4月19日―――階段下
「……なか。……りなか」
誰かが呼んでいる。
「おい!起きろ織中織中!」
「あっ」
織中は眼を覚ました。
目の前には御旗の顔があり、下は冷たくて堅い床。
白に塗られた壁を見てようやくここがどこだか分かった。
「学校……?」
「ああ、そうだよ。……なんつーか夢?……なわけ無いよな。まあでもあの女のおかげでこうして戻れたみてーだ」
御旗は振り返った。
織中は立ち上がると、御旗が見つめている場所を同じように見つめた。
「ここに……、あったんだよな、掲示板が。あの世界への入り口が」
「ああ……」
すでに脳裏に焼き付いた光景。
輪から化け物を創り出す海坊主のような図体の土坊主。
御旗を追いかけ、そして真っ二つに切られた化け物。
そしてあのショートヘアで、水色のスカートをはいていた、カンヤナヒメという謎の人を呼び出す少女。
「しっかしあの女……。なんか見たことあるような……。いや、そもそも誰だったんだ?」
「少なくとも、俺が覚えている人の中にはいない」
織中と御旗はそれぞれどんな顔をしてそれを考えればいいのか分からなかった。
そのうち階段から落ちて一緒に見た夢だとも考えたが、二人ともそれはどうだろうかと思っていた。
「んん?どうしたんだい二人とも。そんなに荷物を床に置いて。早退かね?」
「うおっと!」
思いふけっていた御旗が頓狂な声を上げたせいで、織中も我に返った。
二人の前にはメガネをかけて、二人よりも少し背が小さいくらいの男性教員らしき人が、不思議そうな顔で彼らの荷物と顔を交互に見ていた。
「ああ、校長先生。……えっと、俺らちょっと遅刻しちゃいましてね……。今着いたばかりなんですよ。ホラ、こいつ転校生ね。同じ遅刻よしみっちゃあなんですが、そういうことです」
頭を掻きながら愛想笑いで言う御旗は織中の肩を叩きながらそうやって言い訳を繕う。
そういえば遅刻していたということを織中は思い出した。
階段下から見える職員玄関横の事務室の時計はすでに12時を過ぎており、おそらく学生は昼休みの時間である。
御旗に校長先生と呼ばれた男性は少しだけむっとした表情になったが、
「おやま、そうかい。まあ、今回が一回目でしょう?怒られることは覚悟してしっかりと言い訳と反省を考えてから担任の先生にちゃんと言うように。じゃあ早く行きなさい」
にこやかに笑うと立ち去っていった。靴を履き替えているところからこれから出張のようだ。
「……織中?あの人がうちの校長だよ。まあ、なんだ。優しい人だよホント。じゃあ怒られに行こうぜ……」
「……ああ」
何を言われるか身構えていたが、予想外のことで織中は戸惑っていた。
しかし、御旗に急ぐように言われて荷物を急いで抱えて職員室へと向かっていった。
職員玄関前で校長が二人が階段を昇っていく後ろ姿を見ていた。
「……織中 玉樹君。初日で遅刻とは、本当にあの事件に関わっているのかもしれないね。うちの生徒に危害が無ければいいが……、よりによって御旗くんと仲良くなるとは……、気をつけておかねば」
校長は踵を返して出張先へと足を運んでいった。