4月19日―――路上
日が傾いて、向こうの山の少し上に夕日が見える。
空は言うほど赤くは染まっておらず、まばらに散らばっている雲が空と溶け込んで、絵の具を混ぜ込んだような夕方の空だった。
織中は校門を出てすぐの通りを走った。
大股で歩いている御旗がようやく見えてくると、御旗が後ろから走ってくる織中に気が付いた。
「ああ、すまん。途中で投げ出した感じになってよ」
「いい。俺にもそんなことはある」
「まっ、ついてきてくれてちょっと安心したよ、……って俺は何言ってんだ、恥ずかしい。んじゃ行こうぜ。ああそうだ、お前卵アレルギーとか無いよな?」
「無いな」
「じゃあよかった!俺が世話になってるとこ、一応串カツ屋なんだけど、なんかテレビとかでオムライスが特集されちまってそれが有名になってさ。まあ、食べりゃあわかる。うめえぞ!」
御旗は少々誇らしげに語った。
しばらく歩いていると、偶然にも帰り道が同じだったことに気がつき、そのまま二人でたわいもない話をしながら帰っていた。
小学生たちが道端で遊んでいる住宅街と、夕飯の買い物客や帰りの学生でにぎわっている商店街の境当たりでのことだった。
「子供が車に轢かれたぞー!」
大声が二人の会話を中断した。
「なんだなんだ?織中!ちょっといこうぜ!救急車呼ばねえ……と……」
いきなり御旗は立ち止まった。目を開いて突然息を荒げ始めた。
「御旗?大丈夫か?」
織中は肩を貸そうと彼に近づくが、拒絶されるように手を弾かれてしまった。そのまま二、三歩下がって御旗の様子を見守ることにした。
御旗はすぐに自分がやったことに気が付くと、
「あっ……、すまねえ……。ちょっとトラウマがあってよ。いやこうしている暇じゃ……」
御旗と織中は駆けつけてももう野次馬になるくらいの事しかできずに、すでに救命活動が行われていた。
それでも御旗はほっと気が付いたように顔を上げてさっと周りの野次馬を跳ねのけながら、
「おい!お前ら!救急車来たとき邪魔になるだろうが!こっちの道から来るだろうからとっとと道を開けやがれ!散れ!散れ!」
無理矢理大衆を引きはがしにかかった。織中も加勢に入る。文句を言う人間はお構いなしに引っ張っていく作業が続く。その間に数人の大人が男児を介抱してくれていた。
数分後に救急車が来ると、御旗と織中の作った道から担架で男の子は運ばれて行った。
「これが良い人なんだよな……。俺は……優しいよな……」
運ばれて行く際に御旗はそう呟いていたのを織中は耳にするものの、近づいてくる救急隊員への応答でいっぱいいっぱいになってしまった。
御旗はなぜそこまでこだわるのだろうか。
織中はそれが分からなかったが、今は事情を聞かれていたので後回しに。そしてほとんどを忘れてしまった。