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私のこと、好き?


 バレない嘘を吐くコツは、出来るだけ嘘を吐かないことだ。


 矛盾しているようにも思えるが、要は相手にバレたくない部分以外は真実を吐く、それだけの話だ。


 これまでの葵の質問は二つ。「好きな色は?」と「初恋はいつ?」だ。


 そして、俺はゲームが始まってからこれまでに()()()()()()()()()


 嘘を吐いた理由は極めて単純。真実の答えが少し言い辛いものだったから。


 だが、その決断を今更後悔している。

 

「私のこと、好き?」


 葵の最後の質問は、回答者の自分ですら真実のはっきりしないものだったからだ。


「それは、どういう意味での"好き"だ?」


 "好き"という一つの言葉でも、時と場合や投げかける相手によって意味合いは異なる。

 葵が意図する"好き"によって、俺の答えも違ってくるのだ。それ故に、俺は安易に答えることは出来ない。


「そんなの決まってるでしょ? "好き"っていう漢字のとおり、"女の子として"って意味だよ?」


 俺の葛藤を知ってか知らずか。葵は当たり前の事のように、そう言う。


「......元々"好き"の漢字の語源は、母親が子を想う気持ちから来ているんだ。そういった意味では、"親愛"という意味合いの方が強いはずだが?」


「じゃあ、はっきり言うね?」


 いつものように口から出てくる俺の軽口は、今の葵の前には時間稼ぎにもならないようで。


「緑は私のこと、女の子として、恋愛的な意味で、好き?」


 聞くだけで耳を塞ぎたくなるような質問が、"真実を答えなければならない"という誓約付きで俺の前に現れたのだった。


「......」


「......」


 葵はただじっと黙っていた。何も言葉を発さない俺の、次の言葉を待つように。


 少し時間を空けて沈黙に耐えきれなくなった俺は、無理やり言葉を絞り出すことにした。


「......友達としては好きだ。これは、迷いなく言える。でも」


 俺がすぐに答えられなかったのは、答えが出なかったからじゃない。答えることで関係が壊れることを恐れた訳でもない。


「恋愛的な意味で聞かれたなら、答えはNOだ。俺は葵のことを女の子として好きじゃない」


 ただその答えが本当に正しいのか、恋愛経験が無さすぎる俺では判断がつかなかっただけなんだ。


「......そっか」


 葵が発した言葉はただそれだけ。葵がその時どんな表情をしていたのかは分からない。


 ただ分かるのは、俺も葵もお互いの顔を見ることなんて出来なかったことくらいだ。


 こうして気まずい空気のまま、三問三答ゲームの俺の回答の番は終わった。


「ごめんね、変な質問しちゃって。でも、この質問なら嘘かどうか分かりやすいかな、と思って。

 実際分かりやすかったでしょ? 今の答えは本当。ね? そうでしょ?」


「まだゲームは終わってないんだから言うわけないだろ」


 そう、これはゲーム。どんなに際どい質問をしても、「勝つためだから仕方なく」なんて無茶苦茶な言葉で押し通せる。


 もちろん、俺たちの心に残る"何か"が消えるわけでは無いが。


 どれだけ葵の顔が見辛くても、俺は最後の質問をしなければならない。そうしなければ、この場は収まらない。


 ただ無難に「好きな食べ物は?」とでも聞けば良い。それでこのゲームは終わる。この際、勝ち負けなど気にしてはいられない。


 いざ質問するべく、葵の顔を見る。


 その顔についた二つの目は心なしか赤くなっている気がして。


「葵と晴野は、本当に付き合ってるのか?」


 その事が、俺にらしくも無い質問をさせてしまったのだと、そう思う。


「......嘘か本当か分かりきっている質問は、しちゃダメなんだよ?」


 そんな事は分かってる。


 この質問の答えが分かりきった事なのも。この質問が、葵のさっきの質問に引っ張られて出てきたのも。


 それでも。


「俺が分からないことなら、良いんだろ?」


 何故か、ここでこの質問をしておかないと、答えを改めて確認しておかないと、俺はダメな気がしたんだ。


「俺は葵と晴野の関係を疑ってる。葵は、晴野の事が本当に好きなのか?」


「どうして疑ってるのか、聞いてもいい?」


「俺とお前の関係が、友達にしては近すぎると思ったからだ」


「どこが? 緑には私以外の友達がいないのに、どうしてそう思うの?」


「なら聞くが、彼氏のいる女子が彼氏でもない男子を家に連れ込むのが、お前の言う友達としての付き合い方なのか?」


「......それ、家に入ってから言う?」


 どことなく怒りを滲ませた声で葵は言う。


「悪いと思ってる。でも、俺達の関係は一度はっきりさせておくべきだと思う。そうしないと、俺は葵と友達で居られなくなる」


「私のこと、女の子として好きじゃ無いんでしょ? じゃあ何も問題ないじゃん。このまま仲の良い友達で居ようよ。それの何がいけないの?」


「友達でいたいから聞いてるんだ。葵は晴野と付き合ってるんだよな?」


 付き合ってる。ただその一言を聞くだけでいい。それだけで俺達は友達でいられる。友達として、適切な関係を歩んでいける。


 それが俺の出来る、大切な友達との関係の守り方だ。


 なのに。


「付き合ってるよ。私と司は本当に付き合ってる」


 少し胸が苦しいのは、どうしてだろうか。



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