41、失態
少しづつ寒くなり、葉が散ってゆく。長いはずの時間はあっという間で、あと三ヶ月で4年生は卒業する。
私の秘密基地には、また一人仲間が増えた。中里祐也という、プライドの高い男だ。彼はあの日以来、私が水彩画を描いていても何も言わなくなった。それだけでなく、しばらく経つと自分にも水彩画を教えろと言い始めた。
「スペックは高い方がいいに決まってるし、お前に出来て俺にできないわけがない。」
だそうだ。
彼の手法はもっぱら油絵のもので、水彩画とは異なるものであったが、それでも上達は学生の私にも分かるほど早かった。今は色んな描き方を模索しているようで、水彩画と油絵を交互に描いたりしている。
マイロニーはというと、いつも通りだ。ふらっと基地に現れてはいつの間にか居なくなっている。片付けようとすると私の絵が散らばっていることが度々あり、おそらく私の絵を見ているらしいのだ。
そんなマイロニーは一週間前から出張している。そりゃそうだろう。あちこちで公演やサイン会のオファーが殺到しているらしいのだ。そんなことで、今は関西の方へと出かけている。頻繁に奴から自撮りの写真やらを送り付けられ、離れている感覚はしない。そんなこんなで今は中里と私のふたりきりだったのだが、中里も卒業用の絵の制作に追われている。だから今この基地には私一人しかいない。
もともと一人だし、平気だった。マイロニーがこの学校に来る前に戻っただけだ。ただ、騒音に慣れてしまったためなのだろうか。部屋に響く水の音がやけに寂しいと思うのは。
だからなのだろうか。
普段は決して部外者を基地に入れない私が、他人の侵入を許可してしまったのは。




