11、長いまつ毛と肌と髪
鼻を強くつまみ、思いきり鼻で息を吐く。そうすると、耳の奥の水がつまったような感覚が一時的に消えた。
隣から、視線を感じる。すごく感じる。頬杖をつき、小さな窓によりかかる。…隣からの視線で顔に穴があきそうなので、仕方なくチラッと横を見やる。すると隣に座っていたフランス人は、パアっと顔を輝かせてニコニコと笑った。
「いやぁ僕はわかってたよ!君は絶対に来るってね!」
あまりにもうざいので、そうですかと一言応えると窓の外に目を移す。窓の外にはどこまでも続く青空と雲の絨毯が広がっていた。
夢で見た私は光を目指して走っていた。走っていった先には、真っ白な湿っぽい空間にいた。雨の匂い。夢なのに、匂い、温度までもが伝わってきた。
ここはどこだっけ………。一歩進むたび、じゃり、と足元で音がする。
一寸先も見えない。足を動かすのと同時に、胸の鼓動が強くなる。
急に懐かしさが溢れ出て、足を止める。ゆっくり、ゆっくりと景色が映し出される。霧のように現れた風景は、ノルウェーで見たあの景色だった。
「………あ……………………」
はっと目が覚めた。夢の中で出した声が、現実でも出てしまっていたみたいだ。ドクドクと鼓動が激しい。少し痛い胸を抑え、ベッドから這い降りる。そして私の手は勝手に、手当り次第服をカバンに詰めはじめた。
「僕の予想が当たっていれば、君は昨日まできっと悩んでいるだろうと思ってたけど、なんで行こうと思ったんだい?」
本当にこの男はなんでもお見通しって感じで腹が立つ。ドヤ顔がムカついたので、無視して外を眺めていた。
しばらく横から視線を感じていたが、雲と空の境目をぼんやり見ていると、いつの間にか隣からは寝息が聞こえていた。
この男は、寝顔もムカつくほど整っていた。薄い色の長いまつ毛が上下する。女子みたいにキメ細かい肌は喧嘩を売ってるとしか思えない。寝癖がぴよぴよと跳ねているのを見て衝動が抑えられなくなる。そっと触ってみると、まるで猫の毛でも触っているかのようだった。
「………なんでか分かんないけどね…行かなきゃって思ったのよ。いい加減現実から逃げるのをやめなさいって言われた気がしたの…………。」
マイロニーは聞いているのか聞いていないのか、スンと鼻を鳴らして、目を閉じたまま顔をそらした。




