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墓参り

 翌日、朝食を食べた私たちは墓参りをする為、馬車に乗り街の郊外へと向かう。今回も雨乞い師は顔を隠し、リジェ国のドレスを着る。鬱陶しいアルノーは館に置き、シモンだけ雨乞い師の護衛として連れて行く。


 街を抜け、舗装された道をそのまま進むと見晴らしの良い平原が広がり、色とりどりの花が咲き乱れている丘が見えてきた。

 丘の頂上で馬車を降りると、大きな石碑が地面に横たわっていた。そこには歴代の雨乞い師の名が刻まれている。丘のずっと奥には深い森が広がり、あそこが以前に雨乞い師が言っていた満月葉の取れる森なのだとわかった。



「ここね、雨を降らせたお礼にって、街の人がお参りにきて綺麗にしてくれてるんですって」

「だから、こんなに綺麗なんですね」

「うん。嬉しいよね」


 雨乞い師は石碑の前に立ち、手を合わせ目を瞑る。横に立つシモンもそれに倣った。


(ここが雨乞い師の母が眠る場所)


 風が吹き花が揺れる。なんとも気持ちのいい場所だ。

 少しの間、雨乞い師の横顔を見ていると、目を開けたシモンが私に場所を空けた。石碑は大きく場所も広いのでわざわざそんな事もする必要もないのだが、気を利かしてのことだろう。


「陛下、私は護衛をしますから母君に挨拶されませんか?」


 俺は前に進み、石碑の前に立つ。


(雨乞い師は連れて行くぞ)


 ただ、心の中でそう思った。


ーー大事にして下さいね。


「!?」


 何処かでそう聞こえた気がした。しかし、辺りを見回しても何処にもそれらしき人物はいなかった。


「……当然だ」


 空耳に返事をしても仕方がないかも知れないが、言わずにはいられなかった。

 不思議そうな顔をする雨乞い師を無視し、馬車に乗り込もうとした時、街の方から悲鳴が聞こえた。


 シモンが雨乞い師に張りつき、自然と緊張した空気が漂う。


「なんだ?」

「あ、あそこ!」


 雨乞い師が指差した先はここから少し離れた森の北側だった。そこから煙が上がっているのが見える。

 多くの人間が森を見ようと、街を飛び出し、続々と丘や平原に集まってきた。


「帰るぞ」


 俺は雨乞い師の腕を引っ張るが、雨乞い師は動こうとしない。


「出来ません」


 雨乞い師は青ざめて言った。


「あの森にしか満月葉は生えません。それにあの火が街までくればどうなるでしょう?この乾燥し、水の貴重な国で、私が対処せず誰がしましょうか」

「国がお前を探しているんだぞ。舞うならせめて館へ帰ってからにしろ」


 そうこうしてる間に火の手はあちこちで上がる。


(何者かが、人為的にやっている。罠だ)


「早くしないと森が……」

「シモン、連れていくぞ」

「はい」


 強引に連れ出そうとするシモンを雨乞い師は突き飛ばした。


「ごめんなさい」


 そう言って、雨乞い師は近くにいた野次馬の女の方に向かう。


「そのストールを貸してください」

「えっ……?なにを言って」


 女は怪訝な顔をして雨乞い師を見た。それもそうだろう、こんな時に見知らぬ人間に意味不明なお願いをされれば、誰でもそう思う。顔を隠していたことに気づいた雨乞い師は頭につけていたヘッドドレスを乱暴に外す。


「私は雨乞い師です。火を消火しますのでストールをお貸しください」


 話しかけられた女は目を見開き、頷く。それを見ていた周りの女性も羽織っていたストールを差し出した。


 名乗ってしまった以上、ここから無理に連れ出すことは出来ない。無理に連れ出そうとすれば、街の人間は抵抗するだろう。見ようによってはこちらが誘拐犯に見えてしまう。


 雨乞い師は2つのストールを結び両端を自分の手首に結ぶ。次に、ポケットから満月葉を取り出し、口づけをした。魔力が篭められた満月葉は淡く光り弾けると砕かれた光が雨乞い師に降り注ぐ。


 淡く光りに包まれた雨乞い師は優雅に舞った。まるで、月明かりに照らされたあの時の様に。豪奢な舞台や音楽が無くてもその美しさは損なわれることも無い。

 次第に雨雲が現れどんどん発達していった。空が暗くなることにより、金色に光輝く彼女をより幻想的に見せていた。


「私は初めて見たのですが、雨乞いの舞とは、こんなに美しいものなのですね」


 シモンが呟く。それと同時に森に大量の雨粒が降り注いだ。滝の様な雨により、森の火はみるみる小さくなっていく。


 時折吹く風により、飛んできた雨粒がかかることはあるが、雨は見事に森の上空にしか降らない。


(美しい雨だ)


 ここにいる誰もがそう思ったことだろう。民衆から歓声が上がり、雨乞い師は最後に膝を折り曲げ礼をした。


 舞い終わった雨乞い師はキョロキョロし、私と目が合うとホッとした様に此方へ駆け寄ってきた。


「終わりました。勝手をして申し訳ありません」


 息を切らしながら、雨乞い師は頭を下げる。


「もう良いのか」


 雨乞い師はぱっと顔を上げて、はいと返事をした。その満足そうな顔が幼い頃に王子に見せた表情と重なる。


 あの時は舞が終わると直ぐに王子の元へと向かった。それが、今は自分の元へ来る。それが、どんなに自分が望んだ光景だっただろうか。


 私は雨乞い師の頭を撫でる。


「何ですか?」

「良くやった」


 そう言ってやると雨乞い師は満面の笑みを見せた。


「褒められたのは初めてです。……もう呆れられてしまったかと」


「お前は自分の意思を貫いた。私はそういう人間では嫌いでは無い……ドロシー」


 名を呼ぶと雨乞い師は顔を真っ赤にして、私の袖を掴んだ。


「今、名前を呼ぶなんて狡いです」

「雨乞い師、と呼ぶ方が良かったか?」


 雨乞い師は俯いて顔を横に振った。


 その時だった。


「探したぞ!ドロシー!!」


 その声にドロシーの肩がピクリと反応した。彼女の名を呼んだ派手な装いをした男が大勢の兵を連れて駆け寄ってきた。


(やはり来たか。それにしても王子本人のご登場とは)


 ジョシュア王子がドロシーにした事を思えばこの場で叩き斬ってやりたいが、それはこいつの望むものではないのだろう。


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