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水の国の軌跡  作者: 海老沼 ケイ
2/6

水の国の門番①

はじまりました!

今回の作品は一気に上げるタイプなので更新は遅めです。

よろしくお願いします。



「……と、ここまでが世界の歴史だが、聞いているのかソラ?」


「ん~~? ああ。聞いてるさ。アオ」


 アオが読んでいた本をパタンと閉じると、肩の辺りで切り揃えられた青灰色の髪が僅かに揺れた。白い生地で身体にフィットする制服を身に纏い、肩から胸下に掛けて巻かれた青色のマントは、左肩の辺りの金具で留めてある。

 身長はやや低めな上、華奢な身体をしているのが制服のせいで一目瞭然だ。あまり強そうに見られないが、見た目に反してアオは城で一、二を争う強さを誇っている。

 顔の上半分を覆い隠している鈍色のゴーグル越しから、寝転がって人の話しを聞かず居眠りしているようにしか見えない同僚――ソラを睨みつけた。

 ソラはアオと同じくらいの年で二十代前半だろう。身長は成人男性の平均値より少し高く、細身の割にやや筋肉質な体躯が制服の構造上よく分かる。半面、肌の色が少し焼けていることは夏場の半袖時期でしか知り得ない情報でもあった。

 銀色の髪が風に揺れ動き、目元のゴーグルが鈍色に光る。着ている物はアオと全く同じものだが、今のソラはマントを身に付けておらず、丸めて枕代わりにしていた。

 どこからどう見ても怠惰なソラの姿に、アオは目を細めて口端を歪めた。


「……本当に聞いているのか?」


「聞いてる、聞いてる。確か創世記についてだろ? 小さい頃、ばあちゃんに聞いたような聞かなかったような覚えがある」


「つまり、私の話しは聞いていなかったと言うわけだな」


 声色を落とすと、同僚は上半身を跳ねるように起こして肩を竦めた。


「心外だな、ちゃんとアオの話しも聞いてたさ。ただ、何でその話しをするのか分からなかっただけだよ」


「……なるほど、そういうことか」


「そうそう、そういうこと」


 フフッと笑みを交わし合う二人。―――の内、アオは地面に刺していた身の丈以上に細長く両先端に重りが付いた得物を引き抜き、手の甲と平の上で回し中心部を握る。


「それはつまり、お前が御子様に向かって阿呆な質問をしたからだ! 馬鹿者―――――っっ!!」


 突きを繰り出すアオに対して、ソラはギョッとなり、足元に転がしていた己の得物を手にしてアオの一撃を受け止めた。アオの得物と違い、長さはソラの体躯の半分ほどしかないが片方の先端が薄く平べったい形状で、大昔の書籍に出てくるカヌーのオールのような見た目をしている。平べったい形状をしている方が重くなっているため、一撃一撃を重い一撃にすることができるのが特徴だ。

 体格や筋肉量でソラに適わない。アオは瞬時に悟り得物を自身の方へ引き寄せると、さらに加速して突きを繰り出した。


「―――っ!」


 スピードの上がった突きを、ソラは全て受けきることができず腕や足に当たる。

 急所に当たりそうな一撃を受け流すだけで手一杯だ。

 このままでは負ける。――そう判断したソラは無茶を承知で一歩、踏み出し左斜め下から得物を振り上げた。


「そこまで!」


 凛とした美しい声が二人の動きを完全に静止させた。


「お止めなさい。二人とも、こんなところで何をしているのですか」


 コツコツと音を立てて現れたのは十二、三歳ほどの美しい少女だ。

 金色の長い髪と海の様に青い瞳。白いドレスには金細工やパールが散りばめられ、少女の美しさをより一層引き立てていた。


「御子様」


「サリア、と呼ぶように伝えたはずです」


「サリア様」


 アオが言い直すと、サリアは満足気な笑みを浮かべた。


「サリア様はどのような用でこちらに?」


 ソラのサバサバした言い方に、アオは咎めるように睨みつけるが、当のサリアは気にしていない様子でソラの問いに答えた。


「少し外の空気を吸いたくて城壁へ足を運んだら、下が騒がしかったので見に来たのです」


「お騒がせしたことは謝罪いたします。しかし、サリア様もあまり軽率な行動はお控えください。護衛もなしに、城壁へと赴くなど無防備にもほどがあります」


「護衛がいてはすぐに城の自室か礼拝堂へ連れて行かれるんですもの。それに城下の街は安全です。常に警邏の者が巡回していますし、私自身、身を守る術は持っています」


「街が安全なのは表向きの話しです。少し裏路地に入れば、そこは鬼も裸足で逃げだすような無法地帯。警邏の者たちが何度、弾圧しても、すぐに湧いて出てくる負の蛆虫たちの巣窟場です。街の一人歩きはお控えください」


 アオは首を垂れて片膝を地面に付け、左胸に右手の拳を押し当てた。


「貴女様は次期水の国の御子様となる御方。成人の儀の暁には神々の力の全てを継承し、この国を守っていく唯一無二の存在です。どうか、貴女様お一人事として行動なさらないで、ご自愛ください」


 願うように言葉を繰り出すも反応がない。

 アオは恐る恐る顔を上げると、不機嫌そうに眉を顰めたサリアの姿と、腕を組み口元をへの字にするソラが並んで立っていた為、動揺が走る。


「え、あ、は……?」


「聞きましたか、ソラ」


「聞きましたよ、サリア様」


「私はソラとアオの喧嘩している姿が見るに堪えずに、勇気を振り絞って二人へ声を掛けたというのに冷たい言葉を掛けられました。とても悲しいです」


「お可哀想なサリア様。我が同僚の言葉に傷付けられるなんて、私も心を痛める所存です」


「ええ、とても辛いので心に休息を欲します」


「では、私めが叶えてあげましょう」


「いいのですか?」


「もちろんですよ。サリア様は国の宝、そんな方の心に陰りが見えたのを知りつつ放っておくなど、一般兵の私にはできませぬ」


「では、エスコートをお願いいたします」


「お任せください、マイロード」


 寸劇の如く言葉を交わし合った二人は、サリアがソラの差し出した手を取った瞬間にアオは二人の陰謀を知った。


「! ソラ、サリア様」


 白い粒子に包まれる二人。これは転移魔法の光だ。見た目や普段の馬鹿さ加減で忘れていたが、ソラは時空間魔法を得意とする月の国の出身者。そして、サリアがソラを重宝している理由の一つでもある。


「じゃあ、留守番よろしくな。アオ」


「後のことはお願いいたします」


 満面の笑顔を向けるソラとサリアに向かってアオは手を伸ばす。


「待て! 行くなっ」


 アオの言葉も空しく、アオの手がソラに触れる前に二人の姿は跡形もなく消え失せた。


「くそっ、またやられた!!」


 今月に入り、これで三度目だ。

 アオは己の未熟さに辟易し、拳を地面に叩きつけた。




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