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水彩のフィヨルド  作者: 佐藤産いくら
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30、昔話をしよっか

「ゴーストライター………?」

 聞いたことはある。ゴーストライターって確か…作家の代作をする人のことだよね…?それ自体に関しては、とくに騒がれることでもないと思うが。

「まあ画家だから、『ライター』と言えるかどうかは怪しいよね。」

 ハハハとマイロニーが笑う。いや、そこじゃない。

「僕たちの昔話をしよっか。僕が引き取られた日からだ。あの日はもしかしたら狙って来ていたのかもしれないね。ぱらぱらと、気持ちのいい雨の日だった………。」



 あの日はもしかしたら狙って来ていたのかもしれないね。ぱらぱらと、気持ちのいい雨の日だった………。ポーレットはあの日、スケッチブックを持っていた。きっと雨上がりの教会を描こうと思ってきていたんだ。だけど雨はずっと軽く降り続けるばかりで、やむ気配はなかったから協会の中に雨宿りをした。そこで協会に住む子供たちを目の当たりにした。

 引き取られた僕は、お手伝いさんもいる豪華な家に住むことになった。急に生活が変わり、不安でいっぱいだった。いくら私があなたのお母さんですなんて言われても、幼かった僕にだって受け入れることはできなかった。

 ある日、僕は彼女の部屋に忍び込んだ。彼女のお手伝いさんですら入れない部屋。彼女への軽い反抗心で部屋に忍び込んだ。

 そこで僕は見たんだ。壁を埋め尽くすほどの数の絵を。部屋に充満する油絵具の香り。それほど嫌じゃあなかった。辺り一面、しとしとと雨が降ったあとのようだった。

 とにかく僕はその場で放心してしまったんだ。こんなにたくさんの絵を今まで見たことは無かった。キャンバス、画用紙、スケッチブックの切れ端。だけどどれも大事そうに飾られている。何も言わないはずの絵が、幸せそうな表情を浮かべていた。

 何故だろう。そう考えていると、背後からドアが開く音がした。振り返ると、彼女がいた。僕は叱られると思ってあわててごめんなさいって言ったんだ。そしたら彼女、なんて言ったと思う?


『あなたも、描く?』


 その時思ったのさ。この絵たちは、彼女が描いた幸せな気持ちが絵となって存在しているんだって。

 彼女が僕の師匠になった瞬間さ。

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