カノジョノコレマデ
あいつ――ユキと付き合いはじめて、今年でもう二年になる。
ただ、それはあくまで男女の関係になってからと言うコト。
初めて会ったのは二十年近くも前、それこそまだ物心つくかつかないかくらい、昔の話だ。
ユキは誰に対しても面倒見がよく、気配りもできて……。
普段は冷静だけど内には熱いものを秘めている、そんな男の子だった。
顔立ちも整って――というか、昨今流行の塩顔男子な感じで家事万能。
まあ基本物静かな上、愛想だけはあんまりよくなかったような気もするけど、それを差し引いても女の子たちの評判は上々だった。
とはいえ、あたしも最初から意識してたわけじゃない。
そんなマセた少女時代を送っていたら、あたしの人生ももっと華やかになってハズだ。
あいつはただの幼なじみで、ただの友達で、ただの親友。
一番仲良しで一番身近な同年代の異性。
それ以上でも、それ以下でもなかった。
もしタイムマシンなんてものが実在して、過去の自分に会えたなら、あたしは昔の自分に言ってやりたい。
「あたし、あいつと恋人同士になるんだよ」
どんな顔をするだろう?
きっと信じないよね。
想像すらしたことないと思うよ。
だって、事実そうだったから。
ユキのことを異性だって意識して……。
そこから先は早かった。
“焼け木杭に火がつく”――は違うか。
なんか上手な表現が浮かばないけど、意識しだしたとたんあいつが持ってた雰囲気とか、性格とか、仕草とか。
とにかく見知ったはずのユキのすべて……。
長所も短所もそのすべてが愛おしく、素敵に感じられるようになったんだ。
ホント、“恋は盲目”とはよく言ったものだと思うよ、まったく。
ただ、生憎とユキは朴念仁っていうか草食系っていうか……。
とにかくそういうことへの関心とか積極性が、ほんのこれっぽちもないうえに、超弩級の天然&鈍感男子だったから、とにかく口説き落とすのには苦労した。
つけ加えるなら、あいつを狙うライバルも多かったし、あたしはあたしでそういう女の子たちからの受けがいいという、なんともよく分からないポジションだったことも、気苦労を助長させていた気がする。
まあ、表面上は出さないようにしてたけどね。
“明朗闊達”ってのが、あたしの武器なんだって、そう自覚してたから。
恋はもちろん大切だけど、それで友情を壊したくない。
ましてや学校の女子を敵に回すなんて、そんな恐ろしいマネは絶対ゴメンだった。
なにせ、女の子って一度拗れると結構、メンドクサいし。
今にして思えばあの時ほど、自分の立ち位置やら人からの視線やらに気を使いながら生活した時間はなかったんじゃないかなぁ。
我ながら、よく辛抱したものだとつくづく思う。
これも愛のなせるワザ……って感じなのかな?
でも、そうした重圧下でもめげることなくアプローチし続けたことが効を奏したのか、あたしの念願はめでたく叶った。
ただ、まあ。
なんというか……。
「ありがとう。……実は俺も君のこと、ずっと好きだった」
とかユキが返して来たときには、
「いや、あんだけさんざんアプローチしたのにはっきり告白されるまで気付かなかったわけ!? 鈍感すぎない!?」
なんてツッコみ入れたし、
「そもそもあんたも男の子なら、自分から告白しようとか思わないかな!?」
って詰め寄ったりもしたけどさ。
いや、だって普通そうでしょ?
あたし全然間違ったこと言ってないよね!
あ、そだ。
あと付け加えるとしたら、
「え? あんた達って両思いじゃなかったの? とっくに付き合ってたんだと思ってたよ」
なんて周りに言われたときには、「あたしの苦労を返せ!」と憤慨したりもしたな、そういや。
まったく、そう思ってたならもっと他を遠ざけてよね。
あと、堂々とあたしの前でユキへの好意を語るな。
そんな感じで。
まあ、でもここまで色々振り返って……。
そのほとんどが過去形なのは、なんとも言えず心苦しい。
ああ、勘違いしないように訂正しておくと、あたしは別に冷めたりなんてまったくしてない。
今でもユキのことは大好き。
愛してるって、たぶん真顔で言えるくらいにはね。
でも、向こうはどう思ってるんだろう。
あたしのこと、まだ好きでいてくれてるんだろうか。
もう別れたいなんて思ってないだろうか。
そんなことばかり、最近はつい考えてしまう。
その度、苦しくなる胸に手を当てながら。
きっかけはやっぱり……、“アレ”だよなぁ。
恋人たちのスキンシップ。
特に、まだ若いあたしたちみたいなカップルにとっては夜の定番。
――SEX。
それが上手にできてないことが、きっと今。
あたしたちふたりにとって、最大の問題になってる。