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01.転移と神

「んにゃ?」

「おぅわ」

「え、此処何処?」


 光が消え、3人が目を開くと、そこは程良く木漏れ日の差しかかる森だった。


「いや、何だったんだ?」


 奏が誰にというわけでもなくツッコんだ。

 確かに、あんな大がかりに赤い光とかを出しておいて唯普通の森の中に転送させただけとなるとツッコみたくなるのも分からないでもない。


「これ、どのワールドや? マップ開ける?」


 玲音の問いに王兎は首を振る。


「隠しステージなんかなぁ。マップもないし」


 一行が行くあてもなくきょろきょろしていると、向こうから人がやってきた。

 癖のない長い黒髪に淡い青紫色の瞳。深い紫色の衣装を着て瞳と同色の羽衣を纏った神秘的美少女……。


「こんにちは、皆様。私が皆様を此方の世界に招いた女神です」


 驚くべきことにその少女は自らを女神と称した。

 少女の言葉を聞いた3人は各々の反応を示す。


「女神……? あ、イタい子やん」

「普通に可愛いのに……。まぁ我は厨二病でも全然大丈夫やと思うで!」

「神は下界に降りて来ないだろ。てかどんなNPC作ってるねん、運営」


 言いたい放題の3人の言葉を暫くは静かに聞いていた少女だが、流石に頭にきたのか頬を膨らませ、心外だとでも言うように


「私はれっきとした女神です! 信じられないと言うのであれば古代の神々により平等に分け与えられた《力》を見せましょう!」


と言うと、宙に魔法陣のようなものを描き始めた。

 まるでペンで描いているかのように少女の指先から魔法陣の線が紡がれていく。

 それを描き終えると何やら呪文のようなものをぶつぶつと唱え始めた。

 すると、その呪文に合わせて魔法陣に淡い紫色の光が灯った。

 次第に魔法陣は黒と紫が混ざったような色になり、それはブラックホールをそのまま収縮したようなものになった。


「これは、空間の歪みです。此処を通れば別の世界へ移動することが出来ます。この程度の空間の歪みであれば空間を司る神でなくても作ることが出来ます。但し、これは神のみが扱えるものなので常人には扱えません。私は此を応用して貴方たちをここに連れてきました」


 そう言った女神__一応信じてあげることにしておく__は握りつぶすようにして空間の歪みを消した。

 そして全く顔色を変えない3人を見て不安そうに「信じましたか? 」と聞く。

 3人は取り敢えず頷いておいた。

 その様子を確認した女神は満足そうに首を振って意気揚々と話し始める。


「自己紹介がまだでしたね。私はイーズと申します。普段は天界で暮らしていますが、今回は貴方たちをお迎えするために下界に降りてきました。まぁ、私の話は此処までにしてこの世界の説明をさせて頂きます」

