25、水彩のベルヴォワ
あるところに、ふたりのトリがいた。ひとりは白いトリで、容姿はとても美しいものの、声を持たなかった。ひとりは黒いトリで、容姿こそ美しくはないものの、どこまでも通る声を持っていた。ふたりはとても仲が良かった。
黒いトリは美しい歌声で木や、川や、花たちを魅了し、安らぎを与えていた。しかし、黒いトリにも安らぎを与えられない者がいた。それは、白いトリだった。
白いトリは思った。
[いいなぁ、黒いトリは。ぼくは声がないから、君のように美しく歌えない。美しい姿だけでは、誰もほんとうに愛してはくれない。]
そうして、ぽろりとひと粒の涙を流した。
それを見た黒いトリは、白いトリをかわいそうに思った。
[ああ、かわいそうな白いトリ。それならわたしの声をあなたにあげる。そうすれば、みんながあなたのことをほんとうに愛してくれるわ。]
黒いトリは白いトリに自分の声をあたえた。白いトリののどからは、美しい歌声が奏でられた。白いトリは嬉しくて、何度も、何度も歌った。その声は遠くの木や、川や、花にまで届いた。美しい容姿と美しい声をかねそなえた白いトリは、みんなに愛された。
白いトリが振り返ると、黒いトリはどこにもいなかった。
黒いトリは涙を流した。誰も知らない場所で、ひとりしずかに泣いた。ぽろぽろと誰も知らずに涙を流した。
そして、
[おめでとう]
と言った。
[おめでとう、よかったね]
黒いトリは、白いトリに何度も何度も祝福をあげた。
もう誰にも聞こえない声で、何度も、何度も[おめでとう]をくりかえした。




