表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エキ・者・カタリ セカンドステージ  作者: すかーれっとしーと
2/3

世界に輝く車メーカーのお膝元<中編>

こちらも「エキ・者・カタリ」からの分離作品です。



名古屋鉄道・豊田市とよたし駅。


 名古屋鉄道、通称「名鉄めいてつ」と呼ばれる。

通称も何も、会社ロゴも「MEITETSU」なのだが、正式会社名は「名古屋鉄道」。

名鉄名古屋駅からは、名古屋本線で豊橋方面に向かい知立ちりゅう駅で乗り換え。

三河線で7駅目。約45分を要する。

知立駅からつながる三河線は、猿投さなげ駅まで行くのだが、豊田とよた市全体で考えると、短い。


また、豊田市駅は豊田線の終点でもある。


 この豊田線は、次の梅坪うめつぼ駅で三河線と分岐して、赤池駅で名古屋市営地下鉄・鶴舞つるまい線に乗り入れしている。

名鉄は、全体赤一色の車両なのだが、鶴舞線の銀色のスカイブルーラインの車両もホームに入ってくる、そんな駅である。


 2階部分が東西自由通路になっており、西口側はペデストリアンデッキで、愛知環状鉄道の新豊田しんとよた駅と連絡している。

「ペデストリアンデッキ」とは、広場と横断歩道橋、両方の機能を併せ持ち、建物と接続して建設されている、歩行者通行専用の高架建築物である。


 駅から駅をつなげるもの、商店街や繁華街とつなげているもの、大なり小なり、様々なものを全国各地で目にすることができる。




★★★




 俺とさくらは、1軒の小料理屋の戸口の前に居る。

仕事場であるコンビニを出て、豊田市駅の東西通路を通り、駅前の国道を北に進んだ辺り。

俺とさくら、そして里美とよく行った、馴染みの店である。


 最近は、土用のウナギの販促が忙しくて、なかなか行く機会がなかった。

そのため、里美が博多に行って、初めて店内に入ることになる。



~カラン カラン~



ドアを開けると、音が鳴る。


 店内はそこまで広くはない。カウンターに6人座れるくらいか、その後ろにテーブルが2つ。

15人から、詰めても20人がやっと入る、そんなスペース。

とはいえ、21時に近いこの時間では、ピークが過ぎたのか、客は2、3人くらいである。


「いらっしゃいませ」


 テーブルの席に着く客に持っていくだろう、お盆に料理を乗せている女性が挨拶してくる。

2人は慣れた感じで、カウンターのイスに並んで座る。


「・・・らっしゃい」


 カウンターの中にいる、顎鬚を少し蓄えた男性が、笑顔で接客してくる。

店長の堂本とうもと卓也たくや。俺と同級生である。

水の入ったグラスを2つ、2人の前に、軽やかな音を鳴らせて、置いた。

そして、怪訝そうな顔をして、俺に聞いてくる。


「あれ?あのちっこい、うるさいのは、今日は来ないのか?」

「ああ、里美は博多に行ってしまったよ」


「・・・そうか」

「おかげで、俺とさくらは、今日も明日も明後日も仕事ってわけだ」


俺は、笑いながら応対する。


「・・・博多って。遠いな・・・」


 卓也は、ため息をつく。少し沈んでいるようだ。

俺は彼が、里美のことを気にしているのは知っていた。

しかし、それは叶わぬ恋だということも、また、彼女に聞いて知っていた。


「あの子にとっては、幸せみたいだけどね」

さくらが、お冷に口をつけた後、そう呟く。


「うーん、もう会えないのか・・・」

「何をそんなに落ち込んでるのよ、お兄ちゃん」


 落ち込んでいる卓也に、女性が声をかけてくる。

テーブル席の客に料理を持って行って帰って来たらしい。


「まあまあ、友美ゆみちゃん、放っておきなさい」

さくらが庇う。しかし、次の言葉でダメを押す形になってしまう。


「里美は、博多の彼のところで同棲するみたいよ」

「え・・・」


「ホントですか、里美さん、よかったですねー」

卓也が絶句している横で、友美は表情がより明るくなった。


「同棲か・・・そのまま、結婚するんですかねー」

「多分、そうなるんじゃないかなー、いつか博多に冷やかしに行かない?」


「いいですねー」


 さくらと友美は、そのまま「女子会」になりつつある。

女子会になる前に、俺は、友美に対して、気になっていることを質問する。


「そうだ、堂本さん。シフトなんだけど、希望通りほぼ毎日入れたけど、大丈夫?」

「あ、はい。18時半までに抜けさせてもらえば大丈夫ですよ」


そう、友美は答える。


 彼女は、朝9時から18時まで、ウチのコンビニのバイトのシフトに入っている。

その後、忙しくなる兄の店を手伝うということになる。

かなりタイトな時間割だと思うのだが、本人がぜひそうしてくれと、希望してきた。


「そーれーよーり、緒方せ、ん、ぱ、い?」

「ん、なんだ?」


「なんで、仕事場では私のこと『堂本さん』って呼ぶんですかー?」

彼女は俺に向かって不服そうな顔をして、抗議してくる。


「普段通り、『友美ゆみちゃん』とか「友美ゆみ」って、なぜ、呼んでくれないんですかー?」

「んー、何のことかな、堂本さん」


 実際、同級生の卓也の妹なので、普段は「友美ゆみちゃん」と呼んでいる。

もう10年以上の付き合いだ。彼女の小さい頃から知っている。


 なぜ、そう呼ばないのか、と聞かれれば、ただ単に照れくさいというのが本音。

