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水彩のフィヨルド  作者: 佐藤産いくら
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42、失くなった鍵

 鍵を美術室に失くしてしまった。

 秘密基地の、ロッカーの鍵だ。いつもバッグに入れていたのだが、入っていない。朝学校に着いた時にはきちんと有ることを確認したから、学校の中で落としたに違いない。今日行ったのは、教室と、美術室と、美術準備室だ。そのうちの美術準備室にはバッグを美術室に置いて行ったので、ノーカウントとする。

 じゃあまずは教室に行くことにした。机がごちゃごちゃした教室では、探し物をしようにもなかなか探しづらい。椅子の下、机の中、部屋の角隅まで探したが見つからないので、ここには無いのかもしれない。

 だとしたら次は美術室だ。美術室の部屋の鍵をもらうために、職員室へと向かう。

 職員室のドアを開けると、ふんわりと暖かい風が漂う。教授たちはいいよなぁ、いつも暖房のついた部屋で仕事することが出来て。校長の机の上には、創立記念の写真と、創立者、佐久間太一郎の写真が飾ってある。

 その時、ふと思ったことがある。なぜこの学校は、急に水彩画をやめてしまったのだろう。今まで通り続けていれば、芸術の幅も広がるだろうに。


「あれ?」

 美術室の鍵をとるために開けた鍵庫を見て、驚く。美術室の鍵は無かった。しかし、違う部屋の鍵もない。タグが白紙の鍵がいくつも並んでいる中の一個。

 秘密基地の鍵が、ない。


(なんで?)

 心が、ざわりとする。中里が持っていった?それは有り得るかもしれないが、中里は今は卒業製作の真っ最中だ。持っていくなら美術室の鍵を持っていくはずだ。

 だが、マイロニーはいまだ出張から帰ってきていない。

(…やっぱり先輩が持って行ったのかな?今日だけ秘密基地でやるのかもしれない。)

 そう思い足を秘密基地へと向けた。


 エレベーターが上がって最上階まで行く途中、美術室に寄ることにした。ロッカーの鍵が落ちてるかもしれないからだ。しかし、そこで私は唖然とした。

「何だどうした。クリス、俺に用か?」

 そこに居たのは中里祐也だった。油絵具を片手に、描きかけのキャンバスに向かっていた。

「……………いや、別に。」

 急に体が震え出す。サーっと冷えた背筋の汗が、腰をつたう。喉が震えて、ヒュ、と変な音が出る。私はその場から逃げるようにエレベーターへと走った。

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