第ニ話
2096年─世界中の空に、突如として大きな黒い穴があいた。その大きな穴からは、今まで誰も見たことのない姿をした『何か』が現れた。
その『何か』は、人を襲い、動物を殺し、建物を壊していった。
そして、その『何か』は、時間がたつと穴の中に吸い込まれるように消えていき、それと同時に穴も消えた。
しかし、またどこかの空に黒い穴が現れ、『何か』がまた現れるようになった。
人々はその穴を『扉』と名付け、『何か』のことを『スナッチャー』と名付けた。
そして、それから10年もの月日がたつうちに、人々は『スナッチャー』と対抗するための手段を生み出し、その力を持って『スナッチャー』に戦いを挑んだ。
そして、その戦いは今も続いている。
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俺と凛華はいま、同じバスを待っている。
バス停に向かう道中、話をしていると、どうやら二人ともバスでの行き先も同じだということがわかったのである。
そして、二人とも『入隊試験』を受けにいこうとしているのである。
「なあ、凛華」
「なに、ケンジ?」
何となく暇だったので話しかけてみたものの、特に話すこともないので、黙り込んでしまう。
さて、何を話そう?
お互い、親しく名前で呼び合ってはいるが、ついさっき知り合ったばかりなので、話すことがない。
「だから何よ、ケンジ!」
怒ってる。怒った顔もかわいいな。
「いや、話しかけたけど何を話そうか思いつかなくって」
「なによそれ、話すことがないなら話しかけないでよ」
「悪かったよ、ちょっと沈黙にたえかねただけだから」
「ふんッ」
余計に怒らせてしまった。
でも仕方がないと思う、何故なら俺、白銀剣児18歳は、今まで妹以外の女の子と話をしたことが無いからだ。
どうしろっていうんだよ、今ここに『女の子と話す為の本』みたいなのが有るわけでもないし、かといって妹と普段話すことを喋ったって仕方が無いしなぁ、どうしよう、本当にどうしよう。
などと考えているうちにバスが来たのでそれに乗り込む。
何故か隣に座ってきた。
「なあ凛華」
「なに、ケンジ」
「何故となりに座る?」
「なぜって、隣の方が話しやすいからに決まってるじゃない」
だから、話すネタが無いんだって。
「ねえ、ケンジ」
「なんだ」
何を話そうかと悩んでいた俺に、凛華の方から話しかけてきた。
「どうしてアナタは『JSF』の入隊試験を受けにいくの?」
「どうしてって言われてもな」
JSF─『日本特殊部隊』のスペルの頭文字で、『ゲート』から現れる『スナッチャー』と戦っている特殊部隊のことだ。
「恥ずかしいからあまり言いたくはないんだけど」
「教えて」
………はぁー、しょうがねえな。
「わかったよ、でも、笑うなよ!」
「うん」
「俺の両親は二人とも、『JSF』の隊員なんだよ」
凛華は素直に「そうだったの!」と驚いていた。
「それで俺も『JSF』になりたいって子供の頃から思ってたんだよ」
今度は「へぇー」と素直に感心していた。
「私は、今の話を聞いてアナタを笑ったりはしないわ」
と言ってくれた。
実はいい子だったんだな、じゃあ何で俺はさっき『変態』呼ばわりされたんだ。
「じゃあ、俺からも聞くけど、お前はどうして『JSF』に入隊試験を受けにいくんだ」
「私は……」
言葉をつまらせてから、何かを決意したような顔で凛華は話しだした。
「私は十年前、『スナッチャー』に両親を殺されたの……」
「そ、そうだったのか、なんか悪いこと聞いちゃったな」
「ううん、いいの。私からふった話題だし。」
凛華は少しうつむきながら言った。
「だからね、もう二度と私みたいな思いをする人を増やしたくないと思ったから、私は『JSF』の入隊試験を受けるの」
「そうか、それじゃあお互い頑張ろうぜ」
凛華は少し迷ったような顔をしてから、笑って答えた。
「うん」
そして、バスは『JSF』の試験会場に到着した。