建前では、妹分を身内びいきしないための、自分に対しての戒めの意味がある。

さくらには、建前の理由を伝えている。


「卓也。友美ちゃん、働きすぎなんじゃないか?」

他の客に呼ばれて、注文を取りに行った彼女を見ながら、兄に意見を向けてみる。


「うーん、ウチの妹様は、1度言い出すと、言うこと聞かないのは、お前も知っているだろ!」


 兄の方はあきらめ顔である。学生ならば、勉強で大変だろうに。

今は夏休みだが、普段は学校が終わってからウチに働きに来るので、もっと大変である。

そう主張したのだが、ウチで働いた日は、店には入らないと、兄から訂正が入る。

そうしないと、妹がどんなに働くことが好きでも、学校の成績が心配だと、兄貴がとうとうと話す。

助かるが、学生の本文は勉強なので、そちらを頑張ってほしい、というのが、兄・卓也の言い分だ。

今日の様子を見る限りでは、1人でレジ打ちさせるのも、大丈夫だろう。

里美が抜けて戦力の減ったウチのコンビニでは、貴重な新戦力だ。

若いとはいえ、働きすぎると、体調を崩すだろう。そうならないように、しっかり見てやらないと。

接客対応をしている友美を眺めながら、俺はそう心に決める。


「卓也さん、注文いいですか?」

しばらく黙っていたさくらが、卓也に料理の注文をするため、声をかける。


「じゃあ、半熟卵が2個入っている、濃厚なカルボナーラ、お願い!」

そういえば、まだ何も頼んでなかった。


「では俺は・・・牛カツ丼にするか」

「お前ら、メニュー見て頼めよ、そんなの頼むの、お前らだけだぞ!」


 卓也は、そう言いながらも、しょうがないなぁという顔をしながら、料理を始める。

ここは小料理屋。

カルボナーラもカツ丼も、メニューにはある。

ただ、卵が2つのカルボナーラ、牛丼と牛とカツ丼のカツの乗った丼は、存在しない。

店長の知り合いだからこその、裏メニューである。

卓也の作る料理は美味いから、仕方がない。

美味いごはんと見知った仲間とのゆったりとした時間。

出てきた料理を談笑しつつ、少しのお酒を嗜みながら、至福の時を過ごした。




★★★



「緒方せ、ん、ぱ、い?」

「おいおい、さくら。やめろ。お前が言うと、何かありそうで、ゾクッとする」


 日付が変わる頃、さくらが慣れない言葉で俺を呼ぶ。

他の客はいない。すでに閉店し、卓也は店の片づけに入っている。

手伝いをしていた友美も、仕事の時間は終わり、今はカウンターで遅い夕飯を平らげている。


「今日も、奢りでおねがーい!」

さくらが俺の後ろに回り込んで、腕を回してくる。


「あ、ああ、当たり前じゃないか」

「ありがとー、緒方先輩、大好きー!」


「お、お前、性格変わってるぞ、気持ち悪いからやめい」


 まあ、これは俺とさくらの間での、一種の儀式みたいなものだ。

この前までは、里美も含めた、3人の間でのものではあったが。


「しかしまあ、お前ら、ますますカップルじみたな」

卓也が渋い顔をして指摘する。


「後ろから抱き着くなんて、さくらさんも積極的ですねー」


 友美も笑顔で、兄の意見に賛同している。

そういえば、いつもの儀式といっても、抱き着いてくることはなかったな。


「いやー、里美がいなくなったから、『夫婦水入らず』ってヤツ、ですよーハハハ・・・」


 後ろの彼女がそう、ほざいている。

そこ、「夫婦」と言い切ってもいいのかよ・・・。

仕事場で、店長に揶揄からかわれて、慣れているはずなのだが、なぜか恥ずかしくなってくる。

長年の付き合いのある親友と妹分の前だから、なのだろうか。


「まあ、結婚式は呼んでくれ」

「お願いしますよ、緒方さん、さくらさん」


 ニヤニヤしている兄妹きょうだいに、そんなことまで言われてしまう。

首を後ろに向けると、まんざらでもなさそうなさくらが、両手で俺の頬を覆う。

さくらの呼気が酒臭い。そういえば、コイツ、結構強めなもの飲んでいたような・・・。

目が座っている。危険だ。コイツは、そこまでアルコールに強くない。

彼女の両手によって、顔を拘束される。強引に首をグイッと動かされて、向き合う形になる。


「わたしの、大好きな、ひ、と」


 彼女の艶やかな唇が、なまめかしく動き、そんなセリフを発する。

今、何を言ってきた?大好きなひと?告白?

ただ、今そんな言葉を発したひとは、アルコールに意識を奪われて朦朧としている。

本人にとって、本意でないかもしれない。

なんとか逃げようとする。が、思いのほか、力が強い。酔っ払いが。


「里美がいなくなったから、私だけの、孝史たかしさん・・・」


 不意に下の名前を呼ばれる。驚く。まさか。そうなのか?

彼女の意識化では、俺のことをそう呼んでいるのか?

唇が近づいてくる。


これは俺のためにも彼女のためにも、逃げなくては。


 しかし、その希望は叶わなかった。

彼女の唇と、俺の唇が触れる。吸いつかれている気がする。

俺の意識も飛びそうだ。気力を振り絞って、かろうじて保つことに成功する。

なんとか腕に力を入れて、からだを引き離す。

目の前には、普段見せない、色っぽい表情を見せるさくらがいた。




俺は、骨抜きになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