4.自由に笑えない!
試合は白熱していた! 北高との接戦で、応援も白熱! 応援にも熱が入り、キャー中沢くんかっこいい! ……三振しているところもかっこいい! と、私は黄色い声を出す側に徹した。
隙を見せない人もいいけれど、ああやって隙を見せてくれると守ってあげたい母性本能がくすぐられる! 応援しながら、私の目はずっと彼を追っている。あっ女子マネからタオルもらった! ああっ、飲みものも! 何か言って励ましてもらっているし! ムムム……。いや、いかんいかん。こういう時こそ、ニコッと笑顔を作るのが清純派として大切なことなのだ、と自分に言い聞かせたところで、横にいる部活の後輩が裾をちょいちょいと引っ張った。
「先輩、先輩」
「……ん?」
後輩は顔を近づけ、小声で教えてくれた。
「先輩、ちょっと……ニヤニヤしすぎです。」真顔の後輩に、私は聞く。
「……マジ?」
……本当だ。お手洗いに駆け込み水道の鏡で確認した私はため息をこぼす。
迂闊だった。清純派として、ニヤニヤはまずいよ。
そうやって、自分の笑顔と悪戦苦闘している間に、野球部は負けが決した。
私の応援が足りなかったのか、過去、我が校が経験をした数々の敗北の中の敗北……それを上回る圧倒的敗北……ベストオブ敗北を経験した野球部員は、私の目からすると一回り大人になったように見えた。監督を囲み、しょんぼりとしている彼を思うと、……いかん! にやけそう! と、私は妄想を自制した。
解散後、私の方に向かって歩いてくる、中沢くん!
気がつけばお互いに目が合った! 今日こそお疲れタオルを渡すんだ! そのまま手に持つタオルを握りしめてしまう。中沢くんを見つめていると、あまりの照れと恥ずかしさで目をそらしてしまう。ダメだ、ちゃんと顔を向けなきゃ!
「ありがとう」彼の差し出してくる手、私は心の中で覚悟を決めて、笑顔で渡そうと、タオルを差し出した。その私の横を通り過ぎた中沢くん。私は一時停止し、何が起きているのかと顔だけを後ろに向けた。私の少し後ろに立っている女子マネのタオルを受け取った中沢くん。ぐぬぬ……。とても口にはできないような罵倒の言葉が沸き起こる中、彼と目が合い、私はにこり。
そこへ、いつの間にか横にいた後輩が、小声で呟いた。「先輩、ニヤニヤしすぎです」
私は心の中で叫ぶ! うるさい! もう、こんなんじゃ、自由になんて笑えない!
その言葉は私の中で虚しく反響し、消えていった。