「ちょっと待て」


 奏がイーズの説明を遮った。


「この”世界”ってどういうことだ? ここは俺たちがプレイしてたゲームのワールドじゃないのか?」


 確かに、3人はゲームの内の赤い物体を触れたことで転送されたのだ。

それならここが同じゲーム内のワールドだと思うのが当然だろう。

 だが、イーズはそれに首を振った。


「いいえ、この世界は貴方たちがプレイしていたようなゲーム等ではありません。貴方方にとっての異世界です」

「私らは異世界に転送されたってこと? 確かに、鈴ちゃんとか早瀬がゲームのアバターじゃなくてリアルの方だし。見慣れてて違和感なかったけど」


 話を遮った王兎の問いにイーズは首肯して続ける。


「そういうことになりますね。なので、痛覚もありますし死ぬことも勿論あります」


 イーズの最後の言葉に玲音と王兎が顔を見合わせる。

そして奏のほうを向いてその脛を片方ずつ蹴った。それはもう、鮮やかに。


「痛ぇ?!」


 奏が悲痛な声を上げてその場にうずくまり、自分の脛を抱えた。

 その様子を見ていた2人は「なるほど。」と真顔でイーズに向かって頷く。

 奏は2人を見上げ、


「確かめる方法雑すぎるだろお前ら!」


と叫んだ。

 その言葉に対し、2人は示し合わせた訳でもないだろうにピッタリとハモった。


「そこに君(お前)がいたから」

「何やねんそれ?! 自分で試せ!」


 そう茶番を繰り広げる3人に堪えきれなくなったのか、イーズがこほん、と咳払いをした。


「話をさせて頂いてもよろしいですか?」


 にっこりと笑みを浮かべながら言う。しかし、目は全く笑っていなかった。

 静かに聞いた方が良いと思ったのか、3人は大人しく頷いた。


「貴方たちにはこの世界を救ってもらいます。世界に平和が戻った暁には貴方たちの願いを1人1つずつ叶えます。勿論、元の世界に戻ることも可能です」

「とは言われてもなんで我らなん? というか何であのゲームから飛ばしてきたん?」


 玲音の問いにイーズは少し考えるような素振りを見せる。


「あのゲームから引き抜いてきたのはこの世界が恐らく、あのゲームと似通っているから。貴方たちが飛ばされたのは貴方たちがあれに触ったから、としか言いようがありませんね。詳しくは言えませんが、私たちは行動力のある人材を求めてましたので」


 なるほど、と王兎が呟いた。


「行動力があるかどうかをあの赤い物体に触れるかどうかで試した、と」


 その結論をイーズは首肯する。


「元の世界に戻れないのは分かった。で、何? 冒険って」


 奏が続きを促した。


「どのような冒険かとは形容しがたいのですが、そうですね……まずはこの世界の何処かに存在する5つの遺跡の中にいる5人の精霊にあってきて下さい。そうすれば見えてくると思います。その際に、後からお渡しする本に物語を記してもらってください。

それから、この世界で使うお金ですが、ある程度は私どもの方から支援します。

慣れない異世界で不安かもしれませんが、冒険職の方は何人もいらっしゃいますので大丈夫だと思います。これから役職を発表して荷物を渡すのですが……聞いてます?」


 3人は既に飽きたような顔をしていた。

 王兎に至っては凄く眠たそうに大欠伸をしている。

 絶対聞いてなかっただろ。


「聞いてた、聞いてた」


 玲音が適当に流すように応える。

 

「本当ですか?」


 (いぶか)しげにイーズが問うた。まぁ、無理もないだろう。


「うん。で、役職は?」


 今度は王兎が応えた。催促(さいそく)するのも忘れずに、だ。

 イーズは渋々といったように口を開いて役職発表を始めた。


「奏様。ジョブは《破壊神(シヴァ)》。此方のジョブは奏様のみの《独創職(オリジナル)》と呼ばれるジョブです。続いて王兎様。ジョブは《復讐神(ネメシス)》。此方も《独創職》。そして、玲音様。ジョブは《魔術神(イシス)》で《独創職》。

それから、私共から奏様に大剣、王兎様に毒薬セットと杖、玲音様には魔法書と杖をお渡しします。この世界で生活を始めるに当たってのスタート報酬とでも思ってください」


 スタート報酬と聞くとゲームのようだが、ゲームではないということは奏の脛を蹴ったことで実証済みだ。

 一行がスタート報酬を受けとるとイーズは再び口を開いて話し始める。


「奏様。所持金6000レンド。王兎様、100万レンド。玲音様。65万レンド。レンドはこの世界のお金の単位です」

「……なんで早瀬だけそんなに少ないん?」

「このお金は貴方方がプレイしていたゲーム内での所持金額を換算しましたので」

「ああ、いつも装備やらなんやらに散財してるからか。しかもこの前ガチャにめっちゃお金使ってたもんなぁ」

「我はガチャもやったけどその分クエスト収入あったからこの金額なんか」

「おお……タイミングが悪すぎる……」


 奏は頭を抱え、膝から崩れ落ちた。


「話を戻しますね。ステータスやパーティメンバーはこの腕輪を付けて頂いて、真ん中のボタンを押すと確認できます。表示させてみて下さい」


 3人は受けとった腕輪を着け、言われたとおり真ん中のボタンを押してステータスを表示させた。


「おお、すげぇ」

「ホログラム……ってことか? 凄いな」


 狙った反応だったようで、イーズは満足そうに笑った。


「右上に表示されている数字が現在の所持金額です。腕輪のサイドのボタンを押すとステータス、現在のクエストなど表示内容が変わります。これ、作るの大変だったんですよ? かなり大量の魔力を使ったんですから」


