鉄板ネタ?
ショッピングデート編第6話
前半 雨宮緑(主人公)視点
後半 笠野葵視点
どうやらその男性は娘と2人でヒーローショーを見に来たところ、逸れてしまったらしかった。
あのヒーローショーを見に来ていたということはつまり、あの一連の"雨宮君騒動"も見られていた訳だが、まあ今はそれは置いておこう。その後ヒーローショーがどうなったのかはとても気になるのだが。ガンバルマンは結局出てきたのだろうか?
とりあえず、立っていたその男性に、俺の隣に座ってもらい、話を聞くことにした。
位置としては、俺の右側に男性が座る形だ。
まだ顔色は優れない様子だったが、さっきよりは幾分か落ち着いているように見えた。
「俺は雨宮緑って言います。お名前、お伺いしても?」
「坂橋、恵って言います」
坂橋さんは俯いたままそう答えた。
「坂橋恵さん、ですか」
女性みたいな名前だな、と思ったのがどうやらバレたようで。
「女性みたいな名前ですよね。よく言われるんです。
でも、気に入ってるんですよ。何より、妻が好きだって言ってくれた名前なので」
それが何よりも誇らしい。暗にそう言っているようだった。
「奥さんは今日は来られてないんですか?」
ふと気になった質問をしてみる。
「......妻は」
坂橋さんは、俺の問いに少し言葉を詰まらせた。
「妻は、今日は来れてない、ですね、はい」
その後の絞り出したような答えには違和感を感じざるを得なかった。
「そう、なんですね。娘さんの名前は何と言うんですか?」
だが、それを聞き出すのは酷だろう。感覚的にそう思い、話を変えることにする。この会話の目的はあくまで坂橋さんを落ち着かせることだ。
「リエ、です。理科の"理"に、恵まれるの"恵"で"理恵"。私と妻の名前を取って妻が名付けたんです。2人の愛の結晶だからって」
「素敵ですね」
俺のその言葉に坂橋さんは薄く微笑む。
「ありがとうございます。
その時は結構恥ずかしかったんですけど、今では良かったなって思います。
家族の繋がりが"形"として見える気がするので」
「なるほど」
見えないものより見えるものの方が人は安心する。
「理恵は、私にとっての大事な、大事な家族なんです。だから、早く見つけてやらないと。どこかできっと泣いているに違いないんです」
「だったらなおさら焦っちゃダメですよ。とりあえず、迷子センターに行ってみましょう。もしかしたら誰かが理恵ちゃんを見つけて、連れて行ってくれてるかもしれない」
これは見えない希望だが、今は縋るしかないのだ。
◇◆◇◆◇◆
「どう? 美味しい?」
口の周りに生クリームをつけながら、本当に美味しそうに苺のクレープを頬張る目の前の少女に私は声をかけた。
「うん!! ありがとう!! ガンバルマン!!」
私にはガンバルマンなどではなく、笠野葵という名前があるのだけれど、まあ可愛い笑顔に免じて今日のところはそういうことにしておいてあげよう。
あれ? なんだろう、今のセリフは悪役ぽかった?
私とリエちゃんは出会った場所であるヒーローショーの会場前を離れ、クレープ屋に来ている。散々泣きじゃくった後、小さくつぶやいた「クレープ食べたい」という天使の一言が原因である。あの顔で頼まれたら誰が断れるというのだ!! あ、雨宮君とかは容赦なく断りそう。
「ガンバルマンは何してるの?」
そんなことを考えていたらリエちゃんが突然そう聞いてきた。天使の可愛いクレープ食べ顔を堪能してます!! じゃなくて。
「人を探してるんだ。その人もリエちゃんのパパみたく迷子になっちゃってね」
「そうなんだ」
そう答えると、リエちゃんは興味をなくしたのかまた、目の前のクレープへと取り掛かる。なんだかクレープに負けた気がして悔しい私は逆に質問をしてやる。
「リエちゃんは、パパのこと好き?」
「うん、大好き!!」
「そっか。じゃあ、早くパパを見つけてあげないとね」
「うん!! パパは寂しがりやだからリエがいないとだめだめなの。ママと約束したんだ。パパのことは私が守るって。私がパパのヒーローになるって」
それは男女が逆転している気がするけど、でもきっとそれはこの子の家族にとってはぴったりとはまる光景で。早くリエちゃんのパパを見つけてあげないとな、て改めて私は思うわけで。
「お? かわい子ちゃんはっけーん!!」
でも、そういう時はだいたい邪魔者が現れるのがヒーローショーの鉄板なのだ。
「俺はガンバルマンみんなのヒーロー俺はガンバルマンみんなの希望俺はガンバルマン子供達のアイドル俺はガンバルマン俺はガンバルマン」




