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水彩のフィヨルド  作者: 佐藤産いくら
27/49

26、馬鹿にすることは大得意

「何度も、何度も、おめでとうを繰り返した…………。」

 カラン、とティースプーンがカップの中で音を立てる。

「………結局、何の話だったの?」

 今までの流れからしてあまり関係の無い話だった気がするのだが。ただ、少し悲しい物語だった。

「白いトリはね、大切な人から大切なものを奪ってしまったんだよ。今はみんなが彼を愛してくれる。その中でも、一番彼を愛してくれていた人からね。それに気がついた時には、彼女はもう側にはいなかったのさ。」

 淡々と話すマイロニー。優しい顔で(から)のティーカップの底に残ったジャムの欠片を眺めながら……。

「…黒いトリは、どこに行ったの?」

「どこにも行ってなかったよ。ずっとそこにいたんだ。そして彼を見守っていたんだ。だけど、彼の目線が彼女よりも高いところに行ってしまったから、見えなくなってしまったんだ。」

 これが、マイロニーの秘密なのだろうか。白いトリは、マイロニー?黒いトリは……あなたの大切な人?

 きっとそうだ。マイロニーは黒いトリに会うためにやって来たんだ。自分より低い場所を飛びながら、自分のことを見守ってくれている誰かに会いに来たんだ。

 ……………マイロニーは、黒いトリから何を奪ってしまったのだろう。

 聞けない。

 これは聞くことができない。さすがの私でも、聞くことを恐れてしまう。でも心配はいらない気がした。マイロニーは絶対に話してくれる。話してくれなかったなら…………その時は、黙って一緒に日本に帰ろう。

「さて、そろそろ時間だ。」

 左手に巻いた高そうな腕時計を見て、マイロニーが席を立つ。あわてて私も後に続き、荷物を抱えて店を出る。そういえば、注文をした際にすでにお金を払っていたな。日本とは形式が違くて、違和感がすごい。

「少し歩くけど、いいかい?」

「うん、大丈夫。…ねえ、マイロニー。」

「なんだい?」

 私は、慰めるなんて柄じゃない。元気づけるのだって得意じゃない。マイロニーみたいに怒ったりすることも向いてないようだ。だから……

「泣いてもいいからね?あんたの泣き顔見て、爆笑してあげる。」

「………はは!」

 マイロニーはさっきよりも少し高い声で、「冗談!」と笑った。

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