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エキ・者・カタリ セカンドステージ  作者: すかーれっとしーと
1/3

世界に輝く車メーカーのお膝元<前編>

読んでいただいて、ありがとうございます。

~ピンポーン、ピンポーン~



「いらっしゃいませー」


 自動ドアが開き、お客が入って来たらしい。

俺はその音に合わせて、脊髄反射で反応し、挨拶をする。

挨拶の合間、別の客の対応をする。


「これは温めますか」


 笑顔で対応。客が首を縦に振ったことを確認して、弁当を電子レンジに入れる。

客がこちらを見ていようが、聞いていなかろうが、気にしない。

長年の経験で慣れてしまっていた。


「1000円、お預かりしますね、456円のお返しです」


 そう言いながら、お札を受け取り、小銭を返す。

レシートは突っ返された。それにも気にしない。


「では、少しお待ちください、次の方、どうぞ」

この客への対応は終わったが、後ろに並んでいる別の客への対応に移る。


「25番を頼む」

「はい、この緑色の箱でよろしいでしょうか」


 次に並んでいた客はタバコを所望した。後ろに振り返り、タバコの棚に向かう。

タバコの棚には、商品別に番号が振られており、それを客が選択するシステムとなっている。

客の了承を得て、持って帰ってくると、先ほどの電子レンジが鳴った。

弁当を取り出す。袋に弁当を入れる。箸とお手拭きを忘れないように。


「お待たせしました。ありがとうございました」


 お辞儀をしている暇はない。引き続き、客の対応に戻る。

タバコの他に、弁当やドリンク、おにぎりを購入されるようだ。


「温められますか」


 同じような質問をする。相手の了承を確認後、弁当を電子レンジに突っ込む。

清算し、次の客の対応に入る。

あーコロッケが所望ですか、3つかー

行動に入ろうとすると、俺の視界の外から女性の影が。


「コロッケ3つですね」


 ふいに現れた女性店員がコロッケを袋詰めし始める。

小さい紙袋に3つのコロッケをそれぞれ入れ込んで、こちらに寄越してくる。

俺はその間に、電子レンジから弁当を取り出して、袋に入れて、客に渡す。

続けて、コロッケを購入した客の清算対応に移っていく。



ただいま、18時過ぎ。



 仕事や学校帰りに当たるこの時間帯のコンビニは忙しい。

ましてや、この店は豊田市とよたし駅前にある。

ただ、周りは繁華街と住宅地なので、朝に比べるとマシな様に見える。

10年間慣れ親しんでいる仕事だから、そう思うだけなのかもしれないが。




 レジ打ちをしながら、もう1つのレジの方を見る。

若い女性店員が一生懸命対応しているのが見える。

彼女はまだ高校生。仕事を始めて半年も経っていない。

3、4か月の付き合いだが、彼女の表情を見て、テンパり気味なのはよくわかる。

それでも彼女がなんとか仕事をこなせているのは、先輩からのフォローがあるからだ。


先程、コロッケの袋詰めを手伝ってくれた彼女のことである。


 まあ、彼女・井川いかわさくらの手助けがあれば、問題はないだろう。

俺は新人を有能な後輩に預け、自分の仕事をこなしていくのであった。




 そんな怒涛の時間を抜けて、20時に仕事が終わる。

とはいえ、商品の発注とか、商品の出荷の状況などの確認が残っているので作業をする。

俺はイスに腰かけて、休憩室にあるパソコンを見ていた。

ついでに来月以降のシフトでも考えるか。


「今日もお疲れ様です」

後ろから声がかかる。長年の付き合いから、振り向かなくてもわかった。


「おう、さくらか。今日もありがとな」

繁忙期のレジ仕事もそうだが、毎度助かっているので、お礼を口にする。


緒方おがたさんこそ。里美さとみが抜けて大変なのに」

後輩が気を遣ってくれる。そして後ろから肩を揉んでくれた。


「あーそうだなー正直、きつい」


 6年間苦楽を共にしている後輩に、一瞬弱みを見せそうになる。

同じく6年戦士の斉藤さいとう里美さとみが長期の休みを取る、と言ってきて休暇中なのだが。

その彼女の穴はとても大きく、今の人員では容易に埋まらない。


「そういえば、今日、里美から連絡があった」

「え、何て言ってたの?」


彼女の表情は見えないが、声は弾んでる。詳細は知っているな、これは。


「あー、当分博多から帰らないってさ」

「うわー、里美、やりやがりましたねー」


俺の後ろで歓喜している。それに合わせて俺の肩を叩くのはやめなさい。


