設定集
設定集です。興味のない方は飛ばして本編へどうぞ。
ネタバレが無いように注意はしますが、もししてしまったらすいません。
設定集
時代背景
戦争について
物語から十年前の二一六七年、異星人が人類の勢力圏内に進出したことで始まったこの戦争は、終始異星人の優勢で進んでいった。人類は初の異星間戦争において有効な手立てを打つことが出来ず、ただただ戦力を浪費する形となってしまい、かつて栄華を誇った連邦艦隊も今ではフリゲートをいくつか残すのみとなった。
現在人類の勢力圏にある惑星は、異星人の攻撃によって傷つき不毛の大地となった地球と、いくつかの寒冷惑星にとどまっている。そしてそれぞれの惑星間は連絡路を絶たれ、連携を取ることは困難であった。
地球連邦
連邦は始め、アジアとアフリカの経済同盟に過ぎなかった。組織内での発言力の低下を嫌った列強の参加が遅れたことで、大した力を持たない弱小国家の集まりでしかなかったのだ。
状況が一変したのは十年前。戦争によって経済力が衰弱した列強は、その軍備を維持するため連邦に頼らざるを得ず、自然と組織の一部に組み込まれていった。二年前、核攻撃によって一時無政府状態となった中国が最後に併合され、人類は一つの旗の下に集った。
だが、全ては遅すぎた。今の連邦が完成された時点で人類は支配領域の九割を失い、人口は全盛期の二十分の一に過ぎない。首都はマニラからワシントン、リパブールなどを経て現在はパリの地下避難区に存在する。
連邦軍
開戦時は、国際連合が指揮する国連平和維持軍の一参加者だった。大した戦力を保有していなかったため、任務はもっぱら後方で補給物資を護衛することで、戦争に対して影響を与えることは無かった。
列強が疲弊して国際連合の求心力が低下すると、今度は連邦に統合参謀本部が置かれて平和維持軍を指揮するようになった。やがて列強が連邦に併合される形で連邦軍の戦力は増していき、最後には平和維持軍に参加している国家が連邦と中国のみという状態になり、ついには国際連合がなくなって連邦軍が直接全軍を指揮する形になった。
だが、現在統合参謀本部は他の惑星との連絡を取ることが難しく、地球以外の残存部隊については現地政府に指揮を委任している。
地下避難区
工場やビルを地下空間に追いやって、美しい大地で人生を過ごす。アメリカが発祥のこの新しいライフスタイルに、各国はこぞって飛びついて我先にと巨大な地下空間を築き始め、そこに工場やビルといった人間の健康な発育を阻害すると言われるものを片っ端に押し込んでいった。
地下空間に押し込まれるものは宇宙港や軍事基地、団地なども含まれ、人類は見かけ上美しい大地で成長し、結婚して家庭を営んだ。かくして人類史に残るこの巨大プロジェクトは、次々と成功を収めていくことになる。
戦争が始まり地球が核攻撃に晒されるようになると、地上に残されていた産業基盤は全壊し、地下に築かれた工場群が人類にとって重要なライフラインになった。人類は地下空間を拡張してそこに住居を築き、肩を寄せ合って生きていくことになる。人類に忌み嫌われた工場群が、人類の救世主になるという、何とも皮肉な結末となったのだ。
異星人
登場人物の間ではもっぱら〃蟲ども〃もしくはただ単に〃敵〃とだけ呼ばれている敵対勢力。その姿はバッタに似た顔を持ち、遺伝子改造で手に入れた内部骨格と退化した外骨格で形成されている。
国家によって大衆を統治する政治体制を持ち、国家名をザラストロ共和国と名乗っている。ザラストロは異星人が信奉する唯一神の名で、異星人のために休むことなく大地を耕し続けるとされる竜に似た神様。
人類のことを「アテロイデ」と呼んでいる。アテロイデとはヒトデに似た生き物の名前で、肌色の皮膚を持ち触ると柔らかい。異星人には人気の愛玩動物である。繁殖期には皮膚の上に堅い殻を形成し、卵を守る習性がある。
公用語がラテン語に近く、おかげで解析は容易であった。国歌は『国家への軍務』。戦争を始めた理由については、いまだ分かっていない。
地名について
キール避難区
キール地下に設けられた比較的新しい避難区。ドイツ軍ウルリッヒ宇宙軍基地を拡張することで生成されたこの街は、初めは宇宙軍基地で働く軍人とその家族のための場所として運営された。
だが、戦力を大きく減らした連邦軍にとってその広大な敷地は過剰となり、やがて基地に赴任した軍人たちを楽しませるための店舗が立ち並ぶようになり、軍人の街としては不浄の街としてその名を馳せるようになる。
ベルリン避難区
この古い避難区は戦争前にはもう一部が完成していて、助成金につられた幸運な人々が生活を送っていた。その理由は異星人の進行に備えるなどという目的では勿論なく、中露や第三世界との、来るべき核戦争に備えることがもともとの狙いだった。列強各国は一つか二つこれと似た避難区を持っていて、逆に言えば巨大核シェルターを運営できることが列強に証だった。
核戦争によって各インフラが切断された状況を前提に設計されているため、ほかの避難区と比べて比較的余裕のある生活を提供することが可能である。連邦政府の重要な施設が集約しているため物資面でも優遇される、裕福な都市である。
灰の森
ハンスたちが最初に目的地としていた場所。訓練用として頻繁に利用されている場所で、初実戦の前にハンスも何度か訪れていた。立ち枯れた木々が並ぶ森の中で標的を見つけ出すのは、容易なことではない。此処で鍛え上げられた新兵は八方目を体得し、どの角度からの攻撃でも対処できると言われる。
惑星ラナトゥス
太陽系から五光年先にあるプロキシマ・ケンタウリ星系にある惑星の俗称。本当はややこしい名前が付いているが行政上分かりづらいのでこの名前が付けられた。由来はラテン語で西瓜を意味する単語から発音しやすい部分を切り取ったもの。
地球と似た岩石惑星だが、緑色にガスに覆われているため人間が生きるには適さない。また、この地で妊娠している女性が四か月以上過ごすと、胎児の遺伝子に影響が出て髪が緑色になる。
本来ならば全く相手にされない星の一つとなる筈だった。が、地中に眠る豊富な希土類を採掘するために、多くのイギリス移民がこの惑星に押し寄せたことで、一大工業地帯としての地位を確立する。
戦争から三年目に異星人の攻撃を受ける。戦闘は三か月に及び、人類が建設した施設の三分の二が消滅した。生き残った僅かな住民のほとんどは避難してからそのまま軍に志願し、異星人に対する復讐戦に邁進した。
実在の地名
この章で特に解説がない地名はだいたい実際にある地名です。大体の街はベルリンの解説と同じ状態で、街としての機能はほとんど残っていません。掘り出し物を狙う悪党や定期駆除に来る連邦軍、何かの理由で派遣された異星人たちが入り乱れる三つ巴の地となっております。
天然のトーチカとなる鉄筋コンクリートのビル、核が作り上げた前衛的なオブジェ、獲物を探して血眼で彷徨う三勢力があなたをお待ちしております。最寄りの際はぜひお越しください。
小倉
言わずと知れた京都府にある日本の工業都市。第二次世界大戦では廣島に続いて二番目に原爆を投下された。戦争前は平和公園や原爆資料館が建てられ、後世に核がもたらす凄惨な被害を伝えていた。この戦争では再び核攻撃を喰らい、ベルリンと同様、地下避難区に多数の避難民を抱えている。
また核攻撃がなされた時に、交通記念館の何両かの鉄道車両が有志の手で避難区に運び込まれた有名な逸話がある。