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最後の幽霊

作者: 浮世離れ

「はぁー暇だな。」


俺は大学受験を推薦でパスし、残りの高校生活を悠々自適に過ごしている。

受験シーズンも終盤、就職氷河期も相まって今後の進路に悪戦苦闘している生徒でごった返

すの高校3学年。

俺の学校も当たり前だがその波に飲まれていた。

いついっても教室のクラスメイトは少ない。

テストもすべて終了してしまっている為、自習だらけ。

ピリピリしている人間とのほほんとしている人間の2種類に分けられていた。

勿論俺は後者だから普段殆ど見ないニュースも余裕で聞き流している。


「年々増加し続けている自殺者の数がここ数年で減少傾向にあり政府は、自殺防止対策に一定の効果があるものとみて、今後も時代に合わせながら推進していくと発表しております。次に来年のオリンピックについて話題ですが・・。」


プルルルル、、


携帯が鳴る。


友河ゆがわ由幸よしたかからだ。


友河は俺の中学の時の同級生だ。

家は近所で中学時代はよくつるんで遊んでいた。

それが高校が別々になってしまい疎遠気味になってしまっている。


あー、こいつも進路決定組か、、


「もしもーし、久しぶり。友河か?」


「おお、出た出た!朝妻進路決まったー?」


開口一番、俺の親父のような口ぶりだ。


「まぁね。決まったよ。友河は?」


「俺も今日決めたよ。やっぱり朝妻あづまも進路決定組だったかー!もしかして推薦で決めちゃったんじゃないか?面倒くさがりだから!」


久しぶりの会話とは思えないほど失礼な事をずけずけ言ってくる旧友に少々腹を立てる。


「あー悪い。別に怒らすつもりで電話したんじゃないんだ。たまには会わないかなと思ってさ。」


会うか、、別に暇だからいいか、、


「別にいいけど、、いつ?」


「じゃあさ、普通に会うのもなんか面白くないから明日夕方南中学で合わない?ついでだから校舎の中見たりしてさ。」

「なんでまた、母校に行かにゃならんのだ。」


俺は友河の意図がわからず聞き返す。


「あれ?朝妻は知らないのかい?今月末、つまり明日でうちらの母校廃校になるんだよ?」


えっ!?まじか!?全然知らなかった、、


「・・知らなかったんだな。思い出の学び舎ももう見納めだぞ。まぁー朝妻にとっては悪さばかり覚えた学び舎だったけどな!」


「自分の事棚に上げてよく言うよ。」


俺、朝妻あづまじょう、友河そしてあと二人。


金谷かなや賢三けんぞう


柄木田からきだ臆次郎おくじろう


四人は南中学でも指折りの悪ガキだった。

あの校舎には四人がつけた痕跡が多数残っているだろう。

今の俺としては懐かしい思い出になるだろうが、その行為によって不快な思いをした人間はさぞ見たくないだろう。


「なぁ、朝妻。金谷と柄木田も呼べるかな?」


「ああ、俺も今考えていたさ。ちょっと呼んでみるよ。」


友河の案に乗ることにした俺は早速残りの二人にメールをした。

翌日。


3年ぶりに悪ガキ四人組が南中学に戻ってくる。


「よう!久しぶり!」


「元気だった?」


「変わらねぇなー!」


「本当に校舎入るの?」


四人は久々の再開に声を掛け合う。


「とりあえず面倒くさくなる前に校舎に入っちゃおうぜ?なんか雨降りそうだし。」


俺は空模様を見て皆を急かす。

夕方とはいえ、季節は冬。

生憎の天気のせいもあり、もう辺りは薄暗くなっていた。

僕らは勝手に秘密の入り口と呼んでいた学校の正門から少し離れた、壊れて誰でも通れるようになってしまった柵の隙間から次々に校庭へと入っていった。


「結局ここ、直さなかったんだな!」


金谷が呟く。


「ってことは体育館裏の倉庫の扉も直ってないのかな?」


それは俺らが、いや俺が自分がここで過ごした証として蹴って壊した扉の傷のことだ。


「酷いよな。僕が倉庫に備品をしまう時に誤って傷つけたってことで先生丸め込んだでしょ、朝妻君。」


「いやー知ってた?もう時効だろ、柄木田。」


「ひっどー。」


友河と金谷がハモる。


「へへへっ・・」


全く反省の色を見せない俺に三人ともあきれ顔だった。


「ヤバい戻れ!」


先頭を歩いていた友河は急いで俺ら三人を後退させ物陰に隠れさせる。


「どうした?ははぁん?まさか友河も朝妻みたいに悪さした事を思い出したのかぁ?」


人の上げ足を取るようにニヤニヤしながら金谷が見てくる。


「違う違う。倉庫近くの道にパトカーが止まっているんだよ!見えるだろ?」


えっ!?


俺ら三人は物陰から倉庫の方へ目を凝らすと一同に驚く。


「マジだ・・間一髪だったなぁ。」


「あっぶねー。」


「何かあったのかな?」


とりあえず校庭でウロウロするのは危険と満場一致で校舎の中へ入ることになる。

明日以降取り壊しが決定しているはずだが運良く扉は開いており下駄箱を抜けると難なく校舎に入り込むことに成功した。


「変わらないなぁ。」


3年前に卒業したあの日に焼き付けた風景と何ら変わる事のない校舎の中は懐かしさで一杯だった。」

「ザッ・・の風物詩で・・ザッ・・温かいと・・ザッ・・」


な、、なんの声だ!?


