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ただのクラスメイト


 家を出てから数分、代わり映えのない住宅街の中を横に並んで歩く俺と笠野の間にはなぜか無言の空間が生まれていた。

 ......おかしい。いつもならこのお調子者がどうでも良い話題をこれでもかと振ってくるはずなのだが。


「......」


「......」


 それからしばらく経っても、俺たちの間に会話が始まる気配は全くなかった。

 ......気まずい、気まずすぎる。


 なんだ、どうしてこいつは無言なんだ。そして、こういう場合は俺から話したほうがいいのか? でも、何話したら良いのかなんて全くわからないんだが?


「ちょっ!? 雨宮君、危ない!!」


 それが起こったのは突然のことだった。気がついたら俺の不健康そうな細い体は健康そうな柔らかい腕の中にあって、すぐ目の前には笠野の顔が......。


「うぉっ!? 何するんだ!?」


 笠野に突然腕を引かれ引き寄せられたことに気づいた俺は、慌てて笠野から距離をとった。普段から女子どころか人と全くと言って良いほど接する機会がない俺にとって女子の体に触れるのは刺激が強すぎる。しかも、笠野はきょに......。


「滅びろ煩悩!!!!」


「え、何で突然自分の顔殴ったの!?」


「......何でもない。それよりもお前こそ突然何なんだ」


「あーっと、赤信号を渡ろうとした雨宮君を止めようとしたんだけど、思ったより雨宮君が軽かったから」


「赤信号、だと?」


 あ、本当だ。真っ赤に染まってやがる。


「......すまん、助かった」


「うん。どういたしまして」


「......」


「......」


「......さっきからやけに静かだが、どうしたんだ? お前らしくもない」


「あ、えっと」


「何だ?」


「私たちって、ただのクラスメイトなのかな」


「......さっき家で俺が言ったことについてか?」


「うん」


「別に間違っちゃいないだろ? 俺たちはクラスメイトなんだから」


「そ、そうだけど。()()()クラスメイトっていうのもなんか寂しくない?」


「......じゃあ、お前はどういうクラスメイトをお望みなんだ?」


「そ、それは、さ」


「......」


「と、友達、とか」


「......」


「......ごめん、やっぱり迷惑だよね」


「......」


「私たちの関係って何なのかな? いつも私が一方的に話しかけてるだけだし、それに、雨宮君って、私の名前、ちゃんと呼んだことないよね? 雲坂君のことはちゃんと名前で呼んでたのに。

 だから、雨宮君は私のこと本当は迷惑だと思ってるんじゃないかなと思って。

 ねえ、雨宮君。私たちってやっぱりただのクラスメイトのままの方がいいのかな?」


「......分からないんだ」


「え?」


「どこからが友達でどこからが友達じゃないのかなんて俺には分からないんだよ」


「そんなこと」


「お前にとってはそんなことだって思うかもしれない。そもそもそんなこと考える時点で間違えてるって思うかもしれない。でも、分からないことは分からないんだよ。友達の作り方なんてどの教科書にも書いてなかった。どの先生も友達の定義なんて教えてくれなかった。どうやって人に話しかけたらいいのかも分からないし、どうやって名前を呼んだらいいのかも分からない。そうやって分からないことに悩んでる間に、俺はいつの間にか友達どころかクラスメイトとしても認識されなくなってるんだ。

 だから、()()()()()()()()()でも、俺は十分嬉しかったんだ」


「雨宮君......」


「......すまん、訳のわからないことを言った。忘れてくるぇっ!?」


 突然、笠野は俺に飛びついてきた。


「友達だよ!! 私たち!!」


 至近距離で、その透き通った瞳で、じっと俺の目を見つめる。


「私が教えてあげる、全部。雨宮君が勉強しても分からなかったこと、全部。友達の定義も、友達が何をするのかも、友達の楽しさも。全部全部教えてあげる。

 だから、大丈夫。そんな悲しい顔しないで。まだ全然遅くない。雨宮君にはたくさんのクラスメイトも、友達も、か、彼女も!! 全部できるから。

 私が全部教えてあげる」


「っ!? ......わ、分かったから、離れてくれ。暑苦しい」


「え、あ、ご、ごめん!!」


 俺の言葉に、慌てて笠野は俺との距離をとった。


「......」


「......あ、あの」


「俺たちは、友達でいいのか?」


「え? う、うん!! もちろんだよ!!」


「そうか、友達か。友達、友達、友達か......」


 嬉しい。


 思わずにやけそうな顔を無理やり手で押さえながら、その心地よい漢字二文字の言葉を何度も噛み締めた。


「......そう、友達。だから、早速だし、友達としての友好の証として握手、しよっか、()


 そう言って、右手を俺の前に差し出す笠野。


「え、握手? っていうかお前さっき緑って」


「私は、"お前"じゃないよ、緑」


「っ......」


「それじゃあ、改めて」


 横断歩道の前で高校生男女が二人。もう赤信号も青信号に変わっているというのに。動かずに立ち止まっている。普段なら、こんなことするはずがないんだが。人も車も今は通ってないからどうか。


「これから友達として、よろしくね。緑」


「ああ、よろしく。葵」


 どうか、今だけは許してくれ。




「って、痛い痛い痛い痛い!!」

「え、どうしたの緑?」

「お前力強いんだよ!!」

「ええ、女子に向かってひどくないそれ?」

「いや葵は女子というかメスゴリ、痛い痛い痛ああい!!」

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