10、夢の夢子
日曜日が迫っている。
今日は土曜日、もうあと数時間で日付が変わる。
私はとても迷っていた。行きたくない。ノルウェーには、私の両親がいる。自分で日本に残ると決めたのに、一人で勝手に会うのが気まずくなって、馬鹿みたいだ。
でも、行く理由はある。私は学校に隠れて水彩画を描いているが、マイロニーだけはそのことを知っている。知っていて、学校側にそれを隠してくれている。その事実を使って私を脅す……なんてことは万に一つも無いだろうが。実際、あの日から今日までマイロニーとは放課後秘密基地に集まって会うことはあっても、旅行についてマイロニーが口に出すことは無かった。私を気づかってのことなのだろう。
行きたい。ノルウェーに帰る機会なんてめったに無い。でも、行きたくない。行きたくない理由だって、ちゃんとある。
「ああ………」
嘆きが口からこぼれ出た。ベッドの棚の上に置かれた写真立てをのぞき込む。そこには永遠に若い姿で微笑む父と母と、まだ少しあどけない自分がいた。
いつからだろう、こんな気持ちを抱いたのは。その気持ちに気がついてから、私は一人で街灯のない夜道を歩く気分に陥っていた。誰にでも恐れや不安はあるだろう。でもこんなの………こんなの、あまりに幼すぎて笑ってしまう。
「マイロニーも笑うよね………?」
そう考えると、もう立ち直れない気持ちになった。あの時と同じだ。ああ、どうしよう。こんなの気にしたって仕方が無いものなのに。マイロニーだって………私だって、いつかはそうなる運命なのに。
行けない。
明日はどこにも行かない。そう決めて、素早くベッドに潜り込み、電気を消した。
その日は、不思議な夢を見た。夢の中で私が………暗闇の中を泣きながら歩いていた。そして一縷の光を目掛けて一目散に駆けていったのだ。




