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8話

「ヒロトくん、私と森の外に出てみない?」

「森の外ですか?」


 そんな誘いがカイラからあったのは、ハイアの群れに襲われてから三日後のことだった。

 あのあとからシャミアとの間では非常に気まずい空気が流れ続けていた。シャミアが雑談を振ることはもともとなかったが、ヒロトから話を振っても曖昧な返事しか返さず、もとよりヒロトから何かを話す回数が著しく減っていた。

 また、あれ以来、ヒロトがマナノキを見てまわることはなかった。集落の方へ出張って手伝いをするばかりだった。あのようなことがあれば仕方ないのだが、シャミアがヒロトに森の中をうろうろさせることを嫌がるからだ。禁じられてはいないが、ヒロトとしてはそれに近い空気を感じている。


「グリニーって町があるんだけどね、そこにいろいろ売りに行くのよ。ほら、ヒロトくん力持ちだから、ちょうどいいかなって」

「荷物持ちってわけですか」


 ヒロトは苦笑するが、遠出するのもいいかもしれない。グリニーで一泊することになるようで、シャミアと一日だけでも距離を置けば二人の間の空気が好転するきっかけになるかもしれない。


「わざわざヒロトを連れていく必要があるのかしら」


 一方でシャミアは反対する。たしかにあえてヒロトを連れていく理由はない。


「ほかに誰か連れていくのですか?」

「連れていかないわよ。どちらかというとジャムシッド様への挨拶が主になるから、たくさんの荷物を持っていかないし。ヒロトくんが森以外でも活動できるのか知っておく必要もあるでしょ」

「…………」

「そんな不満そうな顔しなくてもいいじゃない。用事がないようなら明日にでも行きたいんだけど、どうかしら」

「俺は大丈夫ですけど」

「なら決まりね。シャミアは持って行けそうな魔道具があるならまとめておくのよ。説明書付きでね。じゃあ、明日の早朝に来るから」


 カイラはそれ以上駄弁ることもなく、忙しいのか帰っていった。

 ヒロトはシャミアに尋ねる。


「よかったんですか?」

「……まあ、グリニーは治安もいいし、森の中をうろちょろされるよりはよほど安全だわ。それにしても明日だなんて急ね。私はやらないといけないことができたから、研究室に戻るわ」


 そして翌朝、カイラが来る前に朝食終えると、シャミアが荷袋を渡してきた。中にはマナノキの枝やシャミア作の魔道具とその説明書、そしてヒロトが仕留めたハイアの毛皮が入ってあった。毛皮は集落に住む住民によって丁寧になめされている。

 あとは護身、防犯用アイテムをいくつか渡された。

 最後にネックレスも渡される。木の芽のようなものがついたネックレスだった。


「これも魔道具ですか?」

「単なる装飾品よ。見ての通り、マナノキの芽を加工して作られているわ。もしも何かあったときはそれを売ればいいわ。お金になるから」


 マナノキは枝を切ることはあっても、芽を切ることはまずない。なぜならば芽の状態ではマナが蓄積しておらず、装飾品としてしか利用価値がないからだ。ただし、市場に流れることが滅多にない上に、形も美しいことから、装飾品としての価値は恐ろしく高い。


「ええ、そんなものを俺に渡してもいいんですか?」

「研究に使おうと思って死蔵していたものだから、ヒロトにあげる。腐らせても仕方がないでしょう」


 カイラがやってきて、出立する。シャミアは若干心配そうな顔をしていたが、「いってらっしゃい」とだけ言って、家の中に戻っていった。

 カイラから荷物を渡されるが、てっきり大荷物になると思っていたものの、それほどの量でもなかった。グリニーまでは徒歩で約三時間。長い時間歩かなければならないことを加味したのだろうか。

 いくばくか歩き、オードの森の外縁部までやってきた。


「ヒロトくんはマナのない世界からやってきたから、マナが薄くても平気だと思うんだけど、気分が悪くなったら言うのよ」

「わかりました。ところでカイラさんはどうするんですか? マナビトはマナの地では生きられないんですよね。魔道具があるとは聞いていますが」


 カイラが首にかけている球状の魔道具を指でさした。


「この魔道具がマナを放出しているのよ。これの周囲二、三メートルは疑似的にマナの地と同じくらいマナが濃くなるってわけ。一日で放出しきっちゃうから交換しなくちゃいけないんだけど。交換したとしても、最長で三日しか森の外には出られないんだけどね。理由があるみたいなんだけど、私にはよくわからないわ」


