろうか。


「会計しに行こか。あ、あそこの薬草買ってから」

「分かった」


 たたたっと駆けていった玲音は暫くして籠に薬草をこんもりと入れて戻ってきた。


「多ない?」


 そう尋ねる王兎に玲音は笑いながら「薬草が安かったのが悪い」と応える。

 王兎を促して会計を済ませた玲音は薬草をリュックに詰め込んで背負った。


「さて、広場行こか」


 2人は中央広場へのんびりと向かった。


     ※


 一方、その頃の奏といえば


「んー、これ欲しいんだよなぁ。……大剣売るしかないかな」


 何を血迷ったのか、イーズにもらった大剣を売ろうとしていた。


「オリハルコの鉄球……。多分ここにあんのが奇跡なんだよな。買いたいけど…………大剣、お前……」


 そんなことを呟いていると店主が声をかけてきた。


「それが気になるかい? お目が高いねぇ、兄ちゃん。それは通りすがりの冒険者が売ってったんだよ」

「そうなんですか……でも高いんですよね」


 奏が鉄球を眺めたまま言うと店主は奥から出て来て奏の背負う大剣を興味深そうに眺めた。


「兄ちゃん、ちょっとその大剣見せてみな」


 奏が大剣を渡すと店主の右目が藤色に光りだした。


「ん? これは……《特殊武具(ユニークウェポン)》だな。どこで手に入れたんだい?」


 店主は鑑定するように大剣を見ながらそう言うと奏にそれを返した。


「えっと、これはイーズっていう自称神様からもらったんですけど……目、光ってましたよね? てか、《特殊武具》ってなんですか」


 奏が質問攻めすると店主は少し考えてからこう言う。


「この目は【魔眼】と言ってな……まぁ、特殊な力があるんだが、俺の場合は武具や防具の価値が分かるんだ。で、《特殊武具》はこの世界に1つしかない武具のこと。レアなモンスターを倒したらもらえたり、神からもらえたり、遺跡で拾えたりするな」


 店主はそこで言葉を切ると奏にある提案をした。


「やっぱり神からもらったのか……。兄ちゃん、これ売らないか? これはそこの鉄球と同価値だ。それにお前、面白いやつだからまけてやるよ。1000レンドの釣り、これでどうだい?」

「売ります」


 即答だった。


「あ、また金貯めてくるんでもっといてもらえますか?」


 奏の頼みに店主は少し腕を組んで考えるとしょうがない、と言ったように首を縦に振った。


「マジですか?!」

「ああ、男に二言はねぇよ」

「ありがとうございます!」


 奏がそう礼を言うと店主は1000レンドを手渡し、大剣をもって


「じゃあ、これは預かっておくから買うもん買ったら鉄球持って行きな」


と、手を振って奥に戻っていった。

 奏はオリハルコの鉄球を背負うための物を買い、意気揚々と中央広場へ向かった。

 鉄球を背負うための物のせいで結局無一文になったのは言うまでもない。

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