 わかりやすくドヤ顔をするイーズに3人は「やめろ」とでも言いたげな白い顔を向けた。


「まあこれ、遺跡などで採れるレア素材を使えば人でも作れないこともないので冒険者ギルドは冒険者全員に装着を義務づけていますけどね……」

「小声で言っても聞こえてるんだよな……さっきの感動返せ」


 奏はそう言うが、冒険者全員が持っているとしてもよく出来ているだろう。


「本来は自腹で払わなければいけないところをお渡ししているんで、そこは許してくださいよ……」

「まあ良いんだけどさ」


 奏の言葉にイーズは小さく溜息をつき、一行の服装を見た。

 全員ジャージや学校指定の体操服、パーカーと物凄くラフな格好だ。

ラフっていうか単に服を選ぶのが面倒くさいだけのようにも思える。

 それに頭を抱えたイーズは魔法陣を宙に3つ描き、呪文を唱え始めた。

 “空間の歪み”を出したと違い、今度は魔法陣の色が赤、青、白と分かれた。そして、赤は奏、青は玲音、白は王兎とそれぞれの胸の前に移動する。

 パズが呪文を唱え終わると魔法陣が淡く発光し、光が消えると3人の服装が変わっていた。

 奏はよくあるRPGの主人公のようなデザインで黒と赤の動きやすそうな服。

 雰囲気を出すためなのか、大剣を背負おうとしていた。が、重いのか苦戦している。

 王兎は白のアクセントが入った黒ベースのローブ。

 何か凄いオーラを纏っているように見える。

まぁ、ジョブが《復讐神》だから仕方ないのかも知れない。

 玲音は軍服のような服の上からフード付きの黒と青のマントを羽織っている。

 身長の低さもあいまってシルエットが絶妙に面白い。


「おぉ~、これ凄いな。めっちゃ動きやすい」


 無事に大剣を背負った奏がそう言いながらピョンピョンと跳ね回っている。


「めっちゃ元気やん。これも結構動きやすいで。内ポケットもあるし」


 そんな奏の様子を見てそう言った王兎は小瓶に入った毒薬を陽光に透かしたりしながらローブのポケットにしまった。


「よくそんなん背負ったまま動けるなぁ。ネメちゃん見てこの魔術書、鍵つきやし鍵に鈴が付いてるねん」


 玲音は王兎に魔術書の鍵と鈴を見せながらそう話している。

 王兎もそれに応じて笑いながら「仇名の通りやなぁ、流石鈴ちゃん」と言っている。

 そんな3人を暫く微笑ましそうに眺めていたパズはふと天を仰いでから


「私はもうすぐ天界に戻らなくてはなりません。何か質問はありますか? 」


と首を傾げて聞いた。

 その言葉に今まで大剣を振り回しながら遊んでいた奏が「はいはい! 」と手を挙げた。


「何ですか?  奏様」


 パズが奏を当てる。

 奏は気をつけの姿勢をとり、


「本は何処にありますか?」


と聞いた。

確かにまだ貰っていなかった。

本がないと始まらないだろうに。

 だが、その問にパズは何故か得意気な顔をした。


「それに関しては心配要りません。既に奏様の装備、ウエストポーチの中に入っています」

「ああ、これか。……凄いけどドヤ顔はやめろ。それと……この鞄はアイテムボックスみたいなものか?」

「ええ。街では”アイテムボックス”という名で売られています。そのポーチの容量は少ししかないので足りないと思われたら別の物を買ってください」


 奏とイーズの会話の端でさっきから玲音と王兎は何やらコソコソと話している。


「なぁなぁ鈴ちゃん、向こうから何か来てる」

「ほんまや。何やろあれ、犬っぽい?」

「あー、確かに。狼とか? RPGの序盤に出て来るやつ」

「それなそれな。ちょっとイーズさんに聞いて見よか」

「そうだね」


 解決したのか、2人で頷き合うと玲音が「はいはーい」と手を挙げた。


「はい、玲音様」


 イーズが玲音に言う。

 玲音はこくりと1度首を縦に振ると


「イーズさんの後ろのほうから犬っぽい狼みたいなやつが来てるんですけど大丈夫なんですかっ? 」


そう快活に聞いた。

 イーズが後ろを振り向くと直ぐそこまで迫ってきているのを確認できた。

 そしてそのまま一行に向き直り


「あれは狼ですね。群れの。私はもう戻らなくてはなりませんが、そこまで強くは無いので皆様で頑張って下さい。此処から南南東の方角にあるメイズシティは駆け出し冒険者の為の物資などが沢山あるのでまずはそこを目指して下さい。地図は奏様にお渡ししますね。それでは皆様の健闘をお祈りしていますよ」


