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パーティの始まり

 パーティの日、当日。私は雨乞い師の舞衣装に身を包んだ。私の正式な衣装はこれだから。人生初のパーティがいよいよ始まる。


(あぁ、上手くやれるかしら。アレクシス様に恥をかかせたらどうしよう)


 私が頭を抱えていると、アレクシス様が、私の部屋を訪れた。


「準備は出来たか?」

「もう少しです」


 私の格好を見たアレクシス様は溜息をついた。


「この国の王がお前をパーティに出さない気持ちがよくわかる」

「あー。ドロシー様は、お立場は勿論のこと、めちゃくちゃ美人ですからね。男性は間違いなく放っておかないでしょうね」


 シモンがうんうんとうなづく。


「それはどうかしら」


 私は苦笑いする。

 後はアクセサリーをつけて終わりだ。

 しかし、私は目の前にある宝石箱に伸ばす手をぱたと止める。


(これ、ジョシュア殿下から頂いたものなのよね)


「シモン、以前陛下から頂いたアクセサリーを出してくれる?」

「かしこまりました」


 アレクシス様は目を見開く。


「良いのか」

「私はこの度のパーティでは舞を致しません。主催する側ではなく、来賓側での参加になりますから。それならば、私はアレクシス様に頂いたものを身に纏いたいのです」


 私はアレクシス様のパートナーとして参加することになっている。この度のパーティの参加者は家族や恋人など、パートナーを伴っての参加が認められている。勿論、城の者は私が参加することは知らない。


「そうか」


 メイドは衣装に似合うものを、次々に選んで私を飾り付けていく。私は普段から身につけている装飾品が多い。その為パーティ仕様に、そしてリジェの財力を示すためさらに派手な装飾をどんどんと付けられていく。各所がずっしり重い。


「これも持っていけ」


 王の言葉に合わせて、横に控えていたアルノーが5cm角程の小さな青い箱を取り出し、蓋を開ける。

 中には指輪が入っていた。


「これって……」

「左手を出せ」


 王が差し出した手に私の手を重ねる。すると、アレクシス様は私の薬指を優しく持ち上げ、ゆっくりと指輪をはめる。水色の大きな魔石が指輪の中央で輝き、リングの方にも無数の細かい透明の魔石が所狭しと飾られている。それは舞の衣装にとても良く似合っていた。


「素敵……」

「急ぎ用意させたが、無いよりはマシだろう」


 これをマシと言ってしまえるリジェ国の財力に震える。


「ありがとうございます。こんな素敵なプレゼント初めてです」


 誰が見ても文句の無い婚約指輪だ。こんなに丁寧に贈り物をされたのは初めてで、嬉しくて嬉しくて目頭が熱くなる。


「そうか。お前の喜ぶ顔が見れるならいくらでも用意しよう」

「もう十分なのですが」

「私がまだ足りぬ」


(この人。真顔でこんなこと言うんだもの)


 心臓がいくつあっても足りない。この残虐王がこんなに優しい声を出すなんて、多分誰も信じてはくれないだろう。


 私の準備が整うと、馬車に乗る。会場である城には時間ギリギリに着いた。つい最近まで住んでいたはずの城もなんだか懐かしい気がする。


(さぁ、戦いの始まりね)


 アレクシス様が私をエスコートする。その力強い腕に私は安心感を覚えた。


(大丈夫。私にはこの人がついているから)


 会場のドアが開かれ、私達が入場すると入り口で大きくアレクシス様の名前が呼ばれ招待客全員の目がこちらに向いた。


「雨乞い師がリジェについたというのは本当であったか」「この場に連れてくるとはなんとも大胆な」「ヘリオス国もリジェに取り込まれるのも時間の問題だな」


 そんな声が聞こえる。

 アレクシス様はそのまま真っ直ぐヘリオス陛下の元へ向かった。ヘリオス王は他の招待客、おそらく他国の貴族と話をしていた様だが、貴族の方が空気を読んでヘリオス王に別れの挨拶をし、そそくさと去っていった。


 ヘリオス王は、私を瞳に映し穏やかに

笑顔を作った後、丁寧に挨拶を述べた。同じ王同士でも国格が違うからだ。


「よくいらっしゃいました、リジェ王。戴冠式以来でございましょうか」

「ああ、パーティが終わった後、貴殿とじっくり話しがしたい。時間をとってくれるな?」

「もちろんでございます」


 この場を乱す様な無粋な真似はお互いにしない。招待客が興味深そうに聞き耳を立てていたが、ヘリオス国も身内の失態を大っぴらにはしたくはないだろう。辺りを見回すが問題のジョシュア殿下は見当たらなかった。先日の様子から察するに、謹慎か何かが言い渡されたのかもしれない。


 パーティは立食式だった。大勢の貴族が、アレクシスに挨拶にくる。話の内容は只の挨拶から、商売の話まで多岐にわたる。私のことについては皆触れていいことかわからないようで、話題にされることはなかった。リジェのパーティなら兎も角、ここはヘリオスの顔を立てるのがマナーだからだ。


 私はといえば最初は一生懸命会話を聞いていたものの、専門用語も多く、何を言っているかさっぱりだった。挨拶にくる人の顔と何を話題にしたかだけをとりあえず暗記することにした。今はそれで精一杯だ。今までそれなりに勉学に励んできたが、ヘリオスとリジェでは国の方向性が違いすぎて、私の知識は全く通用しなかった。


(うん。勉強からしっかりしなきゃ)


 いくらアレクシス様から(まつりごと)に関わらなくていいと言われても、それでは私の気が済まない。彼の愚痴を聞くにしても、基礎知識がなければ、慰めることも共感することも難しいのだから。

 それにしても。あちこちから美味しそうな香りが漂ってくる。特にデザートコーナーは凶悪だ。甘い香りが私を誘惑する。会話の合間に、その時がチャンスとケーキを取りに行こうとしたが、少しでも離れようとすれば、直ぐに腰に手が回り引き寄せられる。


(どうせ食べられないなら目の前に置かないで欲しいわ)


 パーティとは存外つまらないものだ。

 知り合がいるわけでもないし、私の役割といえばリジェ王に挨拶にくる貴族達に笑顔で挨拶を返すだけだ。そんな矢先、1人の見知った顔を見つけた。


 ジョシュア殿下だ。意気揚々と私の方に近づいてくる。


 それに気づいた招待客たちはお喋りを止め、こちらに注視する。ヘリオス王は真っ青になって「お前に参加は許しておらぬ。部屋に戻れ」と叫んだが、アレクシスは「構わない」というようにそれを手を上げて制した。


「何用だ」


 ジョシュア殿下はアレクシス様に礼をする。


「先日ぶりでございます、リジェ王。雨乞い師ドロシー・レイナーに話があり参りました」


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