隣の席の美少女
「あー、わっかんないなー」チラッ。
今は授業の合間の休み時間。教室の一番左で一番後ろの自分の席で俺、雨宮緑は次の授業の予習をしていた。
「誰か教えてくれないかなー」チラッ。
俺は高校一年生だ。いわゆる青春真っ只中というやつである。勉強なんてしてないで休み時間は友達と喋れよ、と思われる人もいるかもしれない。
だがしかし!! 学生の本分は勉強である!! いついかなる時間も無駄にしてはならないのだ!!
「難しすぎて私には解けないよー。はっ、これは学年トップの成績を誇る者にしか解けないのかもしれない!!」チラッ。
......うるせぇ。
さっきから大根役者もびっくりの名棒読みなセリフを発しながらこっちをチラチラと見てくるのは、笠野葵。俺の隣の席の女子だ。
こいつのせいでさっきから勉強に集中できなくてどこぞの読者様に語りかけるような事をしてしまったじゃないか。
「はぁー。超成績の良いどこかの天才様が助けてはくれないだろうか」チラッ。
クソッ。しつこい!! こうなればこいつは意地でも俺が答えるまでこの大根演技を続けるに決まってる。こんな事で俺の勉強時間が減ってたまるか。仕方ない。非常に癪だが答えてやる。
「はぁ。どこがわかんねぇんだよ」
「おお!! 雨宮神が舞い降りた!!」ブンブン!!
こいつはいつだって大袈裟な反応をする。今だってやっとご主人様が帰ってきたと喜ぶ犬のように目を輝かせている。幻覚だろうか、お尻に生えた尻尾が左右に振られているように見えてしまう。
こんなアホみたいなやつだが、このクラス一の人気者なのだ。その理由はその完璧なまでに整ったルックスと可愛らしい犬のような人懐っこい性格にあるのだろう。
なんでこいつは俺なんぞに構うのか。今だって貴重な休み時間だ。友達と話せばいいというのに。
今だって羨ましそうにこっちを見る男子どもがいるんだぞ? あいつらなら喜んで話してくれるさ。
はぁ。なんでこうなったんだろうな。
笠野とは一週間前の席替えで隣の席になった。そして、何故かそれからというもの、こうして休み時間はおろか、授業中にでさえも俺に構ってくるようになった。おかげで俺の勉強時間がどんどん減っていく。
それまで笠野とは一度も話したことがなかったはずだ。なのに、どうしてこんなに俺に構ってくるのか。さっぱりわからん。
あ、ちなみにこいつ俺のこと好きなんじゃね? 的なことは思っていない。一度も話したことがないのに好きになるなんて意味がわからないし、一目惚れされるような顔も持ち合わせてはいない。それに、
「葵。雨宮君の勉強の邪魔をしてはいけない」
俺たちの方へやってきて笠野の頭をポンと軽く叩きながら注意をするのは、クラス一のイケメン、晴野司だ。
「司!! 違うよ!! 私は雨宮君に勉強を教えてもらおうと思っただけだよ!!」
そう抗議をする笠野。
「勉強なら僕が教えてあげるから。すまないね、雨宮君。僕の彼女が失礼したよ」
そう、笠野には彼氏がいる。クラス一のイケメン、晴野司という、高スペック彼氏が。
だから、彼女が俺を好きになることは、ありえない。
「次話も読んでくれないかなー」チラッ