表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/32

開かずのドア


「緑〜、あっち向いてホイしよ〜」


「やる前に、指の数は確認したか?」


「え? 何、あっち向いてホイって指失うの?」


「いや、何でもない。気にしないでくれ」


 昨日はトランプの数を事前に数えてなかったせいで酷い目に遭ったからな。

 何かをやる前にはまず数を数える。これが俺のモットーになってしまったのだよ。


 あ、何のことかわからない人は前話の『どっちの勝ち?』を読んでね。ニコッ。


「何その気持ち悪い笑顔」


「人生で一番良い笑顔だと思ってやったんだが」


「二度とやらない方がいいと思う」


 さいですか。


「そんなことより、あっち向いてホイ、しよー!!」


 高校生なのに小学生みたいなことを言い出したのは、クラス一の美少女、笠野葵。


 今は、下校中。


 歩いている最中にあっち向いてホイをしようと提案するのは、ある意味天才だと思う。


「ありがとう!!」


「褒めてない!! あと、地の文に反応するな!!」


「忍ぶん?」


「どういう時に使う言葉だ、それは」


 関西のおばちゃんが忍者見つけた時に言うくらいしか使い道ないだろ。 「あんた、今日も忍ぶんかいな? ほな、飴ちゃんあげるわ」 みたいな感じで。


「じゃあ3回勝負ね。先に2回買った方が勝ちだからね。あと一回、とかは無しだからね。オッケー?」


 腕をブンブンと振り回しながら、葵はルール確認をする。


 なんか腕あっためてる人いるんですけど。え、あっち向いてホイって殴り合いの勝負でしたっけ?

 有識者の方、教えてください。


「じゃ、行くよー」


「ちょっと待て」


「え、何〜?」


「あっち向いてホイをすることはこの切止めないが、歩いている最中にするのは危ないだろ? 

 せめて、どこか立ち止まれる場所を探そう」


「そんなこと言っても、この辺公園とかないよ?」


「そうだが、流石に人が通る道であっち向いてホイはダメだ」


「んー。確かにそうだけど。公園以外で立ち止まれる場所って言われても、あ。

 とってもいい場所があった!!」



 ◇◆◇◆◇◆◇◆



「おやつとか持ってくるから、先に私の部屋行ってて!!」


 なぜか、俺は葵の家に来ていた。


 どうしてこうなったのだろう。


 俺はただ、あっち向いてホイがしたかっただけなのに。

 いや、別に俺がしたかったわけじゃないんだが。


「確か、階段上がってすぐの部屋だって言ってたか」


 葵に教えてもらった通りの部屋の前に来た。そして、ドアノブに手をかけ、ふと思った。


 あれ、なんか緊張するな、と。


 おかしい。ただ友人の部屋に入るだけだぞ。しかもあの葵の部屋だ。きっと汚部屋に違いない。

 そこら中に学校のプリントやら教科書やらが散らばっているはずだ。絶対そうだ。

 だから、緊張なんてするはずないのだ。

 さあ、早く!! 俺の手よ、扉を開けろ!!


「緑、何してるの?」


 葵がオレンジジュースの入ったコップとスナック菓子を持ってやって来たのは、それから5分後のことだった。


「いや、これは」


 葵は、ドアノブにかけられた俺の手を見てニヤリと笑う。

 まずい。


「あれ〜? もしかして、私の部屋に入るの緊張してるの〜?」


 案の定、葵は、ニマニマしながら、俺をからかい始めた。


 だが、ただからかわれるだけの俺ではない。


「いや、違うんだ葵。驚かずに聞いてくれ」


 できるだけ真剣な表情で、俺は言う。


「な、なに?」


 突然変わった俺の雰囲気に、葵は困惑する。そんな葵に俺は衝撃の事実を突きつけた。


「ドアが、開かないんだ」


「え、ええええええ!!


 って、そんなわけないでしょ」


 ちっ、そう簡単に騙されないか。


 だが、しかし!! こんなことで諦める俺ではない。


「いや、本当なんだ。よく見ていてくれ」


 そう言って、俺はドアノブを手に持ち、それを引いた。

 だが、ドアは開かれることは無かった。


「な?」


「え、なんで!?」


 驚きながら、手に持っていたジュースなどがのったお盆を俺に渡し、葵もドアノブへと近づく。

 そして、俺と同じようにドアノブを引いた。


「あれ、開かない!? なんで!?」


 葵が引いてもそのドアは開かれることは無かった。


「ど、どうしよ、緑!? ドアが開かなくなっちゃったよ!? どどどどどどどうしよう!?」


「落ち着け、葵。こういう時はひとまず深呼吸だ。はい、吸ってー、吐いてー」


 ひとまず葵を落ち着かせてから、俺は助言をする。


「もしかしたら、ドアを開くための呪文があるのかもしれない」


「え、そんなのあるの!?」


 あるわけない。


「ああ。おそらく、"ひらけゴマ"だ」


「なるほど、分かった!!」


 分かるな。


「さあ、葵。"ひらけゴマ"と言ってくれ。俺はそれと同時にドアを開ける」


「うん!!

 じゃあ、いくよ」


「ああ」


「ひらけ、ゴマ!!」


 葵の言葉と同時に、俺はドアノブを持ち、()()()


 そして、ドアは開かれた。


「す、すごい!! ほんとに開いた!! 私、今度からドアを開ける時は、この呪文を言って開けるようにするね!!」


 やめておきなさい。親に白い目で見られるから。



「引いてダメなら押していけ!!」

「いや、葵はどっちかというと、引くべきだと思うぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