緑の嘘
笠野葵視点
緑は嘘をつく時、少しだけ顔を顰める癖がある。それはきっと、嘘をつくことによる罪悪感から来ているんだろう。
平気な顔で嘘をつきそうなのに、誰よりも嘘をつくことを嫌ってる。そういうところが素敵だな、と私は思ってしまうのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「司と付き合ってるってのは、"嘘"だよ。私達の仲を勘違いした人達の噂の延長。びっくりした?」
どうしてそんな嘘をついたのかと聞かれれば、魔が差した、と答えるしかない。決してそんな事で吐いてはならない嘘だと、分かっているのに。
「......嘘だよな?」
緑が、今までに見た事ないほど驚いた顔をしていた。
「本当だよ? あ、今のは"嘘"なのが"本当"って意味だからね」
私は緑と違って、いちいち嘘に罪悪感を覚えたりはしない。
「私と司がよく一緒にいるのをみんなが見てて、それで付き合ってるって噂が広まっちゃったんだよ」
私は緑と違って、嘘をつく時に顔を顰めたりはしない。
「何度も違うって言い続けるのも面倒だったから、私と司で話し合って"付き合ってる"って事にしたの」
だから私は、嘘を吐き続けることができる。
「よし、じゃあ気を取り直して!! 次は私が緑の嘘を当てる番だね!! これで私が見事に当てたら緑が罰ゲームで私の言うことを聞かなければならない。いいかね、緑くん!!」
「......当てれたら、だろ? まだ葵が俺の嘘を見破れると決まったわけじゃない」
「ふふふ、甘いね緑」
そう、本当に緑は甘すぎる。だから、私みたいなのに易々とつけ込まれる。
「ずばり!! 緑の嘘は!!」
今日の会話の中で緑が顔を顰めたのは一度だけ。それは。
「"好きな色"、でしよ? 黒色が好きというのは嘘なのです!!」
どうして緑がその質問に嘘をついたのかは分からない。緑のことだから、無難そうな質問に敢えて嘘をつくことで分かりにくくしたのかもしれない。
「......正解だ」
こんな質問に嘘をつくのにも罪悪感を覚える緑は、本当に優しい人間だ。その優しさを、私は利用している。
「よっしゃああい!!」
「喜び方がおっさんだな」
「おっさんじゃなくて今のはやっさんだよ」
「誰だよ」
いつものふざけたノリが、なんだか今日は息苦しく感じる。
「まあ私が勝ったというわけで、早速緑には罰ゲームを受けてもらわねばいけません」
汚い手を使ってまで勝つことを選んだのだ。
「今度の土日、緑には私とデートを」
ここは存分に罰ゲームを使って緑と。
「ちょっと待った。誰が負けたって?」
......どうしてだろう?
「っ、どうしたの緑? 罰ゲームを受けたくないからって往生際が悪いよ?」
どうして、いつもうまくいかないんだろう?
「今回は引き分けだ。お互いに嘘は見破ったんだから。
葵、お前が晴野と付き合っているのは"本当"だろ?」
どうしていつもあなたは、私の心をかき乱すのだろう?




