起死回生の一手
ショッピングデート編第9話
とは言っても、楽観的ではいられない状況なのは間違いない。
アイツがいるから理恵ちゃんが男達に危害を加えられる心配はないが、それよりも問題なのはこの場に集まっている"人"だ。人数は十数人程度。すごく多いと言うわけではないが決して少なくもない。
これだけの人数が野次馬のように取り囲んでいたら騒ぎが大きくなるのも時間の問題。
それだけは避けたい。面倒だから。
それに、理恵ちゃんが完全に安全かと聞かれればそういう訳でもない。あの馬鹿がドジる可能性も念頭に入れなきゃならない。
騒ぎをこれ以上大きくせず迅速に騒ぎを収める方法。
......。
うん、無いな。
「雨宮さん」
「はい?」
俺が最適解を求めようと頭を悩ませてる最中、隣から俺を呼ぶ声がして、顔を向ける。
そこには、何やら覚悟を決めた顔をした坂橋さんがいた。
「理恵を、助けに行ってきます」
「は?」
突然特攻宣言をし出した坂橋さんは、人混みの向こうの笠野たちのところへと向かおうとする。
「いや、ちょ、ちょっと待ってください!!」
「止めないでください!! 理恵が、危ない状況なんだ!! 私が助けにいかなければいけないんだ!!」
暴れる坂橋さんとその肩を掴んで必死で止める俺。
「落ち着いてください!! 今行ったところで騒ぎが大きくなるだけですから!!」
「そんなことよりも理恵の安否の方が問題でしょう!!」
「それなら問題ないですから!! 隣にいるのは巨人すら片手で葬るようなやつなんで!!」
突然騒ぎ出した俺たちに周りの人たちがなんだなんだとさらに騒ぎ立てる。
まずい、このままじゃ余計騒ぎが大きくなるだけだ。
とりあえず今は一旦この場を離れるか?
そう思った矢先、ふと、人混みの中、周りの人たちと同じようにじっとこっちを見ている小さな男の子と目が合う。その男の子の隣には父親らしき人もいる。
そういや、今日は子供連れが多いんだったけか。
......あ、そうだ。
「雨宮さん、離してくだ、うお!?」
俺に掴まれていた肩の拘束が急に弱まり、勢い余って転げそうになる坂橋さん。だが、そんなことを気にしている暇はない。
「坂橋さん!!」
「は、はい!!」
食い気味に坂橋さんに詰め寄った俺に驚きながらもいい返事を坂橋さんはしてくれる。
「一つ、お願いがあるんですが」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「雨宮君!!」
耳のすぐ側から俺を呼ぶ声がする。
「なんだよ、うるさいな」
「うるさいな、じゃないよ!! 何ぼーっとしてるの!! 今、そんな余裕こいてる場面じゃないでしょ!?」
「あ?」
その言葉に、改めて周りを見渡す。ああ、そういやチンピラ達との戦闘中だったっけ。
ってか、あなたはどうして俺の隣にいるんですかね? さっきまで割と離れたところにいませんでした? 瞬間移動ですか? ついに人間辞めましたか?
「悪い、ちょっと回想に入ってた」
「潰走? 逃げるってこと?」
おう、馬鹿のくせによくそんな言葉知ってんな。
ちなみに、潰走ってのは、戦いに負けたりして散り散りになって逃げることだ。まあ、敗走とかの意味に近いかな。
「確かに、逃げるのも一つの手だが、今は最善じゃないな」
「なんで?」
「周りみろ。この騒ぎのせいで人だかりができてる。無闇矢鱈に逃げたら怪我人が出かねない。それに」
「それに?」
俺は視線を前に向ける。
「目の前の方々が逃してくれそうにない」
「あー」
笠野も納得といった様子で、拳を構える。
......。脳筋か。
まあ、しかし、ただで通してくれる雰囲気は目の前の男達には無い。
「てめえら何ぶつぶつ喋ってんだ? あ? 俺の折られた手首と鈍器で殴られてそこで寝転がってる俺の仲間、明らかにお前らがやりすぎだってのはわかるよな? どう責任とってくれるのか、な!!」
足を踏み鳴らし、こちらを睨みつけてくるチンピラその一。
「さっきも言いましたけど、手首の件は勝手にしてください」
「雨宮君!!」
ひどい、ひどすぎるー!! と俺の肩を揺すってくる笠野。
「話進まねえから黙っててくれ」
あと、腕が取れるからその手を退かしてくれ。
「むぅ!!」
頬を膨らまし、不服の意を示す笠野は一旦、いや一生放っておく。
とあるヒーロー「次回、ワタシが活躍するぞ!!」
天使「?」




