水の国の門番④
ソラとサリアが帰ってきたのは、西の空が茜色に染まりつつある時間帯だった。
サリアを片手で抱き上げたまま行きと同じく転移魔法を使って門へ戻ると、苛立ちを隠そうともせず、貧乏揺すりをして待っている相棒の姿を見て、ソラは思わず笑ってしまった。
アオはソラとサリアの姿を確認すると、得物を持ち2人に近付いた。
「遅い! どこまで行っていたんだ。サリア様は無事なんだろうな?」
怒りを隠そうともしないアオの姿が微笑ましく思いつつ、早く誤解を解いてやろうとソラは胸を張って答えた。
「近くの草原。春の半ばなら綺麗な花々たちが咲き乱れていたんだろうが、まだ少し早かったみたいだな。俺の命に代えてもサリア様の無事は保証する」
「ほぅ、ならば死ぬ覚悟はあるようだな」
カチャリと得物を構え出すアオに、ソラは手を高速で振り否定する。
「いやいやいや、だから無事だって! 怪我1つしてないからな!」
「サリア様がいなくなったことにより受けた、私の精神的ダメージの報復をお前に受けてもらわなければ私の気がすまない。」
「八つ当たりかよ!?」
「問答無用!」
襲い掛かってくるアオの姿に、ソラはサリアを腕から下ろし素早く得物を横持ちにしてアオの一撃を受け止めた。
「あぶねぇなあ。サリア様に当たったらどうするんだよ」
「そんなヘマはしない。………だが、一利あるな」
本気でソラに襲い掛かるつもりはなかったのだろう。一撃打ち込んだだけで満足したのかアオは得物を振るい腕に滑らせてから地面に刺した。
ソラはホッと息を吐き、同じく得物を地面に刺す。
アオはソラの横を通り過ぎて、少し離れた場所に移動していたサリアの元へ片膝を地面につけて頭を垂れた。
「ご無事の帰還、心より安堵いたしました」
「もう、アオったら。そんなに御子のことが心配?」
「いいえ、御子だからではなくサリア様だからです。例え御子でなくとも、私はサリア様御身の心配をします」
曇り無き眼を向けられ一心に話されては疑う余地もない。
クスクスと笑い出すサリアに、アオが怪訝な眼差しを向けると「ごめんなさいね」とサリアは目尻に溜めた涙を拭い笑った。
(まだまだ未熟な御子の私を心から信じて守ってくれる存在がいる。……私は何て果報者でしょう)
サリアは祈る風に胸の前で両手を重ねて笑みを浮かべた。
「心から感謝します。水の国の入り口の守護者アオ、ソラ」
ソラは片膝を地面に付け、アオと共に拳を作った右手を額に当てながら頭を垂れる。
「「有り難き御言葉を頂戴いたします。水の国の御子サリア様」」
この物語は、未熟な御子サリアと水の国を守る2人の門番の話である。