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水彩のフィヨルド 作者:佐藤産いくら
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19、再開

 車は山道を登り、木をかき分け、石を弾きながら走った。だんだんと忘れかけていた景色が鮮明な色で現れる。一時期は、もう二度と戻らないと決心した風景だ。
 道が開け、広い敷地に出る。マイロニーが車を止める。奥の方の砂利道が舗装され、途中からレンガが敷き詰められている。懐かしの、我が家ーーー………。

 怖かった。のこのこと来てしまったことに罪悪感を感じていた。マイロニーはと言えば、私の横で今ニコニコと外面の笑顔を下げている。器用なやつだ。
 インターホンに伸ばした指が震える。きっとここで逃げてもマイロニーはその長い足で私を捕まえてしまうだろうし、私自身ここでインターホンを押さないと、後悔するだろうということは分かっている。でも、押してもしも……万が一だが、もしも誰も、出てくれなかったら…………。
 ああ、どうしよう、震えが止まらない。父さんも母さんも出てこないかもしれない。そもそも勝手に家を出ていった娘を、こころよく歓迎してくれる訳もない。どうかしていたんだ私は。なんで、どうしてここまで来てしまったんだろう。

「ピンポーン」
 インターホンの音が鳴り、心臓がはねる。一気に汗が出て、どく、どくと血流が耳の奥で響く。
「ま、マイロニー…………」
 これでいいの?大丈夫?怖いよ、やめとけばよかっ…………
「そんな泣きそうな顔をして見られても困るよ。ここで泣いたら台無しだよ?ほら、僕を見習って………おっと」
 キイ、木製の扉が軽い音をたてて開く。そこには、茶色い髪をゆるくオールバックにした、男性が立っていた。男性は最初伏し目がちであったが、ゆっくりと顔を上げ、前を見た。アジサイ色の瞳が私の顔を見て、ふるり、と揺れる。
「ゆめ、こ………?」
 よろ、と玄関からふらつくように出てくる。私の目を見つめ、髪を撫で、肩をつかむ。
 男性は、私の記憶よりも深い声で、私の名前を何度も、何度も呼んだ。
「ゆめこ……ゆめこ……!ゆめこ…………!」
「父さん……ご、ごめ」
「おかえり…………!」
 心からの、安堵。それが伝わってくると、私は全身の力が抜けていくような、またなんだか目の前の風景が水の中に晒されてしまったような、そんな気がした。
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