司祭の忠告
更新遅れました。すみません!
町について直ぐに大司祭様達はこの町を管理している子爵の屋敷へと向かった。そこで子爵に挨拶を済ませると屋敷に張り巡らされている防犯用の魔法陣の確認をした。そこに浮かび上がった陣は私が前にリジェの大使館から抜け出そうとした際に誤って作動させてしまった陣だった。
バルバラに教わった話によると、神殿は心の拠り所であるだけでなく、人々にこうして奉仕する役目もあるそうだ。こういった魔法陣の張り方や魔術は司祭のみが知る秘術であり、神殿に与している国だけが享受することが出来る。偏に魔法陣といっても様々な効果あるものがあるそうで、大司教となればそれは多種多様なものが扱えるそうだ。
「ちゃんとこの人も仕事しているのですねー」
女装したジークが私に小声で話しかける。大司祭様に向かって全く失礼な物言いだが私も同意見である。
「大司祭様ありがとうございます。これで我らも安心して働けます」
「それは良かった。また皆の元気な顔を見れることを願っているよ」
大司祭様は子爵と和やかに別れると、やはりメインストリートの方に足を向けた。
「大司祭様。次はどちらに向かわれるのですか?」
私の問いに大司祭様は「おやつが食べたいんだ」と言って大通りの行き、カフェテラスに腰をかけた。
(こんな、目立つところで!)
大司祭様は紅茶とマフィンを注文し、商品が席に届く頃には大勢の人に囲まれてた。このエルヴィーラという国は、聖地が隣接した国であるが故に他国より神殿に対する信仰が厚いと言われている。(バルバラ談)大司祭なんて現れればそれはもうアイドル宜しく、一目見ようと、一言でも交そうと人が押し寄せるのである。
「場所を! 場所を変えませんか?」
これではお茶どころでは無い。押し寄せていると言っても、無礼は絶対に働いてはならぬ人の為、きちんと距離を保って円状に人集りが出来ている。人波に潰される事はないが、大司祭様と同席している私は針の筵になって居心地が悪い。
「困ったねぇ。疲れたなら先に宿に帰っていればいいよ」
この人、わざとこの状態を作り出してる訳じゃないわよね?
「いいえ。今日は大司祭様と共にいると決めていますから。それにしても大司祭様の人気ぶりには驚きました」
「俺は大司祭の中でも町に顔を出す方だしね。こう見えて働き者なんだ」
そう言いつつ大司祭様は寄ってくる女の子の手を握っては甘い言葉を囁く。
(この人の女たらしっぷりは病気ね)
私が諦めの境地で女性とのやりとりを見ていると、昨日と同じ中年の男性司祭がまたも止めに入った。
「そう思うなら女人を誑かすのをおやめください! あなた方も。この方は大司祭様ですよ、はしたない真似は止しなさい」
「ツェーザル君、営業妨害だよ」
「大司祭様! お立場に相応しい振る舞いをといつも申しておりますでしょう。いつになったら分かってくださるのです」
「うーん。堅いなぁ。司祭である君が大司祭である僕の事を理解するべきなんじゃないかなぁ?」
「っ! いい加減にして下さい」
司祭はカッとなり、大声で叫んだ。その時に大きく振るった腕が、卓上のティーポットを直撃した。
ポットは派手にひっくり返り中身が飛ぶ。手のひらに熱いお茶が跳ねた司祭は直ぐに自分の腕を引っ込めた。お茶はこちらに流れ出す。
「ドロシー様っ!」
ジークは私にかからぬように慌てて椅子を引いた。人ごとのようにその喧騒を見ていた私はハッとなり立ち上がろうとした、その時。力強く腕を引っ張られ抱きとめられた。辺りはシンっと静まりポタポタと机から落ちるお茶の音だけが聞こえる。
「大司祭様?」
今まで私を拒絶していた彼が、私を気遣った。
(一体どうして?)
「ツェーザル。客人にかかりもし火傷でもしたらどうするつもりだ!」
大司祭様はツェーザル司祭を威圧する。いつもにこにこと笑っていた反面怒ると本当に怖い。
「ありがとうございます、大司祭様。もう大丈夫です」
私は彼の胸の胸を軽く押し離れた。
「あ、ああ」
大司祭様は罰の悪そうな顔をして、そっぽを向く。彼が初めて見せた本当の顔に私は嬉しくなり思わず笑いが漏れた。
「何が可笑しいの?」
「いいえ、お気になさらないで下さい」
チラリと先程の司祭様を見れば、これまた青い顔をして、ぶつけた手を押さえていた。
「折角ですが、ドレスに少々お茶が跳ねてしまったようです。残念ですが、私は先に宿に戻らせて頂きます」
「分かったよ。僕はまだ暫くは町にいるから。テーブルを汚してしまった詫びをしなければいけないしね」
確かに机の上の片付けは大変そうだ。それでも、周りの人間にやらせて当たり前の立場だろうに。
(随分気遣いをする人なのね)
「よろしくお願いします。それで、宿への道案内に彼をお借りしてもよろしいでしょうか?」
私がティーポットをひっくり返した司教を指名したので大司祭様は少し目を見開く。
「彼でいいのかい?」
「彼が良いのです」
別に構わないと大司祭様からの許可を頂いたので、私はツェーザル司祭の元に行き宿への道案内を頼んだ。
「私なんかが宜しいのでしょうか」
「ええ。お願い」
耳元で、その手を早く冷やした方が良いでしょう? と言うと司祭様は黙って頷いた。
カフェの主人に事情を話し、水を貰い暫く冷やした後馬車に乗る。中では涙目のツェーザル司祭から大司祭様の愚痴を聞かされた。
「他の大司祭様はあんなんじゃないんです。ルカ大司祭様は見た目からチャラチャラして、女の人ばかり相手にして」
「まぁ」
(大司祭様のお名前初めて聞いたわ)
「私は階級が上がらず、うだつの上がらない男です。ですが、ルカ大司祭の軽薄な振る舞いだけはどうしても許せないのです」
「ご苦労されているのですね」
「分かってくださいますか!? ルカ大司祭様が大司祭の位に経ってからずっとお側におりますが、反感をもつ下級司祭も多く何かと纏めるのが大変なのです」
「そうでしたか」
よっぽど鬱憤がたまっているのだなぁと私は相槌を打つ一方、ジークは司祭の遠慮のなさに段々とイライラしているのが分かる。
馬車が宿に着き、私は部屋に案内された。ここでツェーザル司祭とはお別れだ。
「ありがとうございました。司祭様」
少々ぐったりしてしまった私がなけなしの笑顔で別れを告げると、ツェーザル司祭は、一瞬躊躇った後何か決意をした瞳で私を見た。
「姫君。ご注意下さい」
「え?」
「あの男が聖地に連れて行った女性が過去に数人おりました。しかし、何も不思議と聖地から帰ってこないのです。女性達は平民なのに加え、それぞれ国が違うため人々が不信感を覚えることはないてしょう。亡くなった、と神殿は発表しておりますがとても信用なりません。どうぞお気をつけください」
3話のヘリオス国にあったリジェの大使館はリジェ国内とみなされるため、上級司祭が魔法陣を張りました。