どこからともなく聞こえてくる声に俺らは急に過去から現実に戻る。

よく見るとまだ非常灯などが点灯しているが校舎の中は薄暗く、外の光も期待出来ない為一層不気味さを醸し出していた。


「あっ・・ごめん。つい怖くて携帯からワンセグでTVつけた。」


柄木田の勝手な行動に他一同は同時に突っ込みを入れる。


「いったぁー!!叩かなくてもいいのにぃ!!」


正直、この雰囲気だと柄木田の行動も一理ある。

何か落ち着けるものに頼らないとこれではリアル肝試しになってしまう。


「さて、では最後の幽霊にでも会いに行きますか?」


「おい!!」


空気を読んだのか、読まないのか冗談が過ぎる友河の発言に俺らは突っ込みを入れる。

とりあえず一行は自分達のクラスに向かった。

3年3組。

机も椅子も教卓もそのままで規律良く並んでいる。


「はぁーナツい。涙出てくるわ!」


「涙は嘘だろ?」


「うるせー!」


俺と金谷の漫才が始まる。

そんな二人を懐かしそうに笑いながら友河と柄木田が見ていた。


「あっ、俺の机だ!」


「俺のも残ってら、落書きは・・ないよな。」


「僕のもある。」


俺、金谷、柄木田は自分の座っていた位置の机を見つけると懐かしさに思わず声を出した。

自分が大きくなったからなのか妙に机や椅子が小さく感じる。

成長期は中学3年の頃から始まっていたがその頃は感じなかった感覚に自分の成長が身に染みて理解できた。


こうやって過去のものを懐かしむことで自分の人生が進んでいる事を実感出来ることは悪いもんじゃないな、、

柄にもなく俺は感慨深くなる。

ふと周りの三人を見ると皆思い思いの過去の引き出しを開けているようだ。


「友河、暗いぞ!」


机を指で撫でていた友河を俺は茶化した。


「朝妻にはわからないよ。」


そう言うと友河は机から手を離す。


そりゃぁ、、友河が何を考えていたかなど俺には到底わからん、、


「ザッ・・明日は東海から近畿にかけて・・ザッ・・るでしょ・・ザッ・・」


「おい、いい加減やめてくれい、懐かしめないじゃないか。」


再び柄木田に文句言う。


「だってさ・・」


どうもやめなさそうだ。


「そろそろ行こうぜ!」


金谷が仕切る。

俺らはその後、2組、1組、視聴覚室、図書室、理科室、音楽室と回っていった。


「懐かしかったなー。」


「来て良かっただろ?」


「何もなくて・・良かった・・」


日もどっぷり暮れ、非常灯と携帯のライトを頼りに一頻ひとしきり散策し終わる。


「そんじゃ、最後は1Fの職員室に行って帰ろうぜ。」


さっきから仕切り屋になっていた金谷の提案で最後は職員室に向かうことになった。


「俺、職員室はいい思い出全然ないんだよなー。」


「僕だって一緒さ。朝妻君のとばっちりでいつも怒られていい思い出ないよ。」


「若気の至りだ許せ。」


俺は、柄木田に適当に謝る。

金谷と友河は笑いながら俺と柄木田のやり取りを聞いていた。


「うわぁ、職員室まだ全然片付いてないじゃん?」


先頭を歩いていた金谷が職員室の様子を見て言った。

見るとまだ一部書類の様なものもありこれから廃校として使わなくなるにしては汚過ぎた。


「先公、俺らには整理整頓がしろだとか口酸っぱく言い続けていたのにな。」


「そうだよねー。」


俺の意見に友河が賛同する。

俺らは中に入り担任のデスクや、当時は美人で何人もの男子中学生を虜にしてきた先生のデスクなどを見て回る。


「あっ!見て廃校の事書いてあるよ?」


掲示板に廃校についての内容が書いてある用紙を柄木田が見つける。

皆、その情報は知っていたが、現実としての事実に目を向けた。


(南中学校、56年間ありがとう。2020年2月29日。わが学び舎は廃校となります。)


ん?


「あれ?今年2019年だよな?間違ってないか?」


「いや、朝妻、それはおかしいぞ。今年は閏年うるうどしじゃねーから2月29日はないぞ。・・来年の事だ。だからこの告知は正しい。つか、来年じゃん廃校。」


「・・朝妻君からメールもらった時、少し変だとは思ったんだ。だって明日廃校だからって書いてあったけれど、よくよく考えてみたら3月1日に廃校ってキリが悪いなぁって思っていたんだ。」


あっ、、俺勘違いしていた、、今年2月29日あると思っていた、、


俺は金谷の指摘にようやく今日が3月1日だという事実を知る。

そして、柄木田が疑問に思うことは最もだと思った。


「なーんだ!来年じゃ・・」


「ザッ・・ザッ・・次の・・ニュー・・です。昨日・・〇〇市・・ザッ・・南中学の校庭隅で・・ザザッ・・友河 由幸さん(18歳)が・・ザッ・・首をぉ・・ザッザッ・・吊っている所・・・ザッ・・警察・・ザッ・・自殺と・・調査・・ザッザッザッ・・ます。」


南中学、、ゆ、が、わ?


ビシャン!!


僕らの後ろで勢いよく閉まる扉の音が響く。


えっ?何?

俺は隣同士で硬直している金谷と柄木田に目をやる。

金谷は金縛りにあったかのように凍り付き、金谷は身体をブルブル震わせている。

後ろを振り向けない。


「廃校が決まっているからこの校舎は殆ど使っていないよ。最後の幽霊ってイッタジャナイカ。ネエ?タノシカッタヨネェ?でもこれから俺ヒトリハイヤナンダ。キテクレルヨネェ?友達ダロ?」


その後、僕らは皆一緒に、、

お読みいただきありがとうございます。

ホラー、ミステリー作品をどんどん発信していこうと思っています。


よろしくお願いします。

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