「ま、これで当分は、アイツなしで頑張らないといけないのだが」

ため息をつく。実際、ひとのやりくりが大変なのだ。


「あれ?やめるんじゃないの?」

さくらの顎が俺の右肩に乗ってくる。おいおい。まあ、いいんだけどさ。


「あんな貴重な戦力、手放す考えはないわけで」

「うんうん」


「アイツの彼氏、今、博多に出張だろ」

「うん」


「ならば、そのうちこっちに帰ってくるんじゃないかということで」

「うん」


「帰ってきたら、またウチで働きなって提案してきた」

「へぇー圭さんは知ってるの?」


「まあ、事後承諾でいいだろう、圭さんなら2つ返事で了承すると思うし」


 彼女と話をしながら、シフト表を作成する。

圭さんとは、この店のオーナー兼店長のことだ。


「それにしても、里美、見事に押しかけ婚、成功させちゃいましたか」

「結婚ではないだろう」


「似たようなものだよ。よし、次の女子会の議題、決定だね!」


 さくらは、長年付き合ってきた同僚の幸せを、皆で噛みしめるつもりのようだ。

仕事場の女性陣でさらし者にするとも言える。ご愁傷さまである。


「そういえば、堂本さん、どんな?」

女性陣という話から思い出したので、新人の高校生についての話題を振る。


「んー。慌てなければ大丈夫なんだけどねー」

「と、いうことは」


「うん。慣れてくると大丈夫かと。友美ゆみちゃんはできる子、使える子だよ」

笑顔でサムズアップをしてくる。顎はまだ俺の右肩に刺さっている。


「そうか、堂本さんが戦力になれば、楽になるな」


 俺は、ため息をついた。なんとかなりそうな予感。

パソコン画面の印刷ボタンをポチッと押す。横にあるプリンターが動き出す。


「さくら、来週もたくさん入れたけど、頼んだよ」

「任しておいて」


「そろそろ社員になってもいいんじゃないの」

「いやー社員はまだ、考えておく方向で・・・お願いします・・・」


 さくらは働き者。社員の俺と同じシフトで入っている。

里美が長期休暇を取りたいと言い始めてから、彼女の希望でそうなっている。


社員にはなりたくないみたいだ。


正直、バイトの方が稼ぎはいいだろうし、自由だから冗談程度でとどめておく。


「さあ、帰ろう。さくら、飯はどうする?」

「緒方さんの奢りでお願いしとうございます」


「マジか」

「マジであります」


「店の希望は?」

「高級焼き肉店」


「殺すぞ」

「居酒屋で」


「いやいやいや」


 貧乏コンビニ社員に集るのはやめていただきたい。

まあ、今までは運が悪いと、女性2人に集られていたので、まだいい方なのかもしれない。

いや、麻痺してるだろう。後輩の笑顔は嫌いではないんだがな。


「ま、街に繰り出して入ったことのない店いくかー」

「・・・とはいえ、駅周辺だと、目新しいものはないですけどね・・・」


俺の意見に真っ向から否定してくる彼女。確かにそうだが。


休憩室に1人、入ってくる。


「緒方とさくらちゃん、お疲れさん。明日もよろしくな」


 圭さんこと店長だ。腹が大きく出てて、頭頂部が若干寂しい。

最近は病院に言っているとかで、奥さんに食事管理をされているとか。


「先に上がります」

「お疲れでーす」


俺とさくら、2人で通り過ぎようとする。


「おう、夫婦でどっか行くんかい?飲みすぎるなよ」

店長はそう茶化してくる。これも日常会話である。無視するに限る。


「てんちょー、奢りだよ、いいでしょ?」


 さくらは、毎度そんな店長の茶化しの相手をする。

奢りと決まっていないのに、これである。まあ、奢るんだけど。


「うお、奢りか、緒方、たまには連れてけ」

「店長、酒飲んだら、夏美さんに怒られるでしょうが」


「ちくしょー」


 奥さんに怒られるから飲めない。かわいいダンナである。

結婚すると、皆そうなるのだろうか。

そういえば、俺の同級生たちも、奥さんに頭が上がらないと言っていた。


俺の場合は・・・?隣の女性を見る。


 仕事を含めて、いろいろ見てきているが、性格、容姿において、文句はない。

よくできた後輩だ。

里美に対しても、堂本さんや他の後輩たちに対しても、よく世話をしてくれている。

それでも。いやいや、ないな。俺に結婚はないな。自己否定する。




俺とさくらは、食事をするために、騒がしい夜の街に繰り出すのであった。

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