12.悪夢のような
「皆さんありがとうございましたー!」
先程まで巨大ネズミと戦っていた集団にそう玲音は声をかける。
「後は官憲の皆さん、お願いします」
確保した二人組を取り囲むように集団は山を降りていった。
一行とギルだけが残る。
「洞窟の中はみたか?」
「入りましたけどしっかり見てはないです」
「じゃあ俺らは中の確認してから戻るぞ」
「了解です!」
ギルによると、一応報告できるくらいは見ておいたほうがいいとのことだ。
入口は戦闘のせいもあってかなり荒れている。
「ここで転移してましたね」
「この奥に子どもたちを閉じ込めていました」
こんな調子で一行は隈なく洞窟の中を調査していった。
__いったのだが、
「…………なんだよ、これ」
洞窟の奥。人一人がやっと通れるような細い隙間の先の光景を見て、奏は露骨に不快そうな顔をした。
「何? ……うわ」
奏の後について入った王兎も眉を顰めた。
「…………」
「胸糞悪ぃな」
吐き捨てるように、三人の言葉を代弁するかのようにギルは言う。
壁際には液体に保存された少女がいた。
その顔は穏やかだが青白い。
合わせていた手を離し、捜索を再開しようとした時、紙が地面に落ちる音がした。
「精霊の作り方?」
玲音は紙を拾い、一番上に書いてある文字を読み上げる。
「精霊って作れる物じゃないだろ」
「生命体を人工的に作るのは無理じゃないの?」
そう、精霊なんて作れて良いはずのものではない。
しかし玲音の手にした紙、それから近くの机にある資料にも確かにそう書かれている。
「…………気持ち悪い」
資料類を読み込んでいた玲音が眉根を寄せて呟いた。
不思議そうに手元に覗き込んでくる二人に渡した資料には精霊の作り方、
子供を使った精霊の作り方が書いてあった。
「ちょっとだけ興味はある。あるけど、流石にそれはないやろ」
「ゲームなら……いや、無いな。これは駄目だろ」
「てかギルさんさっきから黙ってるけど大丈夫なんですか?」
王兎が声をかけてもギルは「ああ」と生返事をするだけ。
「ギルさん?!」
「あ、ああ悪い。聞いてなかった」
どこか様子のおかしいギルを心配しながら奏は確認するように問う。
「ギルさん、一つだけ教えてください。ここに書いてあることって可能なんですか?」
「机上の空論とすら言えない状態で存在しているな」
ギルは三人の表情を見ると息を吐き、真剣な顔つきになった。
「お前らはやらないと信用して言うぞ。まだ能力の発達が未熟な子どもが持つ魔力器官は精霊のそれとよく似てるんだ。だからそれを利用して精霊を作ろうとする動きは前々からあった」
「精霊を作ってどうするんですか?」
「精霊の力を使って自分の能力を高めたりするんだろうな。だが何せ精霊は希少な物でな」
ここに保存されている少女はそれに利用されたということだ。
「やるなよ?! 法に触れるぞ!」
「金払われたってやりませんよ! てか法律あったんですね」
「それは当たり前だろ。自由のためにはルールも必要だ」
ギルの口からそんな言葉が出るとは思ってもいなかった三人はなんとも言えない微妙な顔をする。
その顔を見てギルも微妙な顔をする。
「……とりあえず帰るぞ。この子を運ぶのは頼んで良いか?」
任せてください、と三人は声を揃えて言う。
せめて少女が帰れるように。
次は12月10日更新




