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水彩のフィヨルド  作者: 佐藤産いくら
22/49

21、家族とは

「……ううん。その…勝手な行動でごめんなさい。私は……お父さんとお母さんと一緒にいるのが、その…こ、怖くて………逃げたけど、ノルウェーが嫌いってわけじゃないの。」

「怖かったって、どういうこと……?」

「………おじいちゃんの葬式を行ったあの日、お父さんとお母さんもいつかは私よりも先に死ぬんだって思って……当たり前なのは分かってる。しょうがないことも、分かってる……。あの日から、死まであとどのくらいかとか考えるようになってしまった。怖くて、お父さんとお母さんが死ぬなんて嫌なのに、考えが止まらなかった。だから……距離を取ることにしたの。」

 誰も何も言わない。呆れているのか………いや、違う。いくら馬鹿な私でも、それは分かっている。

「本当に、勝手な考えで………ごめんなさい。」

 誰が悪いってわけでもない。もちろん私が悪いわけじゃない。でも、なぜか謝りたかった。誰かの許しが欲しい。

 ふと、父が私に手を伸ばす。ピタリ、と乾いた手が頬を覆う。あれ、と思った。なんだか…………

「夢子は悪くない。ぼくらこそ、気づかなくて、ごめんね。」

 何年ぶりだろう、『父』の言葉。長い時間を隔てなければ気づかなかったけれど、誰よりも心地の良い声だった。

「自分のことしか見えてなかった自分が、悔やまれるよ。我が子がこんなにも苦しんでいたというのにね。だけど……」

 父が両手で私の頬を押し包む。むぎゅ、という変な声が出て、頬の肉で唇が押し出される。父は、にっこり笑っている。

「ぼくらは家族だよ。言いたいことは言えばいいし、言いたくないことは言わなければいい。夢子がやりたい事を、ぼくらはただ応援するしか出来ないんだから。」

 なんて、暖かい。この優しさを、今まで忘れていたなんて。ああ…………

「……………ぱぱ」

「たまには、僕らのもとに帰ってきてね?」

「……うん」

 そっと後ろから抱きしめる母。あまりの居心地の良さに、そのまま眠ってしまいそうだった。


「ありがとう、頑張る」

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