14、幻ではなかった
何冊か手に取り、ぱらぱらとめくってみる。文字は見ず、ただ中の絵だけを見ていた。絵柄は違うものがいっぱいあったが、塗り方が同じだ、多分このボサ髭の男性が全部描いたのだろう。
(すごいな………。)
男性の方をちらりと見ると、頬杖をつきながら、くぁ、とあくびをした。今も新しい絵本の作成中だったのだろうか。体のあちこちに絵の具がついている。そして本人は忘れているようだが、細い筆が左耳に挟まっていた。
少し時間をかけて、私は二冊絵本を選んだ。一冊はとてもファンタジーな、キラキラとした冒険の物語だ。もう一冊は、文が無く、絵だけの絵本だ。
マイロニーに選んだことを知らせようとキョロキョロすると、いつの間にか彼は店主の男性の所にいた。店主は何か紙を見ている。
「あれ、選んだのかい?」
「うん………それは、何?」
「あーこれは…………」
マイロニーが答える前に、店主がその紙を折りたたんでマイロニーに押し付ける。そして何事かつぶやき、マイロニーの顔を見るとニヤリと笑った。マイロニーも店主の顔を見返し、ニヤッと笑う。
その後店主はまたマイロニーに何かを伝えると、私の方に手を差し出してきた。慌てて絵本を渡す。マイロニーは紙を鞄にしまうと胸ポケットからお金を取り出し、机に置いた。
店主は白い、青とピンクのインクが散りばめられた模様の紙袋に絵本を入れて渡してくれた。紙袋の中央には、銀色の文字で看板と同じ文字が書かれていた。
「……何を話していたの?」
「んーちょっとねー」
店から出てマイロニーに尋ねるも、はぐらかした返答が返ってきた。
振り返ると、ほんのりと赤らんだ空の下に、絵本屋は佇んでいた。大きな建物に挟まれながら。
ほっと胸をなでおろす。
「ちゃんと存在してるお店だった……。」
「え、どうしたの夢子。大丈夫かい?」
「とても不思議で素敵なお店だったから、実は幻のお店なのかもしれないって思ったの。」
「ははは、なんだいそれ。」
ホントのことを言っただけなのに笑われてムッとする。けれどマイロニーはその後に、
「素敵じゃないか。」
と続けた。




