予想外? 予想内?
ショッピングデート編第8話
ーーー時は、少し前に遡る。
「確か、迷子センターは、一階の一番端だったよな」
理恵ちゃんを探すためにまずは迷子センターへと行くことを決めた俺と坂橋さんは、人通りの多いショッピングモール内を並んで歩いていた。
俺たちがさっきまでいたのは、二階の迷子センターとは真逆の端っこ。つまり、迷子センターとはそれなりに距離がある。しんどい。
「あの!!」
突然、右隣を歩いていた坂橋さんが声を上げたので、そちらに顔を向ける。
「どうしました?」
「いえ、その、雨宮さんは、用事とか大丈夫なんでしょうか? わざわざ付き添っていただけなくても、迷子センターくらいなら私一人で行けますし」
申し訳ないですし、と坂橋さんは付け足す。
「いえ、気にしないでください。僕の好きにやってるだけなんで。それに、俺も迷子を探してるんですよ。結構タチの悪い迷子なんで、アナウンスで呼び出してやろうと思ってたんでちょうどよかったですし」
「そ、そうなんですね」
「......」
「......」
......落ち着かない。
普段はこっちから話さなくてもうざいくらいに話しかけてくる奴がいるせいか、どうも無言の空間というのは落ち着かない。
アイツと会う前はそんなことなかったはずなのに。くそ、あの野郎、いてもいなくても迷惑なやつだ。
何か、何か話題はないか。
そんな折、突然坂橋さんが声を上げる。
「あれは、なんでしょうか?」
「え? 何ですか?」
あれ、とは?
坂橋さんの方を見ると何やら左の方をじっと見ていた。その目線の先には、何やら異様な人だかりがあった。
あそこは確かクレープ屋があったはずだが。
ちなみに、俺が落とした惣菜クレープはすでに回収して念の為持ってきていたビニール袋に入れてある。
「なんだなんだ」
「なんか、女の子が男達に囲まれてるらしいよ」
「おいおい、それ大丈夫なのかよ」
「それが、女の子の方が男達をボコボコにしてるみたいなのよ」
「は? なんだよそれ?」
人だかりからはそんな会話が聞こえた。
いやもう、イヤな予感しかしないんですけど。
......よし、ここは見なかったことにして立ち去ろう。
「坂橋さん、なんだか分からないですけど、多分大したことないのでここは気にせずにすぐに迷子センターに向かいましょう」
出来るだけ迅速にその場を去ろうと考えたのだが。
「......」
なぜか、坂橋さんの反応がない。なぜか人混みの方をじっと見たままだ。
「坂橋さん?」
「......」
もう一度呼びかけるが相も変わらず微動だにしない。
「あの、坂橋さん?」
今度は呼びかけると同時に肩に触れようとしたその時。
「......理恵?」
「え?」
予想外の言葉が坂橋さんの口から飛び出す。理恵、といえば今俺たちが探している坂橋さんの娘の名前だ。
「理恵です!! あの女の子の隣にいるの、理恵ですよ!!」
焦ったように、声を荒げて早口でそう言う坂橋さん。
改めて俺も人混みの向こうを見てみると、そこには確かに男達に囲まれている女の隣に小さな女の子がいた。その女の子が理恵ちゃんなのかは分からないが、ただ一つ言えることは。
「やっぱ笠野じゃねえか」
そう、男たちに囲まれながらも、逆に男たちを圧倒する少女。その正体は、案の定、不本意ながら俺の探し人、笠野葵であった。
「どうしましょう!? あのままじゃ理恵が!! 理恵が!!」
愛娘が男達に囲まれていると言う予想外の状況に坂橋さんは動揺を隠し切れない様子。
俺の方は、イヤな予感が的中してしまい、動揺を隠し切れない様子。
だが、俺も一緒に慌ててる場合では無い。
「落ち着いてください坂橋さん。理恵ちゃんは大丈夫ですから」
「な、なんでそんなことが言えるんですか!? あんな小さな女の子がガラの悪い男達に囲まれてるんですよ!? 無事なはずが、無事なはずが無いじゃないですか!?」
まあ確かに一般的に考えればそうなのだが、今回の場合は当てはまらないだろう。
だって、理恵ちゃんのすぐ側には、
"笠野葵"がいるのだから。
「いやそこはヒロインじゃないの!?」
「うるせぇ」




