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カノジョノシレン

 勉強してみよう、SEXのこと。

 そうすれば眼前の問題はすべて解決!

 あたしたちの関係も、今よりももっともっとよくなること間違いなしだ。


 思い立ったが吉日。

 大学の講義を終えたあたしは買い物もそこそこに家に帰ると、ちゃちゃっと夕ご飯の準備を整えて、愛用のタブレットを取り出した。

 今日のユキはアルバイトで遅くなるハズ。

 帰ってくるまではたっぷりと時間もある。

 それまでにしっかり勉強して、それを今夜――


 むふ、むふふふふ……!




「よーし、燃えてきた!」


 気合い注入。

 俄然やる気が沸いてきた!

 ベッドに寝っ転がり、タブレットを操作。

 まずは何から調べよう。

 とりあえずは、そうだなぁ……。



『SEX 男 イケない 理由』



 やっぱこれだよね。

 あたしたちの――というより、あたしの課題。

 それはユキを気持ちよくさせてあげられてないことだと思う。

 あれだけ動いてくれて、あたしをいっぱい感じさせてくれて。

 でも、そんなに頑張ってくれてるのに最後までいけないのは、きっとあたしに原因があるんだ。

 だから、まずはそこをなんとかしないと!



『あなたとのHでカレがイケない3つの理由』



 あ、なんかいいサイト発見。

 オシャレなつくりだし、タイトルからして女性向けかな?

 思いがけず当たりっぽいページを見つけて、あたしの胸はときめいた。

 よし、早速情報を集めますかね。

 大学の講義以上に真剣モード全開で、食い入るように画面を眺める。

 ここに、あたし達の問題を解決するヒントがあると信じて――



『その1 身体的理由 ~カレは遅漏かも?~』



 うん。

 いや、その、あまりにも身も蓋もなくない? 

 遅漏ってアレだよね、出るのが遅いってやつ。

 それくらいはあたしも分かるよ。

 大丈夫、分かる分かる……。




 って、納得しちゃダメだろ!

 そのままじゃん!

 確かに理由かもしれないけど、むしろそれが分かってどうしろっていうのさ。

 ただそうは言っても、いざ自分の彼氏がそうだと断定されてしまうのは――というか、あたしが勝手に断定してるだけだけど、とにかく、そうだと認めしまうのはなんとなく抵抗がある。

 そりゃ、早すぎるよりはいいのかもしれないけどさぁ。


 だって友達に言える?

「あたしの彼氏、遅漏なんだよ」って。

 普通ムリでしょ!

 呟いても“いいね!”とか絶対もらえないよね!


 まあ、でもここでこうやって唸っていてもしょうがない。 

 その場合の対処法を見てみないと。

 あたしはおそるおそる、“第一の~”と書かれたタブを押してみる。

 次に現れたページ、その一番最初に書かれていたのは、



『遅漏の一番の原因は、間違ったオナニーです』




 ……。



 ……うん。


 

 思わずタブレットを放り投げたくなる衝動を必死に我慢し、あたしはそっと目を閉じた。

 

 え、なになにこのサイト。

 あたしに喧嘩売ってる?

 あたしのユキへの気持ちの強さを試そうとしてる?

 いやいやいや、おかしいでしょ!


“あなたの彼氏は遅漏です”


 と来て、


“その原因は間違ったオナニーをしているからです”


 だよ?

 悪意しかなくない、これ?


 こんなんさ、


“あなたのカレがイケないのはカレが間違ったオナニーをしているから”


 でQED(証明完了)じゃん!

 なんなの、QEDとEDをかけてんの!?

 山○君座布団一枚とかやりたいわけなの!?


 っていうか、そもそもユキは遅漏であってEDじゃないんだからあッ!!



 思わず叫びそうになったが、とりあえずは手元にあった枕を何度もパンチしてみて衝動を逃がす。

 

 オーケーオーケー。

 びーくーる、ビークール、BE COOL。


 落ち着けあたし。

 いや、大丈夫。

 もう落ち着いてる。


 ほら、前に聞いたことあるじゃん、女子会で。

 男の子は年がら年中発情期!

 毎日ムラムラしてる生き物だって!

 健全な青少年なら当然オナニーくらいはするでしょ。

 うん、普通普通。

 あたしのユキはおかしくない。 

 


 ……でも、えー?

 あいつ、そんなことしてたのかなぁ。

 明らかにそういうことあんまり興味なさそうな感じだったけど。

 同棲してからこっち、部屋でHな本とかDVDとか見たことないよ?