 カイラがヒロト用にと多めに魔道具を持参しているが、まずはなしで森に出てみることにする。マナビトならば大体一時間くらいで体調に変化が現れるようなので、町に着くまでにはヒロトがマナの地でしか生きられないかどうかがわかるだろう。

 森とグリニーの間には、道が整備されていて、二人はそこを歩いていく。年に一度か二度、オードの森でマナノキなどを販売しており、商人などが馬車で来られるようにするためだった。


「今日みたいにうちからも外に出ていくことはあるんだけど、どちらかといえばこれは商売のためよりも隣接する領地と有効な関係を築くためだったり、外の情報を集めるためよ。ところで、シャミアと何かあった?」

「え……」


 シャミアとのぎくしゃくした関係はお見通しだったようだ。

 ヒロトは観念してハイアの群れの件を話した。


「なるほどねえ。三日も連続で仕事の手伝いに集落に来てて、どうしたんだろうって思ったのよ。ほら、二日以上連続で来たことってこれまでなかったじゃない。突然力が湧いたこととか、怪我の治りが異常に早いこととか、謎なこともあるけど……。シャミアも過保護なのねえ」


 ハイアに噛まれた怪我は、翌日にはほとんどふさがっていた。傷薬がすごく貴重なものだったのではないかとヒロトは申し訳なくなったが、そんなことはないのだとシャミアも不思議がっていた。

 そもそも噛み傷が深くなかったことも合わせて、不可思議なことが多い。


「過保護っていうか、別に普通のことですよ」

「そんなことないわよ。シャミアに大事にされてるみたいで、安心したわ。うまくやれてるのね」

「……大事にされてるんですかね」

「されてなきゃ、マナノキの管理をやめさせられたり、ぎくしゃくなんてしないわよ。壁や距離を作ってしまうあの子の性格を考えればね」

「そうですか」

「ハイアの群れのことは、避けようがなかったのはシャミアも頭ではわかってるだろうから。感情的になってしまうことはあっても、そればっかりではないわよ。ぎくしゃくしてるのは自分が言いすぎだと後悔してるからじゃない? いまは単に言いだせないでいてもやもやしてるだけよ。気長に待ってあげるか、言えるような雰囲気を作ってあげることね」

「待つのはともかく、雰囲気作りは難しいですね」


 ヒロトとしても、シャミアが一方的に自分のことを責めているとは思っていなかった。カイラが言うように、言いすぎだと反省しているような感じはあった。

 それでも態度を改めないのは強情なだけだと思っていたが、たしかに人と接することが苦手なシャミアならば単に言いだせないという方がしっくりくる。


「ところで、グリニーではどういう予定になってるんですか」

「領主に挨拶するのと、持ってきたものの売却ね。あとは買い物。宿には止まらずに、領主館に泊まることになるわよ」

「宿とかじゃなくて、領主の家ですか? それはまたすごいですね……」


 ヒロトは言葉を失うが、マナビトの重要性を考えればおかしなことではない。

 マナの地であるオードの森に隣接しているグリニーを要するフルー領は、マナノキおよび魔物関連の物品の入手が比較的容易であり、また仲介もしていることから、他領に比べて経済が上向いている。マナの地の恩恵を十分に受けているのだから、今後も良好な付き合いを継続していくために、それ相応の対応をマナビトにするのは当然といえた。


「マナビトを誘拐して、強引に交渉するっていうのも考えられなくはないしね。マナの地はどこも外部との接触を好まないのよ。オードの森もフルー領ともう一つ隣接しているアルワ領と小さな付き合いしかしてないし。森に余所から人が来るってことはないでしょ」

「俺は見たことないですけど、密猟者はいるみたいですが」

「魔道具の発展も善し悪しよね。マナビトがマナの地の外に短期間出られるように、その反対もありえるようになってしまったわ。そういった魔道具が裏で少量出まわり始めたみたい」


 オードの森にも密猟する者が見つかっており、増加傾向にあるようだった。

 なお、捕まえた密猟者は首を切られることになる。

 早朝に出立したため、午前中にはグリニーに到着することができた。結局、体に変調をきたすことはなかった。


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