表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水彩のフィヨルド  作者: 佐藤産いくら
12/49

11、長いまつ毛と肌と髪

 鼻を強くつまみ、思いきり鼻で息を吐く。そうすると、耳の奥の水がつまったような感覚が一時的に消えた。

 隣から、視線を感じる。すごく感じる。頬杖をつき、小さな窓によりかかる。…隣からの視線で顔に穴があきそうなので、仕方なくチラッと横を見やる。すると隣に座っていたフランス人は、パアっと顔を輝かせてニコニコと笑った。

「いやぁ僕はわかってたよ!君は絶対に来るってね!」

 あまりにもうざいので、そうですかと一言応えると窓の外に目を移す。窓の外にはどこまでも続く青空と雲の絨毯が広がっていた。


 夢で見た私は光を目指して走っていた。走っていった先には、真っ白な湿っぽい空間にいた。雨の匂い。夢なのに、匂い、温度までもが伝わってきた。

 ここはどこだっけ………。一歩進むたび、じゃり、と足元で音がする。

 一寸先も見えない。足を動かすのと同時に、胸の鼓動が強くなる。

 急に懐かしさが溢れ出て、足を止める。ゆっくり、ゆっくりと景色が映し出される。霧のように現れた風景は、ノルウェーで見たあの景色だった。


「………あ……………………」


 はっと目が覚めた。夢の中で出した声が、現実でも出てしまっていたみたいだ。ドクドクと鼓動が激しい。少し痛い胸を抑え、ベッドから這い降りる。そして私の手は勝手に、手当り次第服をカバンに詰めはじめた。


「僕の予想が当たっていれば、君は昨日まできっと悩んでいるだろうと思ってたけど、なんで行こうと思ったんだい?」

 本当にこの男はなんでもお見通しって感じで腹が立つ。ドヤ顔がムカついたので、無視して外を眺めていた。

 しばらく横から視線を感じていたが、雲と空の境目をぼんやり見ていると、いつの間にか隣からは寝息が聞こえていた。

 この男は、寝顔もムカつくほど整っていた。薄い色の長いまつ毛が上下する。女子みたいにキメ細かい肌は喧嘩を売ってるとしか思えない。寝癖がぴよぴよと跳ねているのを見て衝動が抑えられなくなる。そっと触ってみると、まるで猫の毛でも触っているかのようだった。

「………なんでか分かんないけどね…行かなきゃって思ったのよ。いい加減現実から逃げるのをやめなさいって言われた気がしたの…………。」

 マイロニーは聞いているのか聞いていないのか、スンと鼻を鳴らして、目を閉じたまま顔をそらした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