お兄ちゃん
「なあ」
「なーに?」
「なんでお前俺の部屋にいんの?」
今俺は自室の端に置かれた勉強机に向かって勉強をしている。だがそこに邪魔物が一人、いや一体。
「ふふふ。それはね」
そいつは俺のベッドに座って俺に微笑む。
「私がお兄ちゃんの妹だからだよ?」
「今すぐ出ていけ」
そう、こいつは俺の妹の奏。もう中学三年生で来年から高校生だというのにこいつはまだ兄離れができていない。もしかしたら笠野以上に曲者かもしれない。
「もうお兄ちゃんつれないなー。昔みたいにイチャイチャしようよー」
足をバタバタさせてごねる奏。
「そんな記憶は一ミクロンもないし、お前受験生だろ勉強しろ」
「勉強ばっかりしてちゃ逆効果になりかねないからね。時には休息というのも大事なのだよ」
「お前、それずっと言ってないか?」
「んー? なんのことかな?」
「お前なあ」
「大丈夫だって!! 志望校の学力よりかなり上だから私」
「本当かよ。っていうかお前、志望校とか決めてたの?」
「うん、お兄ちゃんが今の高校に入学した時から決めてたよ?」
「おいお前まさかそれって」
プルルルル、プルルルル。
「あ、電話だ」
「あ、おい。まったく、あいつのブラコン振りには流石に呆れるぞ」
それにしても、家に電話なんて珍しい。うちの親は仕事で基本的に家に居ない。だから、親に用事がある人なら家にかけるより携帯にかけるはずだ。だから、家に電話をかける相手は大抵俺か奏にようがある者だ。まあでも俺に電話がかかってきたことはないが。理由は言わずもがな。だから、どうせ今回も奏の友達、ん? 何か忘れているような。
「あなた、お兄ちゃんの何なんですか!!」
奏の怒鳴り声が聞こえた。この時、俺は超重要なことを忘れていたことに気づいた。俺が携帯を持ってないから代わりに教えたんだった。家の電話番号を。あいつに。
「おい奏!! 今すぐその電話を切れ!!」
慌てて奏の元へと駆けつける。だが、奏は電話の向こうの相手に何か質問されたようで。
「え? 私? 私は......、お兄ちゃんの愛しきどれ」
ガッ!!
「はい、只今代わりました」
なんてこと言い出すんだこいつは!! やはりこの妹は一番の危険物だ。
『ねえ!!!! ちょっと今の誰!?』
ぬおっ!?
「電話越しにそんな大声を出さないでくれ。耳が痛い」
『あ、ごめん。ってそんなことより!! 今の可愛い声の女の子誰なの!? ほ、本当に雨宮君のど』
「妹。ただの妹だから。お前まで何を言うんだ」
『妹? ああ、中学生の妹がいるんだっけ?』
「そうだよ。ん? 言ったことあったっけ?」
『ふえ? えっと......、あ、雨宮君の友達に聞いたんだよ!!』
「いや俺高校に友達いないんだけど」
ああ、自分で言ってて泣けてくる。
『「大丈夫!! 雨宮君(お兄ちゃん)には私がいればいいんだから!!」』
「そこでハモらないでくれ」
なんか俺がダメ人間に思えてくる。
『え?』
「いやなんでもない。ところで友達ってどこの友達に聞いたんだよ?」
『そ、そんなことよりも次の日曜日のデートの件だけど!! 場所は近くのショッピングモールでいいかな?』
「いやデートじゃなくてただの買い物な」
『別にデートでもいいじゃーん』
「よくねえよ、彼氏持ち」
あと、受話器に聞き耳立ててる魔物が「デ、デートダト?」とか言って見るからに殺気立ててんだよ。
『......』
「ん? どうした?」
急に受話器から声が聞こえなくなった。まさか、切られた!?
『あ、いやなんでもないよ!! とにかくじゃあ場所はそこで、9時集合ね!!』
おお、切らてたわけじゃなかったみたいだ。
「ああ、分かった」
『うん、じゃあそう言うことでまたね』
「ああ、またな」
そう言って俺は電話を切るため受話器を耳から離し、
『お兄ちゃん』
「っ!? おま」
ツー、ツー、ツー。今度こそ切られた。
やられた。やっぱり一番危険なのはあいつかもしれない。
「ちょっと!! お兄ちゃん浮気!? 浮気なの!?」




