08.Let’s get this game started
「信用したわけではないですからね。ただ、これしか助かる道がないから一応信じてるんです」
残りの十一人を庇うように前に出た少年は三人に釘を刺す。
「うん、それでいい…………いいんやけど、めっちゃしっかりしてない?! え、何歳?!」
「九歳ですけど……」
「ああ、確かに凄いしっかりしてるな」
「なー。と、そんな場合ちゃう。まず何から話せば良いかな……早くせんとあいつら戻ってくるかもしれんし」
どうしようか、と呟く玲音に少年が
「あいつらは大体十分ぐらいどこかに行きます。まず、僕から聞かせてください。あなたたちは何者なんですか?」
と、問いかける。
「我たちは冒険者やで」
腕輪を少年の方に向け、ギルド証を表示させる。
「ルカちゃんのお兄ちゃん、ロイくんに頼まれてこのクエストを受注したんや」
少年は三人のギルド証を確認し、ルカの方をちらと窺うと、「わかりました」と頷いた。
「僕はカルアです。改めてお願いします。僕たちを助けてください」
「もちろん」
「すずちゃん、そろそろ時間が」
「あ〜……じゃあ我たちは一旦外に出て、またタイミング見計らって来るから」
「分かりました。多分あいつらはまた同じ時間にどこかに行くと思います」
「ありがと」
一行は一度、洞窟の外に出た。
来た時よりも霧は濃くなっていて、少しでもこの場から離れたらもう二度とここに辿り着くことは不可能とさえ思える。
「出来れば街戻って人集めたいんだがな」
「無理そうやなぁ」
「せめてギルさんに知らせられたらね……」
三人寄ってみたが、特に良い策は思い浮かばない。
「とりあえず今日はここで野宿かな」
「せやな。早瀬、今日は」
「残念ながら新月じゃないと思う」
「やんなぁ」
空は霧で見えないが、山に来たときと同じ天気なら今日は月が見える。つまり、【月夜の音楽隊】が子供をさらってここへ連れてくる。
指揮者と仮面女の二人組は「後二人」と言っていた。あまり猶予はない。
「明日で十三人揃うかもしれんってことか」
そうなれば、今は囚われているだけの子供たちもどうなるか分からない。
「俺らじゃどうしようもないから一回戻って人を集めるしか……」
「……それしかないけど、ここに辿り着けたのってほぼ運でしょ?」
「ほぼって言うか適当に歩いてただけやから百パーセント運やね」
「街に戻っても、もう一回戻って来れるかどうかってことか」
玲音の言葉に奏は考え込むようにじっと宙を見つめ、
「__よし、助けるぞ」
そう宣言した。
ぽかん、と二人は呆気に取られたような顔をし、ややあって、小さく吹き出した。
それにつられるように奏も口角を上げる。
「まぁロイくんと約束しちゃったしなぁ」
「それにクエスト受注もしたし」
「中にいる子らとも約束したしね」
まるで言い訳をするように三人は口々に言う。
変わっている。
クエストとはいえ、三人がしようとしているのは人助け。それに言い訳が必要だとは。
「じゃあざっくり計画立てるで」
表情と声色が変わった。
「まず最優先は子どもたちの解放だな。出来れば街に行って人を呼んできてもらおう」
「でも、こんな霧じゃ迷子にならない?」
「そうだな……じゃあ救出したら全員でさっさと街に戻ろう」
「いや、それやと今日連れてこられる子が助けられん」
うーん、と唸って会話が止まる。
「とりあえず子どもたちの救出は絶対やな」
「うん。それから洞窟の近くで待っててもらう?」
「それなら中で待っててもらった方が良いかも。俺のこれは外じゃないと使えないから」
奏の背負う鉄球の鎖が鳴った。
「じゃあ我は子どもたちの防御最優先で早瀬の援護するわ」
「私はすずちゃんに魔力分けながらこの毒でできるだけ援護するね」
「……いやまって、キツくね。向こうは剣士とかいかにも戦闘系ジョブじゃなさそうだけどこっちは俺だけでしかも戦闘力ゴミクズだよ?」
それを聞いて三人は真顔で静かになった。
「……詰みゲーやな」
「まあでもやらないとね」
笑顔が戻る。
「死なない程度に無理するか」
そう言い、救出のチャンスを探るためもう一度音を立てないように洞窟の中へと入っていった。
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物陰から様子を窺い、暫くすると二人組は少し前と同じように消えた。
それを機に三人は奥へと走り出す。
足音を聞いてかコウモリは飛び去っていった。
「今から格子を壊すから出来るだけ奥に離れててくれ!」
全員遠くに離れたのを確認し、奏は短く持った鉄球を思い切り格子に叩きつけ、脆くなったところを押し広げる。
「ぐっ……かった…………」
「そりゃそうやろ。どう? これぐらいなら通れる?」
杖でテコの原理を使ってさらに押し広げ、子どもを助け出していく。
カルアもギリギリではあるがなんとか抜け出せた。
「誰か街に戻る道分かる子はおる?」
少しの希望を持って聞いてみる。
手は上がらない。
やはりそうかとここで戦闘になることを伝えようとすると、小さく手が上がった。
「森にいる動物さんにきいたらわかるかもしれないの」
ルカだ。
「動物にきく?」
「わたし、動物さんと話せるの。だから、きいたらおしえてくれると思うの」
その言葉に三人は目を合わせる。
それならいける、と。
「それならここから出て、ギルっていう人に事情を説明してほしいねん。赤い竜を連れてる狩人で、この山の麓で狩をしてるはずだから。いなかったら【ディアコペス】っていう酒屋に行って欲しい」
「分かりました」
ルカに代わりカルアが了承する。
「くれぐれも無理はしないでね。迷子になりそうになったらその場で待ってて」
「はい」
「とりあえず早く出口まで移動するぞ。そろそろアイツらが戻ってくる」
小さい子は抱き、手を引いてなるべく早く外へ出る。
「ルカちゃん、呼べる?」
「はい! おーい‼︎」
少し経って、ぞろぞろとオオカミやリス、ウサギなどが霧の中から出てくる。
「わたしたちを助けてほしいの。誰か、赤い竜と一緒にいる人をしってる?」
集まった動物たちが吠える。
「つれてってくれるみたい!」
にこりと笑ってルカは言った。
これで応援を連れてきてくれれば三人は最悪の状況からは脱却できる。
「任せたぞ、カルア」
「こっちは任せてください」
「ルカちゃんもありがとう」
「それじゃああいつらが攫ってきた子も救出するから。そしたらすぐに逃げろよ」
そう残し、中へ。
幸い、二人組はまだ戻ってきていない。
「俺が鎖で動き封じるから」
「私とすずちゃんで救出だね」
「洞窟と街の移動みたいにテレポートされないように気をつけな」
と言っていると突然、物陰の先に指揮者と仮面女、少年が現れた。
ほぼ同時に玲音と王兎が飛び出し、奏は鎖を指揮者と仮面女の足に巻き付ける。
二人の一瞬の狼狽を見逃さず、王兎は少年の手を取って救出した。
「そのまま走れ!」
その声に押されたように、少年は慌てて外へと走り出す。
二人組もただ眺めているだけではない。
仮面女の竪琴の音が響き、どこから現れたか大量のねずみが少年を追いかけようとする。
「行くてを阻め、《壁》!」
が、玲音の宣言で土が盛り上がり、少年の方へは行かせない。
「こっちだよ、【月夜の音楽隊】さん」
「始めよう」
これからの投稿の仕方について明日、活動報告の方に詳しく載せます。
長らく更新できずすみませんでした。




