連絡先を交換しよう
「ねぇ。私、気付いちゃったんだよ」
今は学校からの帰り道。かつての二宮金次郎を見習い、俺は教科書を読みながら下校する。
「私たち今週の日曜日一緒に出かけるよね?」
どうしてさも当然のようにこのJKは俺の隣を歩いているのだろうか。
その辺を聞いたところ、「司は部活があるから」とのことらしい。彼女ならば待てよ、と思うのは俺だけだろうか。
「そこで、待ち合わせをするのに必要なものがあります。分かるよね、雨宮君?」
「紙袋か?」
「違うよ!! そんなのお店で袋貰えばいいでしょ!! てか待ち合わせに必要なものじゃないし!!」
何言ってんだ、お前の頭にかぶせるようだ馬鹿野郎。
「全く雨宮君のそのご立派な頭でもわからないのかい?」
「ご立派な頭って、なんかトサカでもついてんのか俺の頭には?」
「登坂? だれよその女!?」
馬鹿だろこいつ。あと、どっちかというと男っぽくないか? イケメンで歌とか歌ってそうだろ?
「まあくだらないことはさておき」
「お前が言ったんだよ」
「私気づいちゃったんです」
「自分が馬鹿だってことにか?」
「それはお腹にいた頃から知っています」
それはもはや賢くないか?
「私気づいちゃったんです」
「この世界の真実にか?」
「そんなのTKG最強で事足ります」
TKG? 東京が最強? お前大阪に喧嘩売ってんのか? やめとけ飴ちゃん口いっぱいに突っ込まれるぞ(偏見です)。
「って、さっきから私のセリフの邪魔しないでよ!!」
「RSZだから大丈夫だよ」
「RSZ?」
「ろくなセリフじゃない」
無言で溝打ちを食らった。なぜ?
「はあ。連絡先だよ連絡先」
「便座臭い?」
「私はトイレに行きません」
一昔前のアイドルかよ。
「雨宮君ケータイ出して」
「え、やだ」
「なんで!?」
「俺はカツアゲには意地でも屈しない!!」
「よーし、にいちゃん、ジャンプしようか?」
「このキャッシュレスの時代にそれは古いぜ」
「問題ない。私の耳には財布の中のクレジットカードの擦れる音まで聞こえる」
「人外恐ろしい」
「もう冗談はいいからケータイ貸して。雨宮君きっと連絡先交換とかしたことないだろうから私がしてあげる」
まったくその通りだがムカつく。
「良かったね。初めての女子が私だよ? 普通の男子なら自殺ものだよ?」
「あながち否定できないのがムカつく」
「へっへーん」
「だが断る!!」
「なんで!?」
「いやなんでっていうか」
「ねえ」
急に立ち止まって真剣な顔を向けてくる笠野。
「そんなに私のこと嫌い?」
「っ!?」
「嫌いなら言って。もう関わらないから」
「急に何言って」
「言って」
いつものふざけた調子じゃない。真剣さが伝わってきた。今関わるなって言ったらきっとこいつは本当にもう関わってこない。そんな気がした。
願ってもみねえチャンスじゃねえか。今突き放せば俺は自由に......。
「持ってないんだよ」
「......え?」
「だ、か、ら!! ケータ持ってないんだって!!」
「......はい? ケータイってあのケータイだよ? 今や全国の高校生9割以上が持っているアレだよ?」
「そのケータイだ」
笠野はしばらくフリーズして、
「......プッ。プハハハハハ!! さすが脳内年齢おじいちゃんだねほんと」
爆発した。
「こうなるからいうのいやだったんだよ」
「ごめんごめん。別に馬鹿にしているわけじゃないんだよ?」
「それが馬鹿にしてると言わずしていかにして人を煽ればいいんだ、あ?」
「本当だって。安心しただけだから」
「安心?」
「そ、安心。雨宮君に嫌われてたわけじゃないっていう」
そう言ってスキップをしながら俺の少し先を進み出す笠野。心なしか鼻歌も聞こえる。
「......嫌いではないってだけだ」
だれに聞かせるでもなくそう呟いた俺。きっと自分自身への言い訳だったんだろう。こいつと長く居られるだけの。