そう早口で言って消えていった。


「逃げた」


 王兎が呟く。

 狼の群れは3人を目視してジリジリと近づいてきていた。


「よし、どうする?」


 背中を向けずに後退りしながら玲音が言う。 

 叫ぶようにして奏が応えた。


「使い魔にするって言いたいところだけど、逃げる!」


 地図を開きながら背中を向け、一目散に南南東を目指して走りだす。

 当然のことだが狼たちも追ってくる。

 このままだと直ぐに追いつかれてしまうだろう。


「ちょっ、待って、めっちゃ早いんやけど?!」


 玲音が逆ギレしつつ息を切らしながらそういった。


「破壊神、狼倒せへんの?」


 王兎もそう言いながら走る。

 その言葉に奏は「出来るかどうか分からんけど」と断っておいてから体を反転させて狼と対峙した。

 そして大剣を抜き、タイミングを見計らって近くにあった大木を切り倒し、狼が此方に来られないようにした。


「……お? これ成功じゃね? 」


 奏は少し嬉しそうにしながら切り倒した大木に近づいた。大木は物凄く幹が太いので近づくと見上げる形になってしまう。


「よく一発で切ったな、こんなん」


 玲音も幹に近づいて見上げる……が、いまいち全容が分からないらしく、背伸びをしたりジャンプしたりしている。


「此やったら狼も通れへんやろ」

「「待って、その一言でフラグになった!」」


 狼の行動を確認するため、玲音は節と枝分かれの多い適当な木を見つけて登り始めた。

 そして、ある程度高さのある場所まで行くと太い枝に腰を下ろして辺りを眺める。

 すると、狼の群れが牙や爪などを使って大木を攻撃しているのが見えた。

 今、4分の3辺りまで進行している。


「狼が! 幹に攻撃してー! そっちに行こうとしてるー! から!  我が狼の動き止めるし後は任せたー」


 玲音は大声でそう叫び、下にいる2人が親指を上に突き上げたのを確認する。

 そして、貰ったばかりの魔術書を開き、呪文を唱え始めた。


「光を浴びて産まれる漆黒の闇よ、お前たちに命ずる。今、己の意志を持って自らの主の自由を奪うことにより、己の自由を奪い返せ。【黒影の反逆(リズィスト•シャドウ)】!」


 最後の言葉に反応したように玲音が高々と掲げた杖にはめられている宝玉が黒色に光りだす。

 玲音はそのまま黒い光を放出するかのように杖を狼の群れの方にふった。

 すると、下にいる2人に今にも襲いかからんとしていた狼たちの影が自らの意志を持ったかのように動き出した。

 基本、影はその影を作り出す物体に連動して動く。

 しかし、今はその立場が逆転していた。

よって、影が踊ると影の主である狼も踊り、影が右に行くと右、前進すれば前、その場で回り出せば回るといった具合に影の主は"主"であるはずなのに影に操られている。

 それはあまりにも滑稽だった。

 狼たちは自分たちの奇行に混乱している。

 その間に王兎は毒薬を飲ませ、奏は大剣を振り回して狼の群れを討伐した。

 一通り騒ぎを上から見物していた玲音は終わったのを確認し、魔法を使ってふよふよと降りてきた。


「よくあんな高いとこ行けるなぁ。私無理」

「え~? 楽しくない?」


 王兎の言葉に玲音は不思議そうに返す。


「なぁ、この狼どうする?」


 奏も側にやって来て2人にきいた。


「うーん、ポーチに入る?」

「入らんよ」


 奏の答えに玲音は「どうしようか」と呟く。


「埋葬しとく? 何か放置も悪いし」

「そうしとくか、持っていけんし」


 3人は近くに穴を掘るとそこに狼を埋め、傍にあった川で手を洗った。


「よし、完了。行こか」


 一行はしまっていた地図を再び開き、茶番を繰り返しながらもメイズシティへと急いだ。

次話投稿は金曜日ぐらいで予定してます。

頑張ります。

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