勝負をしよう
「そっち行ったよー!!」
「うん、任せて!!」
今は、体育の授業中だ。俺にとって最も無駄な時間だ。
「こっちだ!!」
「うん、頼んだ!!」
男女とも体育館でバスケをしている。もっとも、男女別ではあるのだが。
「やっぱ笠野さんの胸でかいよなぁ」
「ばっか!! 晴野に聞かれたら殺されるぞ」
俺は今ベンチにいる。まあ本当にベンチに座ってるわけではないのだが。コートの外の床に体操座りしている状態だ。俺の他にもベンチ入りしている奴がいる。そいつらはどうやら女子の試合を眺めているようだ。
そして、俺も女子の試合を見ている。その理由は、体育の前の休み時間に遡る。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ねえ。次の体育で勝負しない?」
「勝負?」
「そう、勝負」
「俺の運動神経の悪さ、知ってるだろ? その勝負は分が悪い。よって認めない」
「恥ずかしくないのかい? そんなすぐに女子に運動で負けを認めて」
「恥なんてもの持ち合わせてる余裕はない」
「うわー、頑固だねー。それなら、こうしない? 私が十回シュートを決めたら私の勝ちって事で」
「それは俺に有利すぎじゃないか?」
いくら運動が得意とはいえ、十回シュートは無理があるだろう。
「じゃあ、受けてくれるってことでいい?」
「何が目的だ?」
怪しすぎる。
「そんな疑うような目を向けないでよー」
「言わないと、受けないぞ」
「ただ買い物に付き合ってほしいだけだよ!!」
「いやだ」
冗談じゃない。なぜそんなことに俺の大事な勉強時間を潰さなければならない。
「ほら、間違いなく断ると思ったから言わなかったのに!!」
「何で俺がそんなことしなきゃならんのだ」
「もうすぐ司の誕生日なの!! 男子の意見を聞きたくてさ!!」
「絶対いやだ。別のやつに頼め」
クラス一の美少女の頼みとなれば断るやつなどいないだろう。
「司以外に仲のいい男子なんて雨宮くんしかいないんだよ!!」
「俺は仲がいいなんて思ったことはない」
「お願い!! せめて勝負を受けて!! チャンスをください!! 私が負けたら雨宮君の言うこと何でも聞くから!!」
......何?
「何でも、だな?」
これで、もう俺に構うなと言えば、フフフフ。
「あ、エッチなのはダメだよ!!」
「しねえよ!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「葵!! パス!!」
「ナイスパス!!」
笠野にパスが回った。瞬間敵チームの女子が止めに入った。だが、笠野は動じず、軽々と避けて、シュート。見事に決めた。
これで五回目今はまだ授業が始まって半分も経っていない。この調子でいけば十回シュートも夢じゃないかもしれない。
「すごい!!」
「さすが葵!!」
口々に笠野を褒め称える声が聞こえた。
「いやー、すごいなぁ、笠野さんは。私バスケ部なのに」
さっき笠野を止めに入った女子がそう言った。
「まーねー。私、運動神経には自信あるから。勉強はからっきしだけどね」
そう言って場を和ませる笠野。
「じゃあ、続きしようか」
女子の誰かがそう呼びかける。だが、それに対して笠野は、
「ごめん、ちょっと私、雉をうちに行ってきます」
一度その場を離れることを告げた。
「葵、それは男子が言う方だよ。女子はお花を摘みに、でしょ」
「あれ? そうだっけ?」
「もぅ、葵ってばバカなんだから」
「それが私だからね。じゃあちょっと外すから続けてて」
「オッケー」
「早く帰ってきなさいよー」
そう言ってトイレへ向かう笠野。
「笠野さんと連れションしたいな」
「だからやめろバカ!! 殺されたいのかお前!!」
......みんなバカだよ。
「君も私と、勝負しない?」




