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水の国の軌跡  作者: 海老沼 ケイ
3/6

水の国の門番②



 転移魔法を使った先は、城壁からあまり離れていない山の上の草原だった。国の宝である御子が外交以外で国の外に出ることは重罪であり、その片棒を担いだソラも本来なら死刑に近い罰が与えられるのだが、ようはバレなければいい話しだ。

 時空間魔法を得意とするソラは半径百十キロ圏内ならどこにでも瞬時に飛ぶことができる。


(この草原からなら、サリア様を自室まで送り届けるのに十秒あれば足りるな)


 ソラはゴーグルの望遠機能を使い、草原から国の中央に立つ城の距離を測りる。ソラやアオの持つゴーグルには多彩な機能が備わっており、通信機能もある。万が一、城で何かがあった時、相棒であるアオが知らせてくれると、ソラもサリアも信じて疑っていない。何だかんだ言って、アオはサリアの心情を一番大事にする。

 ソラはウンッと腕を伸ばし、のどかな風景にホッと息を吐いた。


「また頼ってしまいましたね」


 サリアの憂いな表情と独白に、ソラは城でサリアに何があったのか察したが知らないフリをした。


「良いんですよ。さっきも言いましたが、サリア様は国の宝です。宝物を守るのも一般兵の役目ですよ」


 ヘラッと笑い掛けると、サリアは僅かに笑みを浮かべ、草原に目を向けた。

 草花が咲き乱れ、春の心地よさを感じることができる。城の中の冷たい空気とは雲泥の差だ。こんなにも美しく穏やかな風景が目の前に広がっているのに、今のサリアは楽しめそうにもなかった。


「……私の御子としての力はとても弱く、これならば弟たちに御子の座を譲るべきだと言われました」


 サリアはグッとドレスの裾を握り、午前中に行われた授業で教育係の面々から言われた言葉が頭から離れない。




『これはまるで春雨ですな、とてもお優しいことですね(これでは国を守れない)』



『御年でいながら素晴らしい才能でございます(その年になってもこの程度の力しか使えないのか)』



『先代様へのお披露目か楽しみですな(恥を掻くに違いない)』



『弟妹様方の成長も素晴らしいものですよ(弟妹の方がまだマシだ)』




 耳を塞いでも聞こえてくる幻聴から逃れようと、サリアは両耳に手を伸ばす。本来、御子というのは神の力の代行人。水の御子は自由に水の力を操ることができ、歴代の水の御子の中には砂漠に雨を降らせたり、人々に害を成す汚染生物バイミリオを倒す力があると言われている。


(それなのに、私は水を出しても貯水槽を3分の1満たすので精一杯)


 己が御子の中でどれ程、未熟で弱い存在か力がないのかを授業の度に思い知り、このままでは歴代の御子たちへ顔向けができない。先代や国民たちへのお披露目まで一ヶ月を切っているというのにーー。



「サーリア様」


「きゃっ!」


 暖かな声が頭上から降ってきたかと思えば、サリアの視線は高くなりソラを見下ろしていた。

 国の宝であるサリアを、こうも軽々しく抱き上げている姿を冷静そうに見えるが、沸点がかなり低い相棒に見られたら殴られるどころの騒ぎではない。その様子を思い描きながらソラは苦笑し、サリアを右手で抱き上げた。


「安心して下さい、サリア様。ここにはあんたを傷付ける連中はいませんよ」


「ソラ……」


「外に行きたくなったらいつでも言ってください。サボりの口実になるんで、喜んであんたを連れ出しますよ」


「ありがとうございます」


 ソラはニッと歯を出して笑い、サリアを適当な所で下ろし、自分はその場で寝転がる。

 相棒の小難しい話しを昼一から聞いていたせいか酷く眠い。欠伸を一つ漏らして、ソラは深く息を吸い眠りに入った。

 ソラが寝入るのを隣で眺めていたサリアはドレスが汚れるのも構わず隣に腰を下ろした。

 ソラは優しい。サリアの事情を深くは聞かず、けど無関心ではなく寄り添うように側に居てくれる。


(本当はいけないことだと分かってますが、つい甘えてしまいます。もし私に兄がいたら、こんな感じだったのでしょうか?)


 誰も見ていないことを確認し、サリアはソラに寄り添うように寝転がり空を仰いだ。

 程よく暖かく、風は穏やかで優しく頬を撫でてくれる。ソラが眠ってしまうのも分かる陽気に、サリアは目を閉じて誘われるまま眠りに入った。


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