2.かわいく笑えない!
私には、どこにでもいるような家族がいる。ただ、両親ともにどこか抜けていて、よく忘れ物に、遅刻に、道に迷うことを繰り返している。私からすれば、人生の道に迷っている親をみて育った私と妹は、うかうかと後ろをついていくことができず、結果、早い段階で自分の道を歩み始めるのだと、授業の合間に見上げた空の下、そんなことをぼんやりと考えていたりした。
学校に行けば行ったらで、宿題の山積みに引きつる笑顔。正直笑えないよ。けれど、笑顔を見せなければ。私は高校生になった今度こそ清純派で通すつもりなのだ! こんなことで、笑顔を引きつらせていては、いけない! と、努力するが、その大半の時間は人目のつかぬうちに顔の筋肉がつりそうになり、徒労として終わった。
部活で疲れ果て、なんとか家に帰れば、父がおならでお出迎え。
「お、帰ったのか」
「……お願いだから、言葉の前にオナラしないでくれる」
そういった私に、父は丁寧におならで返事をしてくれた。
「あ、美雪、おかえりなさい」
その奥で料理をしている母は私の嫌いなニンジン料理を笑顔でお皿に持っているのが一瞬見えた。私は頭を押さえながら階段を登り、部屋に帰れば、妹がまた黙って勝手に私のものを借りていた。
私は肩にかけていたバックを落とした。
もう我慢の限界だ。今日これから起こることは、清純派への道を一旦忘れることで納得しようと自分に言い聞かせた。そうだ、この一瞬だけは、清純派一時停止なのだ。この一瞬は、この世界に存在しない時間なのだ、と。
そうして私は心置きなく荒ぶった。見つけた妹は、私を見てユキゴンと指差し逃げた。妹を追いかけ回しドタバタする音に、母が怒る。
「もう、あなたたち! こんな時間にドタバタするのやめなさい!」
父は、野球観戦に夢中になっているのか、声は聞こえない。私は捕まえた妹を、じわじわといたぶり、弱らせるようなことをした記憶は私には存在しないのだ。
「お母さーん! またユキゴンがいじめるー! 助けてー!」
「もったく! 何をやってるの!」
母の近づく気配、逃げようとする妹の絶叫。
……もう、こんなんじゃ、いつまでたっても可愛くなんて笑えない!
そう、この日も私は心の中で叫んでいたのだった。