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11.窮地の人は鼠を噛む?

 巨大ネズミと対峙し、ギルが言葉を漏らす。


「無駄にデカいんだよなぁ。所々ある傷はお前がつけたやつか?」

「そうですね。この鉄球である程度攻撃したんですけどダメージはいまいち……」


 横にいる奏は借りた剣を手持ち無沙汰に振り回しながら不服そうな顔をした。

 

「まあこっちには人が大量にいるから人海戦術でなんとかするぞ」

「「おー!!」」


 雄叫びの後、パン、と乾いた音がしてギルの猟銃から弾丸が放たれる。

 それはネズミの体に直撃するが、衝撃は吸収されてしまった。


「切らないと駄目みたいですね!」

「そうだな、こっちは援護するからお前らは行ってこい!」


 奏を筆頭とした近接戦向きの者たちはギルの声を背に、ネズミに向かっていく。


「っらあぁ!」


 思い切り振りかぶり、ネズミの足を切り付ける。

 だが、その巨体は倒れない。


「手応えが全然ないんだよなー、柔らかすぎる」


 振り払われた尻尾を避け、今度は腹の辺りに攻撃を当てる。

 遠距離戦のギルたちがじわじわと、だが確実にダメージを与えてくれている。


「見方を変えてみるか」


 奏はこの世界をゲームとして捉える。

 巨大なモンスターが現れた場合の弱点は?

 

「条件を追加」


 先ほど攻撃した方とは別の足を切りつける。

 このネズミの体は柔らかく、打撃ダメージは与えられない。

 加えて、体表は毛で覆われている。


「どこか一部分だけ硬いところは……」


 探してみるが見つからない。

 違うか、と呟いてすぐに思考を切り替える。

 切っても手応えを感じられないのはなぜか? 先程から感じる違和感は。


「よっと」


 繰り出されたパンチを跳躍して避け、その腕に刃を当ててやっと気づく。


「出血量がおかしい」


 ネズミの体にある傷は確かに深くは無いが決して浅くもない。

 しかし、これほどまでに激しく動いているのにも関わらず、切った瞬間以外は血が出ていない。

 一番不可解なのは奏の作った腹の切傷だ。

 

「そこそこ深く切りつけたつもりだったんだが、全く血が出なかったんだよな」


 そもそもこの巨大なネズミはどうして出来たのか。

 小さなネズミが合体したのではなかったか。


「そういうことか? いや……」


 奏はたどり着いた仮説を確信できずに複雑そうな顔をする。


「この巨体は”皮”だけで中身は元のネズミなのか?」


  ※


「どういうことだ?」

「あの巨体の心臓部(コア)として中に元の小さいネズミがいるんだと思います!」


 奏は自身がたどり着いた答えを一同と共有する。


「だからまず腹部の辺りに深い傷をつくり、そこからコアの破壊をしようと思います」

「よく分からんが、それで上手くいくんだな? 俺たち遠戦組はお前らのサポートに徹底する」

「俺の仮説……というか勘が正しければですけどね」


 苦笑しながらの奏の返事にギルは笑って答えた。


「いいぜ。とりあえず賭けてみるよ」

「ありがとうございます!」


  ※


 高く跳び上がってネズミの腹部に剣を突き刺し、横へと滑らせる。

 するりと何の抵抗もなく切れていくのだが、


「浅いな」


 踏ん張るところのない空中では深くダメージを与えるのが難しい。


「まあでもこれを続ければいけるな。ギルさんたちがヘイト稼いでくれるから防御に気を取られないし」


 横目で玲音や王兎たちを見ると捕獲を終え、自分たちの戦闘を観戦していた。


「出来れば手伝って欲しいんだけどな」


 呆れて少し笑いながらもう一太刀。

 ただ剣を振う作業を続ける。

 暫くして、ネズミの腹は二つに裂かれた。

 それでもなお、動きを止めない。


「思った通り、中身がない」


 隙を見て腹の傷を広げる。

 ほぼ空洞同然の内部には琥珀色の球体とその中に小さなネズミがいた。

 

「やったぜ。当たり」


 一度その場から離れ、確認したことをギルに報告すると、ハンドガンのようなものが渡された。

 これをどうするのか、と奏が問うと


「お前の買った喧嘩だろ? お前がやるんだよ」


そう笑ってギルは言う。

 コアが剥き出しになったからなのか、ネズミは凶暴化し、先ほどよりも速い動きをしている。

 当てられない、と思う。


「外は任せな。行ってこい」


 だが、その気持ちを分かっているように発せられたギルの言葉に背中を押された。

 剣と鉄球を下ろして身軽になり、ネズミへと向かって走る。

 道は他の仲間たちが切り開いてくれる。

 奏はなんなく足元まで辿り着くことができた。

 

「中は空洞だし外れても壁に当たって衝撃が吸収されるだけだな」


 覚悟を決め、内部に入る。


「うわあああああああ!」


 ずるっと足を滑らせてそのまま下まで落ちた。

 幸い、内部も柔らかかったため無傷だ。


「外からだと大変だけど中からだと何もできないのか」


 そう呟いて中央に浮かぶ球体に狙いを定める。

 放たれた弾丸は少しずれ、壁に当たって落ちる。


「なかなか難しいんだな」


 しっかり狙ってもう一度。

 今度は狙った軌道で球体に当たった。しかし、弾かれてしまう。

 よく見るとひびが入っているようだが


「硬すぎるだろ……うわっ⁈」


 突然、足元が揺れる。というか、この巨大ネズミが激しく揺れている。

 どうやら奏がコアを攻撃したせいで、ネズミが凶暴化したようだ。

 外は、と思いかけてやめる。

 外はギルたちに任せたのだ。自分は早くこれを破壊する、それだけだ。


「おらあっ!」


 揺れる足場で、やけに時間がゆっくり流れているように見える。

 弾丸はまっすぐ球体を狙って進んでいき、


__パリーン。


 高い音と共に球体が割れ、奏は外に弾き出されて尻餅をつく。

 見ると、巨大だったネズミがみるみるうちに縮み、元の小さいものに戻っていた。


「お疲れさん」


 近くに来たギルにわしゃわしゃと頭を撫でられる。


「ありがとうございます!」


 奏はそれを受け入れながら楽しそうに笑った。

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