第三話
俺の両親は二人とも軍人だ。
俺が物心つく前から忙しく、家をあけがちだった。
それでも、俺と妹は両親のことを慕っていた。
休みの日は家族と過ごす時間を大切にしていたし、何より二人とも仲がよかった。
そして十年前、家にいた両親のもとに『緊急事態』の連絡がきた。
両親は大急ぎで現場に行ったのを憶えている。
その日の夜中に帰ってきた二人は「化け物があらわれた」とだけ言っていた。
そりから数日して、両親は軍が新たに作った特殊部隊『JSF』の配属になり、そりからは二人とも『JSF』で活躍している。
そんな二人の背中を見て育った俺は、自分も『JSF』に入りたいと思うようになっていた。
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「お前たちには今から、ある映像をみてもらう」
赤ぶちの眼鏡をかけた、気の強そうなおねいさんはそう言った。
そして俺たちは、壁に埋め込まれたモニターに注目した。
なぜこうなったかというと、それは一時間前、俺と凛華が『JSF』に着いたところから始まる。
俺と凛華は『JSF』に着いてすぐ、目の前にある建物に入った。
そこにたどり着く前にパッと周りをみてみたが、めちゃくちゃ広い。
話には聞いていたが想像以上だ。
そして建物の中も広くてキレイ。
「スゲーなココ!」
つい口に出して言ってしまった。
「そうね、とても広くてキレイだわ」
凛華もそう言っていた。
俺たちは受付のおねいさんに道を聞き廊下を進んでいた。
「軍の施設だからもう少しゴツいイメージだったけど、以外とキレイだな」
「ゴツい……?まあいいわ、でも確かに思っていたよりもキレイだわ」
「あ、そうだ!次の道どっちだっけ?」
「え?ああ、コッチよ」
などと話しながら歩いていた。
──あれ?
窓から見える景色がさっきと同じような気がする。
「なあ凛華、受付の人に聞いた道コッチであってるよな?」
「え?ええ。あ、次はコッチよ」
「あの、凛華さん。この道さっきも通った気がするんだけど」
「キ、キノセイジャナイカシラ」
「なんでカタコト!」
ここまできて、迷子になって遅れましたなんてシャレにならんぞ。
「なあ、道を戻ってもう一度場所を聞こう!」
「だ、大丈夫よ。ほらあそこ、扉が見えてきた!」
「いやさっきも見たってあの扉!会議室って書いてあったよ」
「じゃ、じゃあ次はコッチ!」
「いや、むやみに進んでもダメだろ!」
結局、偶然通りかかった職員の人に試験会場まで案内してもらった。
なんとか会場までたどり着き、中に入るとすでにほとんど席が埋まっていた。
「よお~お二人さん、そんな所突っ立ってないで座ったらどうだ。オレの隣あいてるぜ」
そう話しかけてきた奴がいたから、俺と凛華でソイツの隣に座った。
「よう、オレの名前は的場たかしっていうんだ。よろしくな」
「俺は白銀剣児だ。それでこっちが─」
「一凛華です」
「剣児に凛華ね……。よし、覚えた」
そう言って自分の額をトントンと人差し指で叩いていた。
「えっと、的場だっけ──」
「たかしでいいぜ。あ~たかしは平仮名で『たかし』って書くから覚えておいてくれよ」
「あ、あぁわかった」
「それじゃお互い自己紹介も済んだし、これから仲良くしようぜ」
「わ、わかったよ。よろしく」
「おう、よろしく」
かなりマイペースな奴だが、悪い奴ではなさそうだ。
「ところでお二人さんは何、恋人かなんか?」
「こ、恋人!?」
凛華が俺の横で驚きの声をあげた。
「いや、違うよ。今朝知り合ったんだ」
「そ、そう、違うわよ!」
自分でも違うとは言ったが、ここまで全力で否定されると少し傷つくな。
「え?なんだ違うのか、仲が良さそうだったからさ」
などと話していると、会場の扉が開いて赤ぶちの眼鏡をした、気の強そうなおねいさんが入ってきた。
「お前たち、静かにしろ!これより入隊試験を始める」
ついに、俺たちの入隊試験が始まるのか。
「……と、言いたいところだが、お前たちには今からある映像をみてもらう」
そう言っておねいさんは、ポケットから何かのリモコンを出して操作をし始めた。
すると、大きなモニターに映像が映し出された。俺たちはモニターに注目した。
『こちらアルファチーム、本部応答せよ』
『こちら本部、アルファチームどうかしたか?』
どうやら『JSF』のチームの映像のようだ。
『只今目標と戦闘中、相手の数が多いため増援を寄越してくれ』
『了解した。今からそちらにベータチームを送る』
『よろしく頼む』
映像は着々と進んでゆく、すると、いきなり画面の中で大きな爆発が起こった。
『ぐああぁぁぁ』
『こちら本部、何があった!』
『只今、敵に攻撃を受けた、増援はまだか』
『今向かっている、もう少し持ちこたえろ』
『しかし、くっ……この化け物め!』
映像の中で何かが腕を振り上げるような動きをする。
『ぐえっ』
そして、腕を振り下ろすと同時に、喋っていた隊員の潰れたような声が聞こえた。
『こちら本部、応答せよ!繰り返す応答せよ!』
そこでモニターの映像は終わっていた。
「今、この映像を見て怖じ気づいた者は、今すぐここから去れ!」
おねいさんの声が、静まり返る会場に冷たく響いた。