 PCだって一緒に使ってるけど、変なサイトを見てる形跡も全然ないし。

 ティッシュの消費量が凄まじいとか、そんなことも全然……。

 


 さんざん首を捻った末、あたしは小さく息を吐く。

 まあいいや。

 そんなことを探ってみても意味はない。大事なのは“今まで”ではなく“これから”だ。

 ユキが遅漏だとして、かつ一風変わったオナニストだとして、それを直すにはどうしたらいいんだろう。


 あたしは再びディスプレイに向き合い、ページをスクロールしてみた。

 



『カレの遅漏を直すには ~正しいオナニーをするように指導する~』


 


 直後、宙を舞った情報源タブレット

 それはもう見事な空中十数回捻りを披露し、ボフッとシーツに落下したソレを拾い上げるより先に、あたしの心は吠えていた。



 はい、無理!

 出来るか、そんなこと!!

 いや、そんな指導をあたしがするのっておかしくない?

 あたしが逆の立場だったら絶対無理だよ。

 シテる最中、ユキがじっと見つめてて、


「ダメだって、ハナ。そんな強く触ったら。もっと優しく、こういう感じで……」


 なんて手取り足取り教え--




 うわぁあああああああああああああああああ!!!!


 ダメだ、これ以上想像できない!

 のぼせすぎて鼻血でちゃう!!

 浮かんだイメージを賢明に振り払い、あたしはディスプレイを拾い上げた。

 ダメダメダメダメ、ほんとダメ!! 

 これはナシ!

 絶対ナシ!!

 それ以外の対処法は……。



『~カレの遅漏を治すには② 薬を飲む~』



 うん、そうだよね!

 そうくるよね!! 

 でも残念ながらそんな時間ないんだ、今!

 まあ、どうしてもってなったらその時かなぁ!!


 あたしは半ベソをかきながら、そのままシーツに突っ伏した。






 さて、とりあえずこの問題は解決できそうにない。

 他の問題にあたってみよう。



『その2 精神的理由 ~あなたのカレはHにトラウマ?~』



 トラウマかー。

 なんだろ、よく分かんないなぁ。

 さっきとはうってかわって真面目っぽい回答に、あたしもまた冷静さを取り戻す。

 トラウマなんて言われれば確かに心配だし、これはちょっと落ち着いて読んでみよう。

 そう言い聞かせ、次のページをスクロールしてみると、


『過去のHでの失敗が原因かも』 


 失敗?

 どういうことだろ?

 これだけではよく分からない、続きを――


『Hの時、「下手」とか「痛い」など、不満をありのまま口に出し過ぎてしまうと、カレは傷つきHへのトラウマが芽生えます。同様に「まだ?」と繰り返し聞くのはカレの焦りにも繋がりますし、「もう出たの?」と失笑してしまうのはカレの自身を大きく傷つけます。特に「小さい」とか「大きすぎる」、「形が変」といった、カレの体を直接避難するような言葉は絶対に避けましょう』



 う、うーん?

 これはどうなんだろう。

 言ってない……と思うんだけどな。

 だって、ユキってばああ見えて意外とテクニシャン(?)で油断するとすぐいっちゃいそうになっちゃうし、Hの最中はずっとあたしのこと気遣ってくれるし、大きすぎて痛いなんてことはないけど小さくて物足りないなんてこともない、絶妙にジャストフィットなサイズ感だし、形が変――いや、これは他の人のなんて見たことないから分かんないけど、とにかく捻れてるとだとかジグザグしてるとか、そんな前衛芸術チックなフォルムは全然してないし、確かに遅いけどそれを咎めるようなこと、あたしは口にだしてなんて……。



 いや、でも待てよ?

 事実としてイケないSEXが続いてて、それが原因でギクシャクしたりしてるんだから、やっぱトラウマ化してるってので間違いない……のか?

 出来てないからトラウマになって、トラウマのせいで出来なくなって……。


 あれ?

 でもそもそもイケないのはトラウマのせいなんだよね?

 じゃあそのトラウマはどっから……???


 あ、ダメだ。

 よく分かんなくなってきた。

 なにコレどっちが先なの?

 なんか卵が先かひよこが先かみたいな感じになってきたんだけど。



 ……。

 …………。

 ………………。



 よし、考えるのヤメた!!

 とりあえず、この問題はクリアーしてる――と思う!

 何より、これ以上考えたら頭がバカになっちゃいそうだしね。  


 次だ次!

 


『その3 技術的理由 ~あなたのSEXは本当に気持ちいい?~』



 お、おおっふ……!

 技術的理由だって、技術的理由。

 テクか、テクニックというやつか。

 いよいよ来たよ、本命が。


 そうだ、そうだよ!

 あたしはこれを待ってたんだ。

 鈍感な男の子でもあっという間に昇天させちゃう奇跡の技。

 それを身につけるために、あたしは幾重もの精神攻撃を乗り越え、ここまで――



 でも、次の瞬間。

 目に飛び込んできたのは予想とはまったく異なるもので、




『締め付けが弱いと、男性はイキたくてもイケません。あなたのアソコはユルユルのガバガバになっていませんか?』




 ……。



 ねぇ、ユキ……。



 あたし泣いてもいいかな